雪歩が過去の壁を壊す時

第18話 揺れる世界と椋の怒り

昼休みの昼食中。

椋がこう言ってきた。

私は.....貴方が別の学校に行った事.....とても嬉しかったと同時に悲しかったんだ、とポツリと呟く様に、だ。


俺はその事に、そうだね、と言いながら椋を見る。

椋は、でもこうして付き合えた。それはとても幸せな事なの。私にとっては、と言葉を発してくる。

そして、貴方がやっぱり好き、と言いながら俺を見上げてくる。

赤い顔で、だ。


「好きになるって不思議だね。.....私はかけっこだけで貴方に惚れた。.....本当に不思議だよ。.....でも好きになって良かった」


「俺も君の事.....大好きだ。そんな優しさで包んでくる君が、だ」


「以心伝心だね」


「何もしなくても伝わり合うよ」


そして俺達はクスクス笑った。

それから笑顔でまたイチャイチャする。

そうしてから教室に戻ろうとした時。

俺は目の前から歩いて来る女子を見て驚愕した。

何を驚愕したかと言えば.....コイツは。



「何アンタ。田中じゃん」


「.....お前.....茨城じゃないか.....!?」


「.....この学校だったなんてね。それにアンタも。髪引っ張った事忘れてないから」


「それはお互い様でしょう。.....貴方のやった事はもっと酷いから」


へえ?言う様になったじゃない、と言って来るこの女。

コイツは.....茨城泉(いばらきいずみ)。

ロングヘアの癖にお淑やかさは無く口答えが悪い。

そして俺は冷や汗が出る。


顔立ちも嫌に整っているが.....、と思いながら茨城を見る。

コイツだけは会いたくなかったな.....今になってまさかだった。

転校して来たって事か.....。


「.....何故貴方がこの場所に居るの」


「私、転校して来たんで。.....それで居るんだけど。何か?」


「ああそう。.....じゃあ行こうか。田中君」


「そうだな」


言いながら歩くとすれ違い様にこう言われた。

アンタの様なゴミクズがこんな場所に居るとはね、と。

その言葉に1番にキレたのがなんと田中だった。

そして首藤も一緒だ。


「偶然とやって来てみたらお前さん.....どっかで見た顔だな」


「それな。首藤」


「は?誰?」


俺は田中。

んでこっちは首藤、と紹介しながらも。

まあどうでも良いけどそんな事は、と言いながら真顔になる田中と首藤。

それから、そいつイジメんなら容赦しないからなお前、と言う。

かなり喧嘩腰だ。

ちょっと待て知っているのか?この女を。


「まあ知ってるぜ。.....お前は雪歩を振った女だろ?それもやり方がクソ最低な。最低な野郎だと思っていたけど割とガチに最低だな」


「おーそうそう」


「は?初対面の女に対してマジに何言ってんの?アンタら。だっさ」


「そっくりそのまま返すぜ。お前の方がダセェんだよ。大体イジメとかする馬鹿が情けない」


田中と首藤と茨城はバチバチと火花でも出しそうな感じだ。

俺は慌てながらその2人を止めようとした時。

止め止め。くっだらない、と言いながら茨城が声を出した。

それから俺達を睨む。

そして、キモい奴にはキモい奴が絡むんだね、と言いながら去って行く。

田中が鬼の形相で、は?、と威圧する。


「俺達は少なくとも良いけどな。.....その2人を馬鹿にするんならマジに容赦しねぇからな。イジメすんなよ。.....お前の事フルボッコにするぞ」


「.....女とはいえ容赦はしない」


「はっ。まあ良いけど」


言いながらそのまま吐き捨てる様に去って行った茨城。

俺はその姿を見ながら盛大に息を吐く。

そして胸に手を添える。

心臓が脈打っていた。

激しく、だ。


「.....大丈夫?田中君」


「ちょっと怖いかも」


「.....じゃあ私が握ってあげる。手を」


「うん.....」


ったく忌々しいクソ顔を見てしまった、と笑みを浮かべる田中。

それから、確かにな、と言いながら首藤は背後を睨む。

そして、まあ安心しろよ。俺達居る限りは絶対にお前に手出しはさせないから、と笑顔を浮かべた。

つーかさせるかよ、と言いながらも、だ。


「.....保健室行くか?」


「.....大丈夫だよ、首藤」


「.....本当か?.....なら良いけど」


「.....田中も有難うな。マジに」


いや。全く問題無いけど、と田中は笑顔になる。

それから、だけどクソ忌々しいな、と言いながら俺達は帰る。

そして手の震えを.....椋が支えてくれた。

イジメ.....か。


あの女がまた俺達の前に来るとは、な。

偶然にも程がある。

思いつつ、だ。

クソッタレ、だ。



幸せをぶっ壊す様な奴には会いたくないものだな。

思いながら俺は放課後を迎える。

今日は進路指導とかあって疲れたな。

そう思いながら田中と首藤を見る。

田中は、今日はどうするよ、と話している。


「.....今日は椋と一緒に帰ろうかな」


「.....そうか。.....クソ女に会わん様にな」


「俺達も気を付けるが」


「.....有難うね。お前ら」


「掃除当番もあるし。俺は残るから先帰ってくれ。首藤」


「あいよー」


言いながら俺達は別れつつそのまま帰宅.....出来なかった。

何故なら帰り道の目の前に茨城が居る。

ニヤニヤしながら立ちはだかっていたのだ。

なんだコイツは次から次に。


「貴方しつこいんだけど。茨城」


「.....はっ。随分と強くなったじゃない。アンタ」


「いやいや。強くなったんじゃないけど。大人になったんだよ」


「.....それはつまり私がクソガキって言うの?アンタ本当に生意気ね」


真顔で言う茨城。

挑発にも程がある。

俺は少しだけ睨みながら茨城を見ながら自律神経の乱れを感じた。

暑くなってきてしまう。

困ったものだ。


「行こうか。雪歩君」


「そ、そうだね」


言いながら俺達は歩き出したが。

その道を茨城が遮る。

生かせない、的な感じで、だ。

その事に段々と椋が腹を立てて来ているのに気が付いた。


「.....退いて」


「退かない。っていうかアンタら付き合ってんの?ださっ」


「.....茨城!もうその辺にしてくれよ!」


俺は必死に頼み込むが。

茨城は退かない。

このクソ女、と思いながら居ると.....茨城が退いた。

それから俺達を見てくる。


「まあ丁度良い機会だし教えてあげる。.....アンタら本当に付き合いが似合ってないから」


「.....」


そんな感じでケラケラ言いながら茨城は去って行った。

俺は心臓の脈打つ鼓動を感じながら.....必死に抑える。

いけない.....かなりドキドキする。

思いながら椋を見ると。

椋はかなり怒りながらの中だったが俺を心配してきた。


「私達がいれば.....あんな奴大丈夫だから。.....君を絶対に守るからね」


「本当になんであんなのに初恋が向いたのか不思議だよ。今となっては」


「.....そうだね。.....でもあんな女はもう忘れよう。.....私だけ見て。大丈夫だから」


「.....うん」


でも心臓が痛い。

肋間神経痛の様に、だ。

困ったものだな。

考えながら俺は.....去る茨城の背後を見ていた。

馬鹿野郎の背中を、である。

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