第11話 椋と雪歩とアーン

音無にいきなり呼び出された。

スマホのメッセージで旧校舎の屋上。外に来てほしい、と。

俺はそんなメッセージを頼りに旧校舎の有る東棟の屋上までやって来てみた。


田中と首藤には、用事が有ると。先に食っていてくれと伝えて、だ。

改装前の学校の建物があるのだ。

すると.....屋上に音無が手を振りながら待っていた。


「田中君」


「.....どうしたの?音無」


「えっと.....お弁当作ってみたの。.....メニュー開発に協力してほしいかも.....って。.....で、でも勘違いしないで。このお弁当は愛情を込めたから」


「そ、そうなの?」


「う、うん」


お弁当って.....まさかとは思ったが。

と思いながら見ると確かに2つの布。

それぞれが赤色と青色に包まれた.....お弁当があった。

俺は赤面しながら.....音無を見る。

よく見ると臨時でしたのか髪型が変わっている。


「.....髪型.....似合う?」


「それって.....もう変えたの?」


「うん。まあでも直ぐに解けちゃうけどね。.....臨時で整えただけだから。.....貴方の好みに」


「.....とても良く似合う。綺麗だね」


「ほ、本当に!?う、嬉しい」


音無は嬉しそうに頬に手を添える。

俺はその姿を見ながら赤面した。

それから、でもその音無。俺との関わり合いを持つのはマズいって言ってなかったかな、と聞いてみる。

すると音無は、うん。でも待ちきれない、と笑顔を浮かべる。


「.....だって私は貴方が好きだから。恋人だから」


「.....そ、そう.....」


「だからもう良いかなって思って。散々待った分.....」


「分かった。うん.....有難う」


音無は笑顔で俺を見てくる。

俺はその姿に笑みで返してみる。

すると音無は、じゃ。じゃあ隣座って。早く、と言ってくる。

少しだけ赤くなりながら俺は、じゃあ失礼します、と座る。


「.....お弁当。.....美味しかったら.....良いけど」


「有難う。音無」


「.....うん。全然平気」


「青色の方?」


「そう。青色の方」


それからお弁当箱を開けてみると。

そこには和風な感じで煮物やお魚そして昆布巻きなどが並んでいた。

俺は、美味しそうだね、と言いながら音無を見る。

音無は、うん。そうだね。メニュー開発に協力とかゴメンね。変な事を言って、と少しだけ複雑な顔をする。

俺は首を振った。


「一緒に協力出来る事が嬉しい。.....君のお店の為にね」


「も、もお。馬鹿」


「ふふっ。じゃあ食べようか」


「そうだね。.....あ。田中君」


「.....何かな」


俺は音無を見る。

すると音無が、2人で居る時は、音無、じゃなくて、椋、って呼んでほしい、と言ってきた。

まさかのご注文に俺はボウッと赤面する。

わ。私も田中君の事、雪歩君って呼びたい、と真っ赤になった音無。


「お、音無。.....それは恥ずかしいかも.....」


「だーめ。.....呼んでほしい」


「.....そ、そうですか.....じゃあ.....椋」


「うん。雪歩君」


余りに恥ずかしかった。

だけど.....何かを得られた気がする。

思いながら俺はお弁当を見てから、じゃあ頂こうかな、と椋を見る。

椋は、そうだね。腐ったらいけないから、と笑顔を浮かべた。

そして、頂きます、と食べ始める。


「.....あ。そうだ。これもやってみたかった」


「何?」


「.....アーン」


「え?何?聞こえないよ?」


何か椋がブツブツと言っている。

俺は?を浮かべて椋を見ていると。

椋は、アーンだって雪歩君、と言ってくる。

更に、口開けて。わ。私が入れるから、と言ってくる。


「ちょ。音無.....」


「椋だよ。雪歩君」


「.....あ。はい.....でも恥ずかしい.....」


「2人しか居ないから.....大丈夫だから」


「.....わ、分かった。.....じゃあアーン」


そして椋の箸で俺の口に昆布締めが入れられる。

煮干しが良い感じだ.....が。

全く味がしない。

恥ずかし過ぎて、だ。

余りに熱を持ち過ぎている。


「.....ど、どうかな」


「.....美味しいかもだけど.....その。椋のせいで何も味がしないよ」


「うふふ。じゃあ勝ちだね」


「.....勝ちって何.....」


だって味がしないぐらいに恥ずかしいんでしょ?

と椋は満面の笑顔で俺を見てくる。

俺は真っ赤になりながら、そ。そうだけど、と答える。

ツンデレの様に、だ。

全く.....。


「じゃあ次は雪歩君の番」


「.....え?俺は.....箸を舐めちゃった.....」


「じゃあ間接キスだね」


「ふぇ!?」


早く、と言いながら口を開ける椋。

俺はその言葉に従いながら卵焼きを箸で掴んだ。

それから食べさせてみる。

すると小動物が喜ぶ様な感じで椋は喜んだ。

有難う雪歩君、と言いながら、だ。


「間接キスしちゃったね」


「そ、そうだね.....」


「うーん。本物のキスはどんな味かな?」


「.....そ、それは.....」


にひひ、と笑顔を浮かべる椋。

濃密な時間だった。

それは.....天気が晴れ渡る様な。


彼女は歯を見せて笑う。

俺はその姿に赤くなりながらも.....笑みを浮かべれた。

一緒のこの時間が楽しいと思いながら、だ。

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