一方その頃 2
「オルフェアです。よろしくお願いしますね、皆さん」
その冒険者が頭を下げると同時に、メンバー達は一様に口を噤んだ。
恐らくは俺の見事な作戦に対して、感嘆の言葉すら出ないのだろう。
だが、無理もない。俺の考えは誰よりも遠く、深い。
出来る限り馬鹿にもわかるような作戦を選んだが、仲間達には理解できなかったようだ。
しかし、仲間を責める気はない。
俺が優秀過ぎるが故に起きたすれ違いなのだから。
「一体何を考えているのか教えてもらえるかしら、リンドック」
「今さら何を教えればいいんだ? 新しい優秀な仲間が蒼穹の剣に加わった。それだけだ」
「馬鹿言わないでよ。その男が過去に何をしでかしたのか、忘れた訳じゃないでしょ」
声を荒げるサリュアは、隣に立っていたオルフェアを睨みつけた。
当然ながらその程度は知っている。
知ったうえでこの作戦を選んだのだ。
だが俺の作戦の本質に気付かなかったのは、サリュアだけではなかったようだ。
「今回ばかりはふたりに賛同させえもらう。リンドック、お前は自分がなにをしようとしているのか、わかってるのか?」
見ればモーリスと同様に、ルカエルも不満気な表情を浮かべている。
誰も俺の作戦に気付かないのか。
格が違い過ぎるのも考え物だな。
三人が黙り込んだところで、懇切丁寧に作戦の内容を打ち明ける。
「お前達こそわかっているのか? オルフェアのレベルは78だ。戦闘面だけを見れば、これほど優秀な冒険者は他にいない。彼なら、この蒼穹の剣に相応しい冒険者といえる」
「聞きたいのはそこじゃないわ。なぜそのオルフェアを蒼穹の剣に入れるかと聞いているの」
「決まってるだろ。戦力の増強をして、魔物との戦いを効率化するためだ。効率的に戦えれば魔石の収集量が増え、実入りの額も大きくなる。その後にお前達が散々文句を言ってた、新しい荷物持ちを雇えばいい」
新たに俺のパーティに入った冒険者の名前は、オルフェア・ユーグリット。
その高いレベルからも分かる通り、冒険者の中でもずば抜けた戦闘能力を持つ。
特に彼は加護の『無窮の星の輝き』によって、他に類を見ない閃光魔法と呼ばれる特殊な魔法扱うことができる。
他のどんな魔法よりも速く、そして相手に甚大な破壊をもたらす。
だからこそ世界樹海でも並ぶ者のいない高見、レベル78まで上り詰める事が出来たのだ。
これほどまでに俺の部下として相応しい人物は、ほかにいない。
しかし、目の前の三人の表情に変わりはなかった。
「実力は申し分ないわ。でもその男は調子にのって世界樹を半焼させた挙句、一時的に加護やレベルの恩恵を受けれなくなっていた訳だけれど」
「そして避難誘導を手伝うどころか、真っ先に雲隠れしたんだよね。莫大な損害賠償を支払って冒険者に復帰したと聞いていたけど、まさかこうして対面することになるなんて」
「済まないが、命を預けるに値するとは到底思えない」
そんな批判の言葉も、想定の範囲内だった。
この三人は、内心では恥じているのだ。
俺の素晴らしい作戦を聞いたとき、なぜ自分がそんな事も思いつかなかったのかと。
だからどうにかして俺の作戦に粗を探してしまう。
自分がこの作戦を言い出さなかったのは、なにか問題があったからで、思いつかなかったからではないと、言い訳をするために。
だからここで、俺は三人に次なる一手を問いかける。
「なら聞かせてくれ。オルフェアを雇う以外に俺達の状況を好転させる方法を」
「すぐには思いつかないけれど、その男をパーティに入れるのは最悪の方法だとしか言えないわね」
「代案を出さずに批判するだけか? 楽な仕事だな」
結局はこれだ。
代案を出さないくせして、文句だけを口にする。
なにも考えていない証拠ではないか。
だというのに俺の作戦に口出しするとは。
もう一言、二言だけ文句を言おうとした所で、隣にいたオルフェアが口を開いた。
「皆さんが僕を信用できないのはわかります。ですが少しだけチャンスをください。実戦での働きをもって皆さんの疑念を晴らして見せます」
「その一度のチャンスで私達が考えを変えることはないし、たった一度たりとも貴方に命を預ける気もない。残念ながらね」
もはや、我慢の限界だった。
このパーティは俺のパーティであり、この尻軽女のパーティではないのだ。
蒼穹の剣を育て上げたリーダーとして、真正面からサリュアに告げる。
「不満があるなら出ていけ、サリュア」
「待てよ、リンドック! サリュアよりそのオルフェアを取るつもりか!?」
「俺の意見に納得できないなら、このパーティからでていけと言ってるだけだ。なにも難しいことは言ってないだろう」
どんな馬鹿でもわかる事だ。
しかし今度はルカエルが食って掛かった。
「言ってることはね。でもリンドック、君の行動は全く持って理解できないんだよ。そもそもエルゼを追い出したのは安定した戦いとパーティの運用を見据えての事だったはずだよね。それなのに、なんで彼みたいな問題を抱えた冒険者をパーティに入れるの?」
「これにはお前達が理解できないような深い理由があるんだよ」
「それを説明してと私は言ってるのだけれどね」
もはや説明することすら面倒だった。
どれほどの言葉を並べようとも、この馬鹿共に伝わることはないのだ。
そもそもこの三人は気に食わないという感情論で物事を考えて動いている。
理論と計算によって生み出された俺の完璧な作戦を理解できないのは当然と言えた。
三人からの視線を無視して、新たに仲間として加わったオルフェアをねぎらう。
「悪いな、オルフェア。こいつらにはよく言っておく」
「謝らないでください。それに自分が起こした過去の罪に関しては、自業自得ですから。皆さんが僕を信じられないのも無理はありません」
確かにオルフェアは過去に過ちを犯した。
だがそれはすでに清算されており、今さら掘り返す程の事でもない。
加えてこのオルフェアは、自分がどれほどパーティに貢献できるかを、俺に熱弁して見せた。
そんな奴がふたたび過ちを犯すはずがない。
俺の眼を持ってすれば、オルフェアが改心したことはまるわかりだった。
「流石は俺の見込んだ男だ。お前らもこの謙虚さを見習えよ。誰のお陰でここまで上り詰められたのかを考えれば、こんな生意気な態度はとれないはずなんだからな」
「今までの成果を全て自分の手柄にするつもり?」
「するつもり、じゃない。事実そうなんだよ。お前達が戦いだけに明け暮れてる間に、俺はギルドへの根回しと今後の計画を立てていた。つまりお前達が首からぶら下げてるその冒険者章は、俺が努力した成果と言っていい」
当然なことを聞いてくるサリュアに、俺も当然の事実を返す。
まさかここまで上り詰められたのは、自分達の実力があったからとでも考えていたのか。
それこそ勘違いも甚だしい。
思わず鼻で笑うと、馬鹿共は自然と顔を見合わせていた。
いったい何を考えているのかは、わからない。
そもそも馬鹿の考える事など、興味もない。
俺がこいつらのリーダーとして活動するのも、残り僅かなのだから。
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