第14話

「バルバトール、か」


 アッシュレインはその名前を呟き、視線をテーブルの上の『二度目の落日』に向けた。

 この呪具は無事に回収できたが、一歩間違えれば命を落とすところだった。

 周囲に人間や動物を狂わせる領域を作り出す未知の脅威、バルバトールによって。

 

 あれの程の存在であればその名前が広まっていても不思議ではない。

 そう考えたがアッシュレインですらその名前を知っている様子はなかった。

 

「聞き覚えはありませんか」


「いや、残念だが。しかしそんな人間がいるとは、にわかには信じがたいな」


「あれは……人間ではありませんでした。恐らく魔物に近い、なにかかと」


 黒狼の牙は迷宮の主すら一撃で葬ってきた。

 しかしバルバトールは最大威力の黒狼の牙を受けても、小さな切り傷しか負っていなかった。

 それどころか容易に黒狼の牙を破壊する程の力を有していた。

 気が変わらなければ、俺は簡単に殺されていたに違いない。 


 加えて腕のかぎ爪や背中の翼など。

 人間というには、余りに説明できない事の方が多すぎる。

 あれを人間と呼ぶのは、いささか抵抗があった。

 

 ただアッシュレインは、魔物や脅威に対抗する専門家ではない。

 あくまで俺の取引相手であり、今回に関しては依頼主だ。

 テーブルにあった『二度目の落日』を確認すると、再びそれを俺の前へと差し出した。


「ともあれ、君は私に応えてくれた。ならば次は私が答えるべきだな」


「ありがとうございます。これで、問題も解決できるはずです」


 あくまで俺達の目標は、世界樹の種子を手に入れる事だ。

 バルバトールの対処を考える必要があるのは変わりないが、当初の目的をないがしろにするつもりは毛ほどもない。

 『二度目の落日』を手に入れた事で、その目的に大きく近づいたことになる。

 後はレウリアを探し出して、迷宮に挑むだけだ。

 荷物の中に『二度目の落日』を仕舞い、腰を上げる。

 だがその時、アッシュレインは俺の首元を指さした。


「そういえば、その呪具に関してはなにか分かったかな」


 言われて、ふと思い出す。

 白い鉱石の呪具、『無垢なる守護石』を借りていたのだ。

 存在を忘れるほどには、恩恵を感じていないかった。


「いえ、特に身に感じるようなことはなにも」


「極めて限定的な効果を持っているのかもしれないな。そもそも鑑定で得られた情報が抽象的すぎる」


 アッシュレインの話によれば、呪具や遺物の中には効果が明記されている物と、そうでない物が存在するという。

 そしてその違いは、元となる形が大きく関わってくる。

 例えばナイフなら物を斬る事に関する効果を持っているし、鏡なら物を映す事で効果を発揮する物が多い。

 だが『無垢なる守護石』のような自然物に近い物は、その用途が非常に曖昧で、効果もはっきりとわからないのだ。

 

 確かに俺は首から下げているが、元々は全く別の使い方をする呪具なのかもしれない。

 期待に応えられそうにないため、『無垢なる守護石』を首から外してアッシュレインに差し出す。


「お返しします。俺は呪具を使えるだけで、専門家という訳ではありませんから」


 しかし目の前の貴族は小さく首を横に振った。


「いいや、君が持っていてくれ。私にとって呪具の専門家とは、高額で呪具を売りつけに来るハゲタカ共の名前だ。だが君は違う。預けるに足る相手だ」


 これは彼なりの信頼の証、ということなのだろうか。

 そう言われては、返す方が相手の顔がたたない。

 用途不明の呪具を再び首に戻し、小さく頭を下げる。


「全てが終わった後に、また来ます」


「心待ちにしているよ」


 アッシュレインに見送られる形で、屋敷を後にする。

 ただ、腰に下げた黒狼の牙の状態を思い出し、ふと振り返る。

 

「この周辺で呪具を取り扱っている武具店を知りませんか?」


 武器が無ければ戦えない。

 呪具の収集家でもあるアッシュレインならばと問いかけるも、彼は小さく肩を竦めた。


「知っての通り私の専門は装飾関連でね。武具に関してはさっぱりだ」


 となると、別の呪具を一から探し出す必要がある。

 都合よく呪具を取り扱っている店が、このオルト・エンデにあればいいのだが。


 ◆


「黒狼の牙に代わる、別の武器を探さないとな。このままだと、レウリアの足を引っ張ることになる」


 現在、俺のレベルは31であり、能力も平均的なそれだ。

 加護によって特殊なスキルや魔法を覚えている訳でもないので、突出した何かを持っている訳でもない。

 唯一、他人より優れている部分は、強力な呪具が使えること、ただ一点のみ。

 その呪具を失った今、俺は平均的な冒険者より劣っている可能性もある。

 いや、その方が高い。


 レウリアと迷宮を突破するのであれば、新たな呪具の武器は必要不可欠だろう。

 とは言えまずはレウリアに『二度目の落日』を手に入れたことを報告しなければ。

 そう考えてみても、そもそもレウリアがどこにいるのかを知らない事に気付く。


「一体、どこにいるんだ?」


 あの真っ白な髪の騎士なら、ローブを纏っていても、纏っていなくても確実に目立つ。

 だが、心当たりのある場所や、冒険者ギルドや併設されている酒場には見当たらなかった。


「迷宮の情報を集めるとなると……。」


 迷宮の情報は秘匿されるのが一般的だが、売買することを禁じられている訳ではない。

 しかし相手の情報が間違ってでもいたら、それこそ命に直結する問題だ。

 確実な情報を買い取るなら、それこそ実際に迷宮を踏破した事のある冒険者からだろう。

 

 高い確率で迷宮の主と戦うことにもなるだろう。

 となると、直近で第21迷宮を踏破した冒険者は……銀の果樹園の元メンバーだ。

 ウィンドミルで話を聞いた荷物持ちの男は確か、元メンバー達は精神を病んで宗教にはまったと言っていた。

 レウリアが荷物持ちの男の話を覚えていたら、高確率で元メンバー達から話を聞こうとするはずだ。


「気は進まないが、確認だけはしておくか」


 冒険者ギルドから出て、方角を確認する。

 ローデシアやウィンドミルでの経験上、街の中心部に位置する広間に向かえばいい。 

 そこに集まっているはずだ。

 世界樹を崇める、信者達が。


 ◆

 

「触るな! この穢れた人間め!」


「……。」


 そんな言葉が、坂を上りきった俺を出迎えた。

 世界樹を模した噴水の周りには大勢の人間が集まり、お立ち台の上にいる男に視線を向けていはずだ。

 しかしその言葉によって人々の視線は、ある方向に向かっていた。

 そこには、灰色のローブを纏った人物ともう一人の信者。

 レウリアは、金切り声を上げた信者を前にして押し黙っていた。


「お、お前と俺は違う! たしかに、俺は逃げ出した。命惜しさに仲間を見捨てて、逃げ出したよ。でもそれだけだ! だ、だがお前は、お前は……仲間を皆殺しにしたんだろ!?」


「そうね、殺したわ。この眼を使って」


 短い間だが、レウリアと接してきて分かったことがある。

 彼女の言葉に感情の起伏が感じられない時がある、という事だ。

 だが、なにも感じていないわけではない。その逆だ。

 

 大きすぎる感情を押し越したがために、なにも言葉に感情が載らないのだ。

 そして耳に届いた彼女の言葉は、酷く冷たく感じられた。

 目の前の信者はそれをどう受け取ったのか。

 周囲の注目を気にもせず、半狂乱で騒ぎ立てた。

 

「なんで、そんな平然としていられるんだ? もう、お前は人間なんかじゃない。十何人も殺して、仲間を皆殺しにして、そんな風に振る舞えるなんて、もう、化け物じゃないか!」


 その時だった。

 レウリアと相対する信者の肩に、ひとりの男が手を載せた。

 その男はまるで神官の様な衣服を見に纏い、右手には酷く使い込まれた本を抱えている。

 先程までお立ち台に登っていたその男は、信者を諭すようにゆっくりと語り始めた。


「その通りです。貴方は逃げる事で自分と仲間の命を守りました。とても勇敢で、気高い行動です。ですが彼女は違います。仲間を平然と手にかけ、あまつさえ近寄る冒険者にまでその刃を向けています。彼女には他者を思いやる心が欠如しているのですよ」


「なんとでも言えばいいわ。それで、約束どおり私の大罪とやらを告白をしたけれど。情報はいつ貰えるの?」


 そこでようやく、話が見えてきた。

 レウリアはあの元メンバーの男と接触して、情報を聞き出そうとした。

 しかし交換条件を求められたのだろう。


 自らの行いを告白すれば、代わりに迷宮の情報を渡す、と。

 だからこそ、こんな場所で自分の行いを打ち明けたのだ。

 その行動にどれほどの覚悟が必要だったのか、俺には想像すらできない。


 彼女の行動を邪魔すまいと、噴水の影に隠れる。

 ここで俺が出ていけば話がこじれるだけだ。

 そう思って、見守るつもりでいた。

 だが、レウリアが交わしたであろう約束が守られることはなかった。


「喋るな、化け物! 誰がお前なんかと取引するものか!」


「つまり、反故にするのね? 私との約束を」


「だ、だったらなんだ!? 俺を殺すのか!? 仲間を殺したように、俺も殺すのか!? だ、誰か! 衛兵を呼んできてくれ! 殺される! この化け物に、殺される!」


 その声が、俺の思考を狂わせた。

 見守ると決めたはずが、いつの間にか右手で元メンバーの首を掴んでいたのだ。

 俺よりもレベルが低いのか、手を振り払おうともがくが、俺の手が離れることはない。

 他の信者達も割って入ってきた俺を見て、すうほ下がっていた。

 ただ、そんな連中にどう思われようとも知ったことではない。


「もう黙れ。それ以上、金切り声を上げたら喉を潰すぞ」


 それは忠告ではなく、警告だった。

 首を縦に振った元メンバーを付き飛ばし、噴水の中へと叩き込む。

 耳障りだった周囲のざわつきは収まり、望んだ静けさが訪れた。

 噴水から這い出てくる元メンバーを眺めていると、背中から聞きなれた声が上がった。


「エルゼ、無事だったのね。それで、例の物は?」


「どうにか手に入れた。後は迷宮に挑むだけ、といいたい所なんだが……それは後にしよう」


 周りを見れば、信者達が俺とレウリアを取り囲んでいた。

 声を上げる者は誰もいない。しかし、そこには敵意が見え隠していた。

 その集団の中でも、俺達の目の前に進み出た人物が一人。

 片手に本を抱えた、件の男だ。

 見た限り、この男はここに集まっている信者達の代表なのだろう。


「早く信者共を下がらせろ。俺の仲間を侮辱した事には、この場では目をつぶる。彼女自身も争う気はないみたいだからな」


「信者ではなく、我々は同士なのです。私如きが命令など出来るはずもありませんよ。エルゼ・アルハート」


「俺の名前を知ってるのか」


「えぇ、もちろん。『気高き純白』の加護を受けた呪具の使い手。そしてローデシアのお気に入りですよね」


 瞬時に左手を男へと向ける。

 後は短く唱えれば『逆巻く雷鳴』が魔法の雷を解き放つことになる。

 目の前の男が、あのバルバトールの仲間だとすれば、争う事になるのは必至だ。

 とは言え、この呪具だけで倒せる相手かは、わからない。

 下手をすればあのバルバトール以上の存在かもしれないのだ。

 周囲の信者達にも気を配りながら、男へと問いかける。


「アイツの仲間か」


「えぇ、私の知人が挨拶に伺ったと思いますが、いかがでしたでしょうか。彼は少々単純なところがありまして。なにか勘違いをしていた様子でしたが」


「お陰様で殺されかけたよ。つまりお前が話に出てきた、オーレンなのか」


 だとすれば、この男が俺を殺そうとした元凶と言っても過言ではない。

 バルバトールの話からすれば、オーレンという人物にそそのかされて俺を殺しに来ていたのだから。

 しかし男は目を細めて、首を横に振った。


「あのような裏切者と一緒にされては困ります。ただし。相応に近しい存在だとだけ言っておきましょうか」


「ならお前達の狙いはなんだ? なぜ俺を狙った」


「貴方を狙う? いえいえ、私達が興味があるのはもっと別の事ですよ。そもそも貴方は余りにも自分と自分の力についてあまりに無知だ。このまま行けば、確実に己の力で身を滅ぼすことになりますよ」


 それだけを告げて、男は信者を引き連れてその場を去っていった。

 この場所で戦うことを避けたのか。それとも最初から俺と戦うつもがなかったのか。

 幸運だったというべきか。それとも、話を聞き出す絶好の機会を失ったと、嘆くべきなのか。

 あるいは、その両方だろうか。


 ◆


 ひと悶着あった後、レウリアと共にあの広場から冒険者ギルドへと戻ってきていた。

 というのも、レウリアの集めた物資などはすでに冒険者ギルドに運び込まれていたからだ。

 俺が『二度目の落日』を手に入れて戻ってきたら、すぐに出発できるよう準備をしておいたらしい。


 しかし、荷物をまとめて出発、とはならなかった。

 俺は強引に、レウリアに休むよう提案したからだ。

 肉体的な疲労はわからないが、精神的に疲労しているのは間違いない。

 少しばかり休んだとしても、ばちは当たらないだろう。


「あんな連中の言うことを気にすることはない。ただの戯言だ」


「もちろん、今さら自分の境遇に悲嘆するつもりはないわ。でも――」


 真直ぐ向けられる、引き込まれる様な青い瞳。

 ローブの奥では、笑みを浮かべていた。


「ありがとう。私を、仲間だと言ってくれて」


「背中と命を預けたなら、それはもう仲間だ。周りがなんと言おうとな」


「同じことを、私の仲間達も言っていたわ」


 過去を懐かしんでいるのか、レウリアは微笑みながら視線をテーブルの上に落とした。

 その刹那の間、蒼穹の剣のメンバー達が脳裏をよぎった。

 しかし過去の事だ。そして、彼らは俺を仲間だとは思っていなかった。

 目の前の人物は、俺がこの眼で見て信用に足りると確信した相手だ。

 だからこそ、以前から考えていた作戦を吐露する。


「ひとつだけ俺の提案を聞いてくれ。種子の回収は俺に任せてくれないか。そして、もし俺が錯乱したら――」


「殺さずに、気絶させる。絶対に、必ず」


 もし本当にそうなったら、どうなるかなんて誰にも分らない。

 錯乱した俺がレウリアに襲い掛かった結果、どちらかが死ぬことも十分にあり得る。

 いや、実際に俺が錯乱したらどちらかが死ぬ可能性の方が高いだろう。 


 しかし、彼女は即答した。

 なんの迷いもなく、まっすぐ俺を見つめて。

 だからこそレウリアになら、この命も預けていいと思えた。

 仲間だと思えたのだ。

 

 二度目の落日をポーチに仕舞い、乾いた口を水で潤す。

 緊張もあるが、それ以上に不思議な高揚感に見舞われていた。

 きっと、仲間の目的が成就する直前で、俺も浮かれているのだろう。 

 覚悟が決まった所で席を立つが、そこで腰に掛けた剣の軽さを思い出す。


「そうだった。荷物を持って出発と行きたい所なんだが……。」


「その剣は?」


 酷く破損した黒狼の牙を見て、レウリアが顔を上げる。

 当然の反応だ。これから迷宮に挑もうという時に、仲間の武器が壊れているのだ。

 これじゃあ足を引っ張るだけのお荷物に違いはない。

 申し訳なさでレウリアの顔を見れずにいた。


「無理をさせ過ぎたんだ。アッシュレインも武器に関しては畑違いで、自力で呪具を探し出すか、アンドニスに送って貰わないとならない。少しだけ時間を貰うが、武器さえ見つかれば――」


「いいえ、それよりいい考えがある。付いてきて」


 弁解をあっさりと断ち切ったレウリアは、ギルドの窓口へと向かう。

 そこで何かの手続きをして、預けてあったであろう荷物を受け取る。

 見覚えのあるそれは、たしかウィンドミルからこのオルト・エンデに来るときも持っていた物だ。

 レウリアは何重にも包んであった布を丁寧に取り払う。

 そして中から姿を現したのは一振りの剣だった。


 銀の鎖で巻かれたそれは、一目で呪具だと分かる。

 ただそれ以上に、その剣が尋常ならざる力を秘めている事もまた、明白だった。

 柄頭には雄々しい獣のレリーフ。鍔の部分は捻じれ、見る者に魔物の角を想起させる。

 刃の部分には古代魔法文字らしき彫刻が並び、微かな光を帯びていた。


 よく見れば、レウリアが取り払ったのは聖骸布と呼ばれる呪具を封印するための布でもあった。

 つまり、それほど厳重に保管しなければならない呪具であることに間違いはない。 

 だがわからないのは、なぜそんな呪具をレウリアが持っていたか、ということだ。

 問いかけようと視線を向けると、レウリアはそっと柄を俺の方へ差し出した。


「銘は『幻魔獣の靱角』。ありとあらゆる守りを貫くと言われる剣よ」


「この原形となった遺物なら、以前見た事がある。だがいくら呪具だと言っても、簡単に手に入る代物じゃないはずだ。どうやってこれを?」


 実を言えば、これと同じ形の遺物と所持者は冒険者の中でも語り草となっている。

 冒険者ルキウス。またの名を剣聖ルキウス。

 彼の持つ遺物『幻獣の刃角』は魔物の鱗や鎧、魔法障壁に至るまで、ありとあらゆる守りを貫く最強の剣として名高い。

 加えて『幻獣の刃角』は所持者の加護によって、その能力を変化・強化させる事がある。

 そこにルキウスの剣技が合わさり、彼はたったひとりでプラチナ級に上り詰めるに至った。

 

 故に、剣聖。

 

 以前に一度だけ、蒼穹の剣として顔を合わせた事があるが、この剣はその時に見た剣と全く同じ形をしていた。

 それに呪具化したことで能力がさらに強化されているとしたら、どれほどの威力を秘めているというのか。

 差し出された柄を握れずにいると、レウリアは懐かしむように微笑んだ。


「これは、私が出発の際に姫様から頂いた剣よ。本当ならアルセント博士と協力関係を結び、これを遺物に戻すことで世界樹の種子を探す助けにしようと考えていた。でも今は、その手段も必要もなくなった。だから、これは貴方が持っているべきだと考えたの」


 伸ばした手が、止まる。

 つまりこれはレウリアがどれだけ評価されていたかを現す物だ。

 一国の姫君から騎士に与えられた剣。

 それが俺の手に納まるべき剣ではないのは、明らかだった。


「……これは、受け取れない」


 ただ、レウリアも俺の言葉を予測していたのだろう。

 穏やかな表情で、俺の方へ剣の柄を差し出した。


「なら、言い方を変える。私の為にこれを使って。一刻も早く、世界樹の種子を手に入れるために」


 考えれば、すぐわかる事だった。

 レウリアがこの剣を俺に渡すということの意味を、理解していないわけがないのだ。

 それを理解したうえで、世界樹の種子を手に入れる為に使ってほしいというのであれば、断る事も出来ない。

 

 ゆっくりと手を伸ばし、そして柄を握る。

 想像以上に軽い剣はレウリアの手を離れ、俺の手に納まった。

 期待に報いるためにも、成果を残すしかない。

 そう考えると、剣は酷く重い気がした。

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