第40話20:せっかち達の結婚式(前編)
昨日、あれから色々と結婚式に関する説明を受けた気がするが、全く頭に入ってこなかった。
分かっている事は・・・とにかく今日、結婚式を挙げなければいけないという事だ。
・・・という訳で、私は今、されるがままにウエディングドレスを着させられている・・・。
昨日行った衣料品店で、既に私のためのウェディングドレスを製作済みって・・・そんなことってある・・・?
「まあ!!!とっっっても素敵ですわぁ!!!!」
ドレスを着せ終わった店主が、私を見てうっとりしながら感嘆の声をあげた。
鏡を見せてもらうと、そこには純白のドレスに身を包んだ私が立っている。肩周りは大きく開き、長かった髪の毛は高い位置でロールアップされ真珠の髪飾りで
まるで物語に出てくるお姫様の様な自分の姿に、胸がジーンと熱くなり感動した。
「ドレスを着せるまでは、素肌を出せない程たくさん跡が付いてたらどうしようかと思ってましたけど、余計な心配でしたわ!でもさすがにこんな綺麗なうなじを見てしまったら、サンドロス卿も我慢出来るか分かりませんわねぇ」
ほくそ笑む店主の口から、とんでもない発言が飛び出したので、思わず吹き出した。
その・・・跡っていうのは・・・つまり・・・大人向けのロマンス小説とかで首元に
確かに、昨日ダンさんとユーリが部屋に入って来なかったら・・・その可能性も・・・あったかもしれない・・・!
熱くなってきた顔を手で覆い隠すが、そんな私の姿も店主にとっては格好の
「あら・・・ふふふ。その真っ白なドレスだと、お顔が赤いのもすぐ分かりますわよぉ?・・・さあ、最後の仕上げですわ。どうぞ、お好きな方をお選びくださいませ」
運ばれてきた卓上のワゴンの上には、ドレスと同じデザインの手袋が二組置かれている。
一組は左右とも5本指の手袋。
もう一組は左手側が4本指の手袋だった。
もしかしたらこの人は、私達が左手の傷を克服する事を信じていてくれたのかもしれない・・・。
その寛大な心と優しさが嬉しくて、少し泣きそうになった。
もちろん、どちらを選ぶかは決まっている。
私はそれを手に取り、自分の手にはめた。
「ふふふ・・・。やっぱりエリーゼ嬢の手に合った手袋の方が、断然美しくてお似合いですわね!!」
私は自分の目の前に両手をかざした。
左手には小指がない。だけどそれを隠す必要はもうない。
誰がなんと言おうと、この左手は私の誇りだ。
「ありがとうございます」
私は涙をこらえながら店主にお礼を言い、頭を下げた。
・・・が、なぜか
「あら、私はただ自分の仕事をしただけですわよ!それよりも時間がありませんわ!早く行きましょう!」
「あ、はい!」
今日は朝からずっとこんな感じ。何をするにも「時間が無い」と言われて急かされ続けている。
ルーカスの周りの人はせっかちばかりなのか、ルーカスの傍にいるとせっかちになってしまうのか・・・。
私は部屋の外へ出るドアを開け、廊下に出ると、そこには見覚えのある人影が・・・・・・ジルさんだ!
ジルさんは私の姿に気付き、ニコッと爽やかな笑顔を向けた。
「やあ、エリーゼ嬢。ああ・・・とても綺麗だね。是非エスコートしたい所だけど、手を握ったらルーカスに殺されそうだからやめといた方が良さそうだ」
ニコニコと変わらない笑みを浮かべながら、なかなか怖いことを言っている・・・でも、確かに、その通りかも・・・。
私に続いて、店主と大きな荷物を持った従業員の人達が部屋から出てきた。
「それでは、私達はここで失礼致しますわ。今後とも、末永くよろしくお願いしますわね。次からはお金の事など気にせず、お好きなドレスをお選びくださいませ。サンドロス夫人」
急に営業スマイルで微笑む店主だったが、私の方は『サンドロス夫人』という聞き慣れない呼び名に、恥ずかしさのあまり返す言葉が見つからず固まっていた。
「それでは・・・ジルバート皇子殿下、私はこれで失礼致します」
「ああ、ありがとう。さあエリーゼ嬢、時間が無いから早く行こうか」
ジルさんはそう言うと、先を歩き出した。
しかし私は動けなかった・・・。
今・・・さらっと爆弾発言飛び出なかった・・・?
皇子殿下・・・?つ・・・つまり・・・ジルさんは・・・皇帝の息子ってこと・・・!?は!?
思考はまだ追いつかないけど、とりあえず置いていかれそうなので、慌ててジルさんの後ろを付いて歩いた。
その背中に、恐る恐る声をかけた。
「あの・・・。ジルさんって・・・皇子様だったのですか・・・?」
「ああ・・・まぁ、実はそうなんだけど、別に気にしなくていいよ?皇太子はすでに決まってるし、私は戦場で戦ってる方が性に合ってるしね。それに血を見るのは好きなんだ」
・・・え・・・?ジルさん・・・そういう趣味あるの・・・?
意味深にニヤリと笑ったジルさんを見て、少しゾッとしてしまった。
「あと、今日はうちの騎士団の人間も来てるから、ちょっと大所帯になってるけどびっくりしないでね。・・・あ、ちょうどルーカスも準備が出来たみたいだよ」
ジルさんの言葉にドキリ・・・と胸が高鳴った。
昨日、勝手に結婚式を決めてしまったルーカスとは口を利かないまま、私は自分の部屋に引きこもった。
あのお屋敷の中に、既に自分の部屋が存在してる事には驚いたが、内装まで完璧に私好みに仕上げられていたのには少し引いた。
まあ、少し嬉しくもあったけど・・・とりあえず昨日は部屋の鍵をしっかり施錠して休ませてもらった。
朝、目が覚めた時には屋敷内はバタバタと使用人達が忙しそうに駆け回っていた。私も部屋に用意された朝食を食べた後は湯浴みに連れていかれ、全身のマッサージや髪の毛のお手入れをされ、そのまま馬車でこの教会へと連れてこられて今に至る。
なので、今日ルーカスと会うのは初めてだ。
真っ直ぐ続く廊下の先は、
ルーカスは私を見た瞬間、目を見開き、頬を赤らめ見惚れているかの様に、ただ私を見つめている。
だけど、それは私も同じだった。
・・・もうね・・・控えめに言って格好良すぎる・・・。
スタイル抜群だし、なんだかキラキラしているし、一体どこの王子様なの!?
いや、目の前に本物の皇子様がいるんだけど・・・
「ルーカスの方が100倍くらい格好良いと思う!!」
「うーんエリーゼ嬢・・・それは一体誰と比較してるのかな・・・?」
はっ!!!しまった・・・!思わず口に出てた!!
ジルさんは先程から変わらない笑顔を見せているけど、逆に何考えてるか分からなくて怖い・・・。
ルーカスは嬉しそうに顔を赤らめたまま、とろけそうな笑みを私に向けた。
「エリーゼこそ・・・凄く綺麗だ・・・。やはり君は俺の女神だったんだな・・・」
め・・・めがみ・・・?
ルーカスは両手を開いて私の前まで歩み寄ると、そのまま力強く体を抱きしめられた。
抱き締められる事にはまだ慣れていない・・・けど・・・ルーカスの腕の中心地よかった。
その時、ルーカスの顔が私の首元に触れたのが分かった・・・って・・・あ、ちょっと!?
「はい、ストップー」
その唇が私の首に触れる直前、ジルさんが両手でガシッとルーカスの頭を掴んだ。
「貴様・・・なんの真似だ」
「エリーゼ嬢がせっかく綺麗なドレス姿をしてるのにさ、君の所有欲のキスマークなんて誰も見たくないんだよねー。どうせ今夜は寝かせないつもりなんだろ?それまで我慢しなよ」
ジルさんは私に気を利かせて、小声でルーカスに話しているのだろうけど・・・ごめんなさい。全部聞こえてます・・・。
「仕方ないな。こんな綺麗なエリーゼの姿を他の奴には見せたくはないが・・・今は時間が無い。行こうか」
そう言うと、ルーカスは私に右腕を差し出した。
私はその腕に自分の手を回し、私達は腕を組んでその時を待った。
って・・・時間が無いって一体なんなの・・・?
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