第15話11:彼の過去が知りたい(前編)
「ルーカスって、私のどこが好きなの・・・?」
何か具体的に私の好きなところを聞くことが出来れば、少しは自信が持てると思った。
「・・・・・・エリーゼの全てが魅力的だ」
長い時間をかけて悩んだ彼が出した答えは、あまりにも予想通りの答えで、私は改めて今のルーカスの気持ちは惚れ薬の効果によるものなのだと実感した・・・。
ルーカスにエスコートされながら馬車から降りたわ私は、目の前にそびえ立つあまりにも巨大な御屋敷に「ひええぇ」と小さく悲鳴を上げた。
どこかで見覚えがあると思ったら、首都に入った時に目に止まった、あの高級ホテルかと思った建物はなんとルーカスの御屋敷だったようだ。
「やあ、ルーカス。君が待ち合わせ時間に遅刻するなんて珍しいじゃないか」
御屋敷に入った私達を出迎えたのは、肩にかかる深い藍色の髪を後ろで一括りに結んだ、ルーカスに負けずとも劣らない美形の男の人だった。
正装に身を包み、腰に帯びた剣にはどこかで見た事がある紋章が刻まれている。
・・・もしかしてこの人が例の公爵様なのだろうか・・・?
それにしては、やけに若い気もするけど・・・。
見た感じ、ルーカスと同じくらい・・・それか少し年上くらいに見えるけど・・・。
「なんでお前がここにいる?客なら大人しく応接室に居ろ」
ルーカスはいかにも不快なオーラを出しながら、声をかけてきた男の人を睨みつけている。
・・・公爵様にそんな態度で大丈夫なのかな・・・?
あからさまに失礼な態度を取るルーカスに対しても、男の人は上品な物腰で余裕の笑みを浮かべている。
「まあそう言うなよ。君がどこかの令嬢を連れて街を歩いていたって噂になってたからね・・・。君の友人としてぜひご挨拶させてもらわないと・・・」
そう言うと、男の人は私の姿を確認する様に身を乗り出した。
「今すぐ失せろ」
その視線から私を隠すように前に出たルーカスは、身の毛がよだつ様な低い声でその男の人を牽制した。
しかし相手の男の人も笑みを崩さず、「へえ・・・」と感心する様な声を漏らした。
「君がそんな反応をするなんて・・・ますます気になるなぁ」
まるで挑発するかの様な男の人の態度に、ルーカスは更に眉をひそめると、2人の間にはピリピリとした空気が漂い始めた。
その一触即発の雰囲気の気まずさに、私は息苦しさを覚えた。
とりあえず、どうにかこの空気を変えようと、私はルーカスの隣に並び、男の人に深々と頭を下げた。
「は、初めまして!エリーゼと申します。お会いできて嬉しいです・・・。公爵殿下・・・?」
そう告げて頭を上げた私を待っていたのは、目が点になったままパチパチパチと瞬きをしている公爵様の姿だった。
「・・・公爵・・・?」
「ぶふうッ!!!・・・し、失礼・・・ふっふふ・・・!」
突然ダンさんが吹き出し、口を押さえて肩を震わせ出した。
・・・あれ・・・?私何か間違えた・・・?
公爵様だから殿下で良いんじゃないの・・・?
・・・あ・・・まさか・・・。
「あっははは!私をあの悪どいオッサンと間違えないでほしいな!本物の公爵様はあっちの部屋でなんか喚いているよ。ルーカス、早く行って相手してあげなよ」
高らかに笑い出した男の人の反応を見て、自分の勘違いに気付いた私は恥ずかしさのあまり時間を巻き戻したい衝動に駆られた。
ルーカスはムスッとした様子でその2人の反応を見ていたが、やがて小さくため息をつき、口を開いた。
「分かっている。お前はさっさと応接室へ戻れ。ダンはエリーゼを俺の執務室へ案内してくれ」
ルーカスはダンさんにそう指示すると、公爵様が待っているという部屋の方へ歩き出した。
「おっと、その必要は無いよ。エリーゼ嬢、よろしければ私とお話しないかい?」
その言葉に、ルーカスはピタリと歩みを止めた。
「え・・・?」
突然話を振られて、今度は私の目が点になった。
私と話って・・・一体なんの話しをする気なのだろう・・・?
「おい、何を考えている・・・?」
再びルーカスの低い声と冷たい視線が男の人に向けられる。
「別に、ただエリーゼ嬢は昔のお前の話を聞きたいんじゃないかと思ってね。君の騎士時代の話とか・・・」
「・・・騎士・・・?」
ルーカスの・・・?騎士時代・・・?
「おい、ジル・・・いい加減にしろよ・・・」
ジルという人を睨むルーカスの瞳に更に力が込められた。
その様子にハラハラとしている私とは対照的に、ダンさんは2人のやり取りに慌てることなく、「やれやれ」と呆れた様子で眺めている。
「別に隠す事じゃないだろ?エリーゼ嬢も君の事を知りたいんじゃないかな?」
男の人に同意を求められる様な視線を送られ、私は思わず頷いてしまった。
ルーカスが騎士だったなんて初耳の事で、ただ純粋に私の知らないルーカスの事を知りたいと思った。
「ほらね、とにかく君はさっさとあのうるさいオッサンの相手をしておいでよ。ここで話すのは時間の無駄だろ?」
ジルという人に促されてルーカスは苛立つように舌打ちをした。
「ジル、余計な話はするなよ。エリーゼ、すまないが少しだけ席を外す。すぐに戻ってくる」
「うん・・・」
ジルという人に対しては警戒心を丸出しにしていたルーカスだったが、私に向けられた表情は、いつもの優しいルーカスの顔に戻っていた。
それを見て、ようやく私は張り詰めていた空気から解放され、肩の力が抜けた。
「ダン、エリーゼとコイツが2人きりにならないよう、誰か侍女を同室させろ」
ルーカスはダンさんにそう言い残すと、足早に長い廊下を歩いて奥の部屋へと去って行った。
ルーカスが居なくなると、ジルという人は私と向かい合わせになるように立ち、自分の胸に手を当て、頭を下げた。
「先程は失礼致しました、エリーゼ嬢。私は皇室直属騎士団に所属する騎士で、ジルバートと申します。どうぞ、私の事はジルとお呼びください」
丁寧に挨拶するその姿に、思わず見惚れ・・・ん?
皇室・・・?直属騎士団・・・?
って・・・めちゃくちゃすごい人じゃん!!
数多くの騎士団がある中、皇室直属騎士団って精鋭揃いの最高峰の騎士団じゃん・・・!!
そんなすごい人がルーカスと一体どういう関係なのだろう・・・?
「は、初めまして・・・。よろしくお願い致します・・・ジル・・・さん・・・」
私も先程と同じように深々と頭を下げ、改めてジルさんに挨拶をした。
そして再び頭を上げた時には、すでにジルさんは紳士的な態度ではなく、興味深々に目を輝かせながら私を見つめていた。
「さあ、お互い堅苦しい挨拶はこの辺にしておこうか。あの様子だとルーカスはすぐに戻って来そうだし、私達も早く応接室へ行って話をしよう」
踵を返し軽快に歩き出したジルさんの後ろを、私とダンさんが続いた。
「それにしても、ルーカスのあんな姿が見られるなんて・・・騎士団の奴らにいい土産話が出来たなぁ」
「程々にしとけよ・・・てか、長いよ。部屋に入るまでが・・・2人とも・・・」
「あはは!君もすっかりルーカスのせっかちが身についたみたいだねえ・・・」
そんな会話を気兼ねなくするジルさんとダンさんも、きっと気心の知れた仲なのだろう・・・。
ルーカスの騎士時代・・・。
予想もつかなかった彼の過去が明らかになった。
彼は一体、何を思って騎士になったのだろう・・・?
そしてなぜ、騎士を辞めたのだろう・・・?
そんな疑問を胸に抱き、私は2人に連れられて応接室へと足を踏み入れた。
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