第12話 お父さん
声が聞こえる……幻聴……?
「アリシアー! 聞こえたら返事をしてくれ!」
お父さんの声!
「ここにいるよー! 助けて―!」
カラカラの喉は貼りついているみたいで、さっきよりも声が出なかった。
お父さんの声は聞こえているのに、お父さんに私の声は聞こえてない。
お父さんに気づいてもらえなかったら、もう誰にも気づいてもらえない。
一生……このまま……
そんなの、イヤだ。
「助けてーー!! お父さーーーーん!!」
ザワザワと木々が揺れた。
そして、ピタリと音が止まる。
「アリシア!? アリシアか! どこにいる!」
「お父さん! ここ! 崖の下!」
叫びながら上を見ると、チラチラと何かの光が見えた。
お父さんの声がどんどん近づいてくる。私も枯れてる喉をムリヤリ張り上げて、何度もお父さんを呼んだ。
「アリシア!」
蛍のような光と共に、頭上に人影が現れた。
「お父さん!」
「そこにいるんだな! 待ってろ!」
お父さんは一瞬後ろに下がって……飛んだ!?
音もなく、私の目の前にお父さんが着地した。
「アリシア! 良かった!」
強く、お父さんに抱きしめられた。
「アリシア、心配したんだぞ」
「お父さん、ごめっ、ごめんなさい……私、わたしっ」
「いいんだ、無事でよかった」
ごめんなさいと泣きじゃくる私を、お父さんはずっと抱きしめていてくれた。
前世の結理は、泣いているところを誰かに見られるのが嫌いだった。
泣いてあまえたり、同情を引くのはみっともないと思っていた。
お母さんが死んだときだって、誰にも涙は見せなかった。
けど今は、そんなこと考えていられなかった。
20歳の結理じゃなくて、6歳のアリシアとして声を上げて泣いた。
自分の涙が誰かに受け止めてもらえたのは、初めてかもしれない。
「アル!」
顔を上げると、駆けてきたのはサディさんだった。
傍にお父さんと同じ蛍のような光がチラチラしてる。
「アリシアちゃん! 良かった、見つかったんだな」
「ああ、すぐ家に連れて帰る」
「待って。アリシアちゃん、ケガしてるじゃない」
サディさんが私の足を指差す。
瞬間、お父さんの顔が青ざめた。
「血!? 血が出てるじゃないか! す、すぐに騎士団の救護班を! いや城の医者を!!」
「アル、落ち着けって。とりあえず応急処置するから」
サディさんが私の足に手をかざすと、傷口がポウッと暖かくなった。
それから、手早く包帯を足に巻いてくれる。
「気休め程度だけど、これでちょっと我慢してね」
気休めなんかじゃない。ジンジンしてた痛みが消えてる。
これは……魔法?
「アリシア、大丈夫だ。必ず歩けるようになるからな。お父さんが約束する」
お父さんがそうっと、宝物でも触れるみたいに私を抱きかかえてくれた。
あったかい。お父さんの鼓動が伝わってくる。
さっきまでとは違う涙が込み上げてきた。
「お父さん、ありがとう。大好き」
お父さんの首に腕をまわした。
一瞬息を飲んだお父さんは、すぐに私をぎゅーっと抱きしめてくれる。強く、優しく。
「お父さんも大好きだよ。俺の愛しいアリシア」
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