第13話 ありがとう


 お屋敷に戻ると、メイドさんたちの大歓声に迎えられた。


「お嬢さまああああ!!」


 マドレーヌさんは私の顔を見た瞬間泣き崩れてしまった。


「マドレーヌさん、ごめんなさい。私、勝手に森になんて行って」

「ご無事でなによりでごさいます! お嬢様に何かあったら旦那様に会わせる顔がありません! 死んでお詫びしようにも、奥様にも会わせる顔がございません!」

「大丈夫だから! 死なないで! 私が全部悪いんだから!」


 怒られるよりも叱られるよりも、私の無事を喜んでくれる人の涙が胸に刺さった。



 部屋に戻ると、たっぷりと髭をはやしたお医者さんが来てくれていた。

 私のケガは擦り傷と捻挫。


「せ、先生。こここの子の足は治るんでしょうか! 歩けなくなったりしたら……ッ! この子はまだ6歳なんです!!」

「捻挫と言っているでしょうが。10日もすれば治る」

「こ、この傷は、傷はキレイに治るんですか!? この子は女の子なんです! 嫁入り前のかわいい足に傷なんて……いや嫁になんかやりませんけど! 誰にもうちのかわいいアリシアは渡さない!」

「ええい、やかましいわ!」


 お医者さんが帰ると、大騒ぎのマドレーヌさんとお父さんもやっと落ち着いた。

 マドレーヌさんはホットミルクを作ってくれて、先に部屋を出て行った。

 ベッドに寝かされた私は、お父さんと2人きりになる。


「お父さん、マドレーヌさんたちのことは怒らないでね。私が黙って森に行ったんだから」

「わかってるよ、大丈夫。マドレーヌさんたちもみんなアリシアを捜してくれたからな。後でしっかりお礼をしないと。それから、サディにも」

「サディさんも捜しててくれたんだよね」

「ああ、サディのおかげでアリシアを見つけられた」


 森からお父さんのまわりをふよふよ浮いていた蛍のような光が、私の膝の上に落ちて消えた。


「これはサディが出した魔法だ。お前のいる方向を教えてくれた」

「お父さんとサディさんが、私を見つけてくれたんだね」

「ああ、そうだな」


 お父さんとサディさんが力を合わせて……嬉しい。いろんな意味で嬉しい。

 おっと、こんなときに。いけないいけない。


 あれ? なんか忘れてるような……


「あ! バスケット……落としてきちゃった」

「ああ、それなら」


 お父さんが持って来てくれたのは、汚れたバスケットだった。


「サディがアリシアのだろうって届けてくれたんだ」


 サディさん! 何度お礼を言っても足りません!


 バスケットの中を確認すると、白い布は無事だった。

 布を開くと、いくつか摘んだ花もちゃんとある。

 けど、萎れていた……


「それを摘みに行ってたのか?」


 お父さんが私の手元を覗き込んだ。


「明日の式典で、お父さんに渡そうと思ったの。お祝いに」


 これじゃもう冠は無理。花束にもできない。

 ただ森へ迷子になりに行ったようなものだ……


 と、お父さんが萎れた花に手を伸ばした。


「お父さんのために摘んできてくれたんだな」

「でも、こんなになっちゃって……」

「枯れたわけじゃない。キレイだよ」


 手に取った萎れた花を、お父さんは嬉しそうに見つめた。


「ありがとう、アリシア。式典では今までいろんな記念品や贈答品を貰ったが、この花が1番嬉しいよ」


 お父さんの目が優しく私を見つめる。


「ありがとう、お父さん」

「なんでアリシアが礼を言うんだ?」

「いいの、なんでも」


 アリシアは……私は、こんなにも愛されているんだ。


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