第77話 クワガタ


 うるはがお風呂から出て自分の部屋に戻ると夜の10時を少し回っていた。


 月曜日はこれといった予定もないので夜更かししても良かったが今日は色々あって疲れた。寝る前に少しインするかとゲームにダイブする。



 スタート地点である滝野川にあるうるはの家が表示される。


 ゲームにログインしたのを隠さない状態でいるとフレンドは分かる仕組みになっているがまっさきに雷鳴帝こと山ちゃんからメッセージが飛んでくる。


 “今日は何時までできるの?”雷鳴帝


 “分かんない、でも多分すぐ寝ちゃうよ”うらら


 “通話つなげていい?”雷鳴帝


 “おっけー”うらら



 通話表示があり山ちゃんとつながる。


 「こ、こんばんは・・」


 「こんばんは、山ちゃん」


 「う、うちくる?」


 「あ、うんうんいいよー」


 【招待を受けますか?】【Yes・No】


 どうやらテレポートのアイテムを山ちゃんが使ったらしいメムの無駄遣いと思いながらYesを選択し山ちゃんの家にワープする。


 「い、い、いらっしゃい」


 「はい、いらっしゃいました」


 今日のうららのアバターはキャメル色のワンピースを腰のところで大きなベルトで留めてミリタリージャケットのようなアウターを身に着けている。


 山ちゃんはまるでコスプレの撮影会のようにうららのアバターを記録している。


 「やだ、山ちゃん、恥ずかしいでしょ」


 「あ、うん」


 「何か見せたいものあったのー?」


 「そ、そだ・・こ、これ・・み、みて」


 そう言ってアイテムボックスから取り出したのはクワガタだった。


 「クワガタ?」


 「そ、そう、お、オオクワガタ、つ、つ、捕まえた」


 「レアアイテムなんじゃないの?」


 「お、大きさが、じゅ、10センチある・・ご、ゴールドにできたら1000ゴールド、め、メムなら100000メム」


 「すごいー!よく捕れたね!」


 「あ、あげる・・ぷ、プレゼント」


 「え?こんな高いの受け取れないよ」


 「い、いちと、さんに、き、今日来てた、お祝い」


 「え?お兄ちゃんに?」


 「い、いちとさんも、この、げ、げーむしてるでしょ?」


 「あ、うん」


 「だ、だから・・う、うけとて」


 「山ちゃん・・・ありがとう」うるはの視界が少しぼやけた。


 クワガタを受け取ってアイテムボックスに移す。



 「山ちゃんはこの後どうするの?」


 「お、おれ?」


 「私を見守ってくれるのはありがたいけどいつかは私もここから出ていくよ」


 「う、うん・・・」


 「山ちゃんって普通の人にはない才能にあふれていると思うの、世の中に発表してみたら?」


 「そ、そうか・・な?」


 「うん!山ちゃんが頑張るなら応援するよ!水着のアバターでも着てあげようか?」


 「み、み、みずぎ・・・」


 「あ・・それは山ちゃんには刺激強すぎるか」


 「み、みずぎ・・・」


 「山ちゃん!?しっかりして?」


 「あ・・うん」


 「とにかく今日は落ちるね!クワガタありがとう」


 「お、お、おやすみ、なさい」


 「はい、おやすみなさい」

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