第70話 バトル開始!


 12月20日土曜日



 うるはは朝7時にはアラーム音で目が覚めた。


 とりあえず顔を洗って1階に行くと父親と母親がテーブルに座っていた。陸翔は休みなのでまだ寝ているらしい。



 「おはよう」うるはは2人に声をかける。


 2人からもおはようと声が返ってくる。


 「うるは」


 「なに?パパ」


 「一斗と会っていたのか」


 「うん」


 「そうか・・・」和樹は難しい表情をしてそのまま黙り込んだ。



 そのうちに陸翔が上から下りてきて4人そろったところで朝食となった。


 今日は和樹が作るらしい。


 出てきたのはゆで卵が乗ったドライカレーとサラダだった。


 少し待たされたこともあってお腹をすかせていたので美味しく感じられた。


 食事が終わるとうるはは部屋に戻る。



 化粧をしなくちゃと鏡に向かう。


 一斗のことを考える。


 夢奈


 来夢


 私が来夢を選べば全てが丸く収まる。


 夢奈が異常なほど来夢を好きな気持ち。双子の弟。


 それでも一斗は大人の優しさとどこか手の付けられないような狂暴な色気が交じり合っている。


 一斗を好きにならない女性はいないんじゃないかと思う。


 私


 私は神無月君のことは好き。


 お兄ちゃんは愛してる。


 理性では神無月君を選んで、欲望はお兄ちゃんを欲している。


 どうしたらいいんだろう。


 そんなことを考えて化粧をしているうちに時間はあっという間に過ぎる。



 下着まで着替えるために一度全裸になる。


 鏡に体を映してみる。


 私に価値はある?


 胸と女の子の部分を隠していた両手を外してみる。


 体の全部が鏡に映っている。


 処女だからなのかなあ・・・。



 ぼんやりそんなことが頭をよぎった。




 市ヶ谷駅に着いて少し待つと夢奈が現れた。


 夢奈はスニーカーに黒のタイツ、限界まで短いデニムのショートパンツにトップスは黒のトレーナーとダークブルーのダウンジャケットだった。


 お互いに相手の戦闘力を一瞬計るような間合いの後、


 「うるは、ミニスカートで引っ越しの手伝いするつもり?」と夢奈が問いただした。


 「大丈夫、準備はしてあるから」



 歩いて数分で一斗のタワーマンションに着く。


 タワーマンションは外から入るには3回くらい遠隔で自動ドアを開けてもらわないと一斗の部屋までたどり着けない。


 その度にうるはが呼び鈴を押して開けてもらった。



 18階の部屋に入ると、もうほとんどの物が梱包こんぽうを終わらせてあった。


 今日の夕方には業者が運んでくれるとのことだ。


 「夢奈ちゃんもうるはも来てくれてありがとう、助かるよ」


 「どういたしまして!のために引っ越しの手伝いくらいはしなくちゃ」


 「私もだよ、来たこの部屋を引き払うんだから最後くらいは手伝うよ」


 夢奈とうるはの間にぴりぴりとした空気が漂う。



 「あ、お兄ちゃんちょっと着替えてくるね」そう言ってうるはは奥の部屋に消える。


 一斗の部屋は備え付けの暖房器具のおかげで冬だというのに寒くない。


 夢奈はダウンジャケットを脱いで髪の毛を後ろに束ねると引っ越しの手伝いができる服装だった。足が露出しすぎてはいるが。



 数分でうるはは戻ってきた。


 中学の時の体操服だ。


 下はぴっちりとした青のハーフパンツに【高梨】と大きく胸に書かれた白いシャツ、髪の毛はリボンで結んでいる。胸が大きくなったからだろうパツパツでその大きさが強調されている。


 うるはは秘密兵器を準備していたということだ。


 夢奈に動揺がはしった。


 「うるは、よくそんなの持ってたなあ」一斗は声は冷静だがうるはの体操着姿に目を奪われていた。


 「てへへ」少し顔を赤くしてうつむくうるは。


 どこかから【計算通り】というテロップが流れそうだ。

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