第63話 帰り道


 「そんな一斗さんに迷惑ですよね?」


 「夢奈ちゃんを助けるのだったら俺はそれでもいいけど」


 「え・・」


 クールキャラの2人が少し気まずい雰囲気で下を向く。


 うるはと来夢もなんとなく黙ってしまう。



 このまま一斗と夢奈が結ばれてしまうことがあるのか・・うるははこの2人がお芝居の恋愛で終わらないような予感がしていた。


 来夢はどうなんだろうと思う。来夢からすれば姉である夢奈に恋人ができればうるはと付き合うのに支障はなくなって都合がいいと考えているのだろうか。



 「良かったら連絡先から交換してくれるかな?夢奈ちゃん」


 「あ、はい」


 素直に電話番号とチャットアドレスを交換する。


 なんだか夢奈がすごく乙女になっているような気がする。


 うるはは不安になってきた。自分が思いついたことだがこのままじゃお兄ちゃんを取られちゃうんじゃないか。


 来夢は表情を変えずにそのやり取りを見ている。何を考えているのだろうか。



 耐えきれずうるはは一斗に抱き着く。


 「夢奈・・恋人のフリだからね?フリ」


 「分かってるようるは、取ったりしないよー」


 「ほんとに?」


 「でも、うちの来夢も取らないでよ?今日は抜け駆けしてたんじゃないの?」そう言って夢奈は来夢の頭を抱きしめる。



 「こほん・・・とにかく、夢奈のお見合いの話が消えるまでは2人ともなるべくくっついていて引っ越しも夢奈も手伝ってあげてね」


 「はーい、来夢」




 一斗のマンションを出たのは夜の8時半を過ぎていた。一斗はお酒を飲んでいるからと言う理由で車で送れないことを詫びていた。


 うるはにタクシー代を渡そうとするがそれはうるはが断った。3人は電車で帰ることにする。


 飯田橋から東京メトロ南北線に乗って駒込まで行きそこから田端方面と巣鴨方面に別れる。うるはは巣鴨で乗り換えて西巣鴨から歩きになる。


 厚底ブーツはあまり履きなれないのでバランスが難しいなと思いながら歩いていた。


 ゴーグル内のハクと話しながら歩く。


 “バイト先のコンビニに入って”ハクが少し緊迫きんぱくした声で話す。


 こういう時のハクは従うべきだと分かっているので少し早足でコンビニへ向かう。


 後ろから男がついてきているようだ。年齢などは分からないが明らかにうるはをつけているように思える。


 走ったらその男も走り出すかもしれない。何事もなかったかのようにコンビニへ向かう。


 コンビニへ行くのは少し家とは逆方向だが家の位置を特定されるよりは良かったのかもしれない。



 コンビニの中から男を見ると20代後半くらいだろうか。


 迷ったが山本に連絡を入れる。


 “コンビニに迎えに来てくれる?”うるは


 ”了解”亀黄



 さすがだった。返信まで1分も経っていないのではないか。


 そして迎えに来るのも早かった。山本は着替えるということを知らないのかもしれない。


 ジャージ姿の山本がコンビニに現れうるはと合流する。


 どうみてもミスマッチのカップルだがそれを見ると外にいた男は闇に消えていった。



 うるはは山本の腕にしがみつく。


 山本は何も言わずにゴーグル越しにうるはを見ている。おそらくうるはのデート服をコレクションに加えようとしているのだろう。



 「山ちゃんほんとありがとう」


 「そ、そんな、こと、ない」ジャージ姿の山本は顔が赤くなっていた。

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