第60話 チーズフォンデュ鍋


 3時10分くらいに来夢が都庁方面から小走りでやってきた。



 「待った?」息を切らせながらうるはに声をかける。


 「ううん、今来たところだから」


 「っていうか高梨かわいいな・・・ナンパされたでしょ?」


 「されたかな??それより神無月君もかっこいいね、ビジネスマンって感じ」


 来夢は紺の上下に黒いロングコートを羽織っていた。


 ロングコートのえりの部分の切れ込みが独特でおそらくヨーロッパ製なのだろう。



 「行こうか」


 「どこに行くの?」


 「とりあえずお昼食べてないからなにか食べに行こう?」


 「あ・・私も食べてなかった」


 「高梨はチーズ好き?」


 「あ、大好きすぎる!」


 「じゃあチーズ料理のお店行こうか」


 「うん」


 2人は西口から東口まで移動して歌舞伎町方面に出る。


 来夢が連れてきてくれたのはチーズフォンデュ鍋がおすすめのお店だった。


 席について『生うにチーズフォンデュ鍋』を注文すると少し時間ができる。



 先に来夢のアイスコーヒーとうるはのオレンジジュースが運ばれてきて2人でそれに口をつける。


 「今日は突然誘っちゃってごめんね」


 「ううん、私も神無月君に連絡しようか迷ってたんだ」うるははゴーグルも外している。


 「そうなんだ、一斗さんのこともあったしそれより高梨に会いたかったからさ」


 「うん、ありがとう、お兄ちゃんのこと、ほんとに・・・」


 「それはこちらこそなんだよね、役員面接でもすごい評判が良くて営業成績も相当なことになると思うしうちの会社としても人材は何人でも欲しいからさ」


 「そうなんだね・・なんか神無月君って遠くにいるなあ」


 「え?そんなことないよ?高梨と同じ16歳だよ」


 「私なんて何も考えてないよ」


 「そうかな?」


 「あ、ねえ進路のこととか相談してもいいかな?」


 「俺で分かることなら」


 「大学に行くのも専門学校に行くのもあまり乗り気じゃないんだよね、趣味と言えば絵を描くことだけどそれでプロとか目指しているわけでもなくて・・どうしようかなって」


 「うーん・・・そっかあ、正直俺は進路で悩んだことないんだよね、生まれた時からNO GODを継ぐように育てられたし」


 「え??そうなの??すごい・・・王子様??」


 「王子様はやめてよ」


 「でもすごいなあ」


 「全然すごくないよ、もしうちの会社がつぶれてしまったりしたら俺には何も残らないからさ」


 「でも、そうさせないために頑張っているんでしょ?」


 「うん、一斗さんに入社してもらったのも組織の活性化のためもあるよ」


 「そっかあ・・」


 「まあ俺の話はいいとして、今まで何かに憧れたこととかなかったの?看護師さんとかさ」


 「うーん・・・病院関係はなんか怖くてとか思っちゃうかな・・・憧れかあ・・・あ!!!保育園の先生になりたいって思ったことあったかも!」


 「それを目指してみたらどうなの?子ども好きそうだし」


 「あー・・・そうだ・・今までなんで忘れてたのかな・・・うん・・そうだね!色々と調べてみるよ!」


 「少しは役に立てたのかな?」


 「すごい役に立ったよ!さすがブチョーさんだね」


 「部長はやめてよ」


 「はい、神無月君」



 話が一区切りついたところでチーズフォンデュ鍋が運ばれてきて中央に置かれる。


 冬ということもあって温かいなべは最高に美味しかった。

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