第51話 渋谷


 その夜はずっと山本と話をしていた。


 もう名前も忘れていた小学校の頃の友達の名前も山本は覚えていて、あの子はいじわるだったなどとまるで隣にいたかのように話してくれる。


 今までうるはは43回落とし物をしていて、それはいつもこっそり山本が元の所に戻しておいてくれたらしい。


 妖精さん?とうるはは思った。


 「山ちゃんって呼んでもいい?」


 「あ、ああ、い、いいよ」


 「山ちゃんは私の写真集めているんでしょ?」


 「う、うん」


 「これからは撮っちゃだめだよ?」


 「うん・・・」


 「その代わり私が自撮りしたの送ってあげるからね?」


 「い、いいの?」


 「うん」


 ゴーグルで自撮りをする時はスマホと同じように手に持って撮る。


 床に置いてペン型コントローラーでシャッターを押して撮ることもできる。


 うるはは今までの感謝も込めて笑顔で自撮りをして山本に送信してあげた。



 うるはの瞳には光が写り込んでいた。



 「あ、ありがと」


 言い方は普通だがだいぶ喜んでいるらしい。


 うるはの部屋の中で撮られた写真は初だった。


 山本はすぐにその写真を雷鳴帝の部屋の一番目立つところに飾る。


 「お、おくって、い、いくよ」


 午前2時を過ぎた頃山本がそう言った。


 山本の家からゲーム内のうるはの家まで数分だ。



 家の前でバイバイをして部屋に戻る。


 部屋ではハクが待っていてくれた。


 「ただいま」


 “おかえりなさい”


 「心配してくれてた?」


 “それはそうだよ”


 「安心して、ナイト様だったから」


 “そうなんだ”


 「うん」


 そう言うとベッドに入り込みそのままぐっすりと眠った。



 山本と話したからだろうか小学校の時の夢をみたようだ。




 12月14日日曜日


 うるはは夢奈と結愛と3人で渋谷に来ていた。


 渋谷はゴーグル型を着けている人が多数派で7割くらいだろうか。


 ハチ公前で落ち合った3人はテンションが高かった。


 「神無月君も連れてくれば良かったのに」人混みに消されないように少し大きな声でうるはが言う。


 「来夢は土日は忙しいからさ」


 「そっか」


 3人はまずはファッションチェックも兼ねてテナントビルに入ってみる。


 さすが渋谷というような品揃えだし、値段もそれほど高くない。


 それでも何かを買うというわけではなく一通り目ぼしいお店をまわる。



 集まったのが11時だったのですぐにお昼の時間になった。


 12時ちょうどは混んでいそうなので1時間ずらそうとなってゲームセンターへ移動する。


 ゲームセンターと言えば結愛だった。


 サッカーの埼玉県U-18代表だけあって運動神経は抜群だがリズムゲーは全国レベルなのかもしれない。


 上着をうるはに渡すとショートパンツにトレーナー姿となる。


 身長は153センチ胸は多分トラップしやすい大きさで太ももにはアスリートと思わせる筋肉がついている。


 コインを投入して音楽が始まる。


 アップテンポな曲で難易度はマックスだ。


 激しい曲に合わせて結愛の小柄な体が弾ける。



 難易度の高いステップも危なげなくこなしていく。


 10分経過した時には30人くらいのギャラリーができていた。


 なんとなくステージを終えたシンガーのような雰囲気でうるはと夢奈の所に戻ってくる。


 「すごいね!結愛」2人ともそう言うしかなかった。


 「e-スポーツの大会に出たらいいとこまで行くでしょ?」夢奈がウーロン茶を出しながら聞いてみた。


 「サッカー部のほうでそういうの禁止されてて」


 「そっかあ・・残念」

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