第44話 重なるキス


 一斗がキッチンに立って料理をしている間、うるははずっと後ろから一斗に抱き着いていた。


 料理は少しやりづらいかもしれないが一斗は何も言わずに料理を進めていく。


 魚介類を食べやすく切ってくれている。


 どうやらパエリアを作ってくれるようだ。


 「味は保証しないからな」


 「いいよ、なんでも」


 「なんでもか、激辛にしちゃうぞ??」


 「あ・・それはだめえ」



 一斗は手際よく料理を進めていく。


 シェフになってもやっていける人なんじゃないか、うるははそう思った。


 「この皿をテーブルの上に持って行ってくれ」


 「はーい、あ、片付けは私がやるからね?」


 「そっか、それは頼むわ」



 テーブルには大き目のお皿に2皿のパエリアとシーザーサラダとコーンスープ、それにウーロン茶が置かれていた。


 「あれ?お兄ちゃんはお酒飲まないの?」


 「飲んだら送れないだろ」


 「泊っていくー」


 「だーめ、先週は神無月部長のところに泊まってたんだろ?いい加減親父が怒るぞ」


 「そうだけどさ・・・」


 2人でパエリアをつつき始める。



 「わあ!美味しいね!お店のより美味しく感じるかも?」


 「それは大げさだよ、でもありがとう」


 「ううん、ほんとに美味しい!それに私がコーンスープ好きだったの覚えていてくれたんだね」


 「ああ、あの頃はうるはよく飲んでいたなって」


 「私のことなんて何も覚えていないかと思ったよ」


 「そんなわけないだろ」


 「うん」また涙がこぼれてくる。


 「メイクが崩れるぞ」


 「だってお兄ちゃんが泣かせるんだもの」


 「そっか・・俺が悪いのか」


 「悪くはないよ!絶対」


 「うん」



 食事が終わり、うるははお皿をキッチンに持っていき洗いはじめる。


 「今日はさ、ただうるはにありがとうって伝えたかったんだ」


 「うん」



 洗い物が終わるとソファで深く座って「TRUE LOVE 3」をプレイしている一斗の横にぴったり座る。


 うるはもゲームを起動させる。


 GPSをオンにすることで現在地からゲームを始められる。


 一斗のアバターの名前は鷹斗たかとだった。


 「もしかして高梨一斗たかなしいちとの高と斗を取ったの?」


 「あーすぐにばれるのな」


 「ばれるよ」そう言って一斗の膝の上に乗っかる。


 「少し色っぽくなったか?」


 「胸が大きくなったかも?みんなに言われる、陸翔りくとにまでだよー」


 「あのエロガキ、今度あったらぶっ飛ばしとくわ」


 「暴力はだめ」


 「ああ、そっか」



 「ね、お兄ちゃん」


 「ん?」


 「キス・・して」


 「ゲーム内でか?」


 「どっちも」



 2人のくちびるがリアルとゲーム両方でつながっていた。

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