第42話 ドライブ


 髪を乾かして3階の部屋に戻るともう11時になっていた。


 ゴーグルを着けて涼葉にでもチャットを飛ばそうとしているとチャットの着信がある。


 “明日時間あるか?”一斗


 え?お兄ちゃん・・・


 “明日は何も予定ないよ!!”うるは


 “夕方くらいにそっちに行くから公園で待ち合わせよう”一斗


 “うん!!”うるは


 “じゃあ、おやすみ”一斗


 “おやすみなさい”うるは



 あまりの嬉しさにくまの抱き枕型コントローラーをぎゅっと抱きしめる。


 “あまり力を入れたら痛いよ”ハクから苦情が出る。


 「でもお兄ちゃんからだよ?」


 “はいはい”


 すぐにタンスを開けて明日着ていく服を考える。


 この前はどんな服だったっけ?


 やっぱりスカートのほうがいいのかなあ・・・。


 あ・下着とかってやっぱり大人っぽいのがいいのかな?


 そこまで考えて顔が真っ赤になってしまう。


 私なに考えているんだろ。



 結局服選びが終わったのは夜中の2時を過ぎたあたりだった。


 ハクも服選びに付き合ってくれた。



 12月12日金曜日


 天気はいいが風の強い1日だった。


 夕方5時に一斗と公園で待ち合わせだ。


 3時くらいから着替えて時間が経つのを待っている。


 今日のうるはの服装はショートブーツにひざ丈のチェック柄スカート、濃紺でVネックのブラウスに明るいキャメル色のロングコートだった。


 なんかOLさんぽいかな?


 などと考えていた。


 15分くらい前には家を出る。


 どうやら山本はまた監視しているようだ。


 迷惑条例違反めいわくじょうれいいはんなどで捕まえてもらうことはできるのだろうか?ふとそんなことが頭をよぎった。



 公園に着くとまだ一斗は来ていないようだ。


 時間丁度になっても来ない。


 風がスカートをまくるように吹く。


 寒い。


 時間的に子どももいなかったのでブランコに座って兄を待つ。


 (もう・・・ばか)


 そんなことを考えていると公園入口の方でクラクションが鳴らされる。


 そっちの方を見ると一斗がスポーツカーに乗っている。


 車のことはうるはには分からないがどう見ても高そうだ。



 「お待たせしましたお嬢様」


 そう言って助手席を開けてくれる。


 うるははスカートを抑えながら助手席に乗り込む。



 車はエンジン音がしなかった。


 どうやら電気自動車のようだ。


 車の重心じゅうしんが低いせいかスピードを出しているように感じる。


 一斗は髪の毛を黒く染めて短くしている。なにかサラリーマンと言われればそう見えるかもしれない。


 「似合っているね、お兄ちゃん」照れながらもようやく伝えた。


 「そうか?」一斗はゴーグルを着けて前を見ている。どうやら自動運転らしくハンドルからは手が離れている。


 「来週面接なんでしょ?」


 「ああ・・うるは、なんかありがとうな」


 「ううん、私はなんにも」


 「今月中にはマンションも引き払うつもりだ」


 「そうなんだ」


 「神無月部長がもう物件を送ってきてくれていて」


 「そうなんだ・・・神無月君が」



 車は師走しわすの都内を走るが所々で渋滞に捕まる。



 車で40分くらい走っただろうか飯田橋のタワーマンションに着く。


 地下の駐車場に停めて中層用エレベーターに向かう。


 一斗が中指のリングをかざすと自動ドアが開きエレベーターホールに入る。



 うるはは少し下を向きながらそれについていく。

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