第37話 映画


 買い物が終わると近くの映画館でハクと映画を観る。ゲーム内では劇場公開が終わったばかりの映画が観られる。


 ハクの分は払わなくて良いが一回のみの視聴で9000メムだ。


 春に話題になってた邦画を2人で観る。


 高校生のカップルがつまらない喧嘩で別れてしまい、お互いに好きな気持ちが残っていながらそれを伝えられずに彼女の方に別の恋人ができてしまう。


 彼氏にも彼女候補はできるものの別れた彼女のことが忘れられずに彼女に想いを伝えようとあの手この手で迫る。


 最後は、と言うところでうるはは寝てしまった。



 時間は夜中の3時を回っていた。


 ”うららログアウトしよう?”


 「ん?」


 ”映画館でログアウトしたらペナルティになっちゃうよ”


 「あ・・そうか」


 一定時間を超えて同じ場所にいると強制的にログアウトされてしまう。バザー放置などの場合はバザーコマンドを使えばいつまでも放置できるができる場所は限られている。


 うるははアイテムフォルダからホームワープを選択する。



 高価なアイテムだが自宅まで飛べる。


 滝野川の自宅まで着いたところでゲームからはログアウトした。



 12月10日はこれといった予定がなかったのでうるはは昼まで寝ていた。


 朝は陸翔が部屋に入ってきていたような気配はあった。


 「ハク、何時?」目が覚めるとまずは時間を聞く。


 ”午後1時15分だよ、うるは”


 洗面台に向かって歯を磨く。ゴーグルは着けたままだ。


 「ねえ、あの映画って最後どうなったの?」


 ハクがこっそり結末を教えてくれた。




 ”カード使っていいからスーパーで何か買って食べてね”こずえ


 チャット履歴には母親からのメッセージが残っていた。


 スーパーは山本の家とは反対側にある。少し安心する。


 スーパーでカップ麺とみかん、お茶を買って家に戻って来る。




 玄関の所で望遠モードで山本の家を見るとやはりこちらを見ている。


 うるはは何か背筋が寒くなる気がした。


 まさか山本はずっとうるはのことを監視しているのだろうか?お風呂やご飯はどうしているのだろう?



 玄関を素早く開けると中に入って鍵を2重に閉める。


 「いつからなのかな?ハク」


 “うーん、僕もこの前気づいたばかりだけどゲームは春くらいからやっているみたいだね”


 おそらくはゲームを始めたときから恋人にうるはという名前をつけているのだろう。


 山本のことを考えていると気が滅入めいるのでカップ麺のためにお湯を沸かす。


 来夢や兄に相談しようかと思ったが話が大げさになるのも嫌だった。


 涼葉はそのあたりはよく考えてくれるはずだ。


 味噌味のカップ麺をすすりながら遠くを見る。



 (お兄ちゃんと神無月、2人とキスしちゃったんだな)


 そんなことを思い出しながらうるはは顔が赤くなっていた。

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