第33話 亀黄


 うるはがレジに立っていると見慣れない男が会計に並んだ。


 会計は商品を店員に渡すと大抵の人はICカードか現金で払う。


 そのために基本的に店員はお客さんとは接触しない。


 30代後半から40代に見えるその男は肥満というくらい太っていて12月だというのにスウェットの上下で買い物に来ていた。


 「高梨うるはさんですよね?」


 男に言われてドキッとした。なんで私の名前を知っているのだろう?


 その男はクオカードで会計をすると言った。


 他の決済手段と違ってクオカードは偽造カードの不正使用防止などの観点から店員がお客さんからじかに受け取ってレジを通す。


 クオカードを受け取る時に男の手がうるはの手をぬるっとわざと触れるように動いたのが分かった。


 それでも営業スマイルはくずさずに会計を済ませる。


 購入品も避妊用のコンドームなどが混ざっていてうるははかなりひいていた。



 「ぼ・・僕、山本亀黄やまもとかめきって言います、うるはさんの中学の先輩です」


 「せんぱい・・ですか・・」


 「はい」息が荒い、緊張しているのか興奮しているのか・・・。


 山本と名乗る男はまだ何か話したそうだったが、後ろに会計待ちができそうな気配を感じてコンビニから出ていった。



 うるはは何となくこのピチピチの制服のせいかもと思って帰る前に店長を捕まえて1つ大きなサイズに変えてもらった。


 その日は夕方4時にシフト終了だった。


 店長に挨拶をして家まで数分の道を帰る。


 冬とはいえ4時台はまだ外も明るい。


 ゴーグルをしているとハクが一度右方向を見てと指示した。


 うるはは何のことか分からないが素直に右を見てから家に帰った。



 「またゲーム?」リビングでは陸翔がゲームをしていた。


 うるはの方を見ることもせずに「おかえりおねーちゃん」と返事をする。



 3階に上がるとハクが話しかけてくる。


 ”これがさっき撮った映像だよ、うるは”


 それはゴーグルの超高性能カメラが捉えた画像だった。


 右を向いた時の家の2階部分


 一見普通の家に見える。


 ハクが補正をいれながらズームしていく。


 2階の部屋から望遠レンズでうるはのことを撮影しているようだった。角度的にうるはの部屋は見えないが高梨家の玄関までは見渡せる位置だろう。


 ハクが最大望遠まですると分かる、お店に買い物に来ていた山本だ。


 家から見えるものを撮影するだけでは犯罪に当たらないかもしれないが気味が悪い。


 ”気を付けてね、うるは”


 「うん、ありがとうハク」

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