第27話 和解


 「お兄ちゃん」


 「ん?」


 「帰ってきてほしい」


 「俺の家はここだ」


 「だめ、こんな生活いつまでも続かないよ」


 「俺が家を出てからここに住めるようになるまでどれだけのことをしたと思っているんだ?それこそうるはには言えない、もう俺にはあそこに帰る資格なんてないんだよ」


 「なら、なんであの日帰ってきたの?」


 「・・・・」


 「お兄ちゃんにとってはあの家がやっぱり特別なんじゃないの?かな・・・」


 「俺の働いている店で俺はナンバーツーなんだ、売り上げがさ」


 「で、ナンバーワンのやつとほとんど売り上げの違いがなくなってきているんだが、その時ナンバーワンホストの客が俺を指名してきた」


 「そいつは俺がナンバーワンになるために客を取ったと思ったんだろうな」


 「そいつの派閥はばつのホストから嫌がらせを受けて、命まで狙われていた」


 「だから、何も食べずにどこにも寄らずに逃げ回っていた、そうしたらいつの間にかあそこで倒れていた」


 「・・・それって本当に困った時に私の家が必要だったってことじゃないの?」


 「そうなのかもな」


 「ねえ、普通の仕事しようよ、給料安くてもさ、私がずっとそばにいてお兄ちゃんの足りない分のお給料稼ぐから」


 「そういう訳にはいかないだろう、神無月君もそれでは困るよな」


 「あ・・いえ僕は」


 「どちらにしても今の店はやめる、そのために今日出勤したんだ」


 「そうなんだ」うるはの顔がぱっと明るくなる。


 「ただ、俺ももう22歳だし家には帰らない」


 「お兄ちゃん・・・」


 「ただ、うるはが心配するような仕事はしない」


 「本当?」


 「お前らどこから監視しているか分からんからな、また真夜中の寒い中に妹を立たせてる訳にもいかないわ、お前らが立っていた場所やばい場所だったぞ?」


 「ごめんね、おにいちゃん」そう言ってうるはは一斗に抱きつく。


 「うるははいつまでも女の子だな」うるはの頭をなでる。


 「だって・・・」一斗の胸に顔をうずめる。


 「あの」


 「なんだ?神無月君」


 「僕の家は不動産会社を経営していてアパートを借りるならご紹介できます、それともし不動産営業のような仕事でもよければご紹介できるかもしれません」


 「お坊ちゃんなのかな、たしかに不動産なら給料はいいな」


 「もし良かったら名刺だけでも受け取ってください」


 そう言って来夢は名刺を差し出す。


 【株式会社 No GOD 不動産事業部 部長 神無月 来夢】


 「君は部長なのか」


 「はい、学校のない時は会社に行っています」


 「ほう」そう言って一斗は名刺を胸ポケットにしまう。



 「ね?お兄ちゃん」


 「なんだ?」


 「電話番号とチャットアドレス教えて」


 「ああ・・そう言えば教えてないか」


 うるはと一斗はお互いにゴーグルをかけて相手の方を見る。


 ”連絡先情報を共有しますか?”と表示が出て”はい”を選択する。




 やっと一斗と繋がった。うるははそう思えた。

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