第26話 タワーマンション


 飯田橋駅から少し離れた所にタクシーは停車する。


 タクシー代はアプリで清算しているらしい。


 一斗は2人の方を見るでもなく目の前に立っている30階建てのタワーマンションに入っていく。


 うるはと来夢も離されないようについていく。


 

 大きな正面玄関の自動ドアは中指にはまっているリングをかざすと開いた。


 エレベーターも低層・中層・高層と3つに別れているがその呼び出しにもリングの認証が必要だった。


 一斗は中層エレベーターを呼び出す。


 待たされたのは1分くらいだろうか、エレベーターが1階まで来て扉が開いた。


 3人の他には乗る人もいない。


 18階でエレベーターは止まり、そこから一斗の部屋に行く。


 部屋のドアもリングをかざして開錠する。



 一斗がドアを開けると中からバラのような匂いがただよってくる。


 「入れよ」簡単にそれだけ2人に告げる。



 靴が10足くらい置かれている玄関


 そこから短い廊下がありその先がリビングになっている。


 いかにも高級そうなソファ


 座るようにうながされて向かい合って座る。


 エアコンは遠隔操作なのかタイマーなのか部屋に入ってきたときから稼働しており室内は暖かかった。


 

 うるははゴーグルを外して二重のきれいな目で一斗を見る。


 「何しに来たんだ?」


 帰ってきてほしい、普通の仕事をしてほしい、好きです・・・色んな言葉が頭をよぎるがうまく言葉にならない。


 

 「用がないなら帰れ」


 「お兄ちゃん・・・あのさ」


 「なんだ?」


 「なんで怪我してたの?」


 「同僚に刺された」


 「え?」


 「客を取ったとか言いがかりをつけてきてな」


 「ねえ、もうそんな仕事やめなよ」


 「それよりどうやって俺の居場所が分かったんだ?」


 「涼葉にちょっとお願いしたんだ」


 「お願いしたにしてもすごいな・・まあ涼葉は昔からな」


 「ここにいる神無月君にも協力してもらってさ」


 「そっか・・神無月君、さっきは悪かったな」


 「いえ、そんなことないです」


 

 「お兄ちゃんコーヒー好きだったよね?」


 「え?あーよく覚えてるな」


 「ここにも置いてあるの?」


 「ああ、そこの棚の上にある」


 「私が淹れてあげる」


 うるはが背伸びをして棚からコーヒーを取る。


 お湯はケトルですぐに沸いた。



 高級そうなコーヒーカップに3人分のコーヒーを入れてテーブルまで運ぶ。


 会話のないリビングにコーヒーの湯気だけが漂う。

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