第13話 高梨一斗


 うるはの部屋に入ると陸翔がうるはのベッドの掛け布団をめくって一斗をそこに寝かせる。


 一斗は痛そうにしながらも意識ははっきりとしてきたらしい。


 「サンクス」と言いながらベッドに入る。


 うるはは5年ぶりに突然会った兄に動揺していた。


 というかキスまでしたので恥ずかしくて顔を見れなくなっていた。


 


 一斗は父親と前の奥さんとの子どもでうるはと陸翔からすれば半血はんけつきょうだいと呼ばれる間柄になる。


 うるはと陸翔の母親は分け隔てなく優しくしていたように思えたが。


 一斗は中学に入るころから不良仲間と遊び始めて、どんどんと手が付けられなくなっていった。


 毎晩のように友達の家を止まり歩いていた一斗が自宅に帰ってきたところで父親が怒鳴り飛ばしてそのまま出ていった。



 一斗は何か話そうとしていたようだがぐっすりと眠っている。


 その呼吸音が安定しているのでうるはも陸翔もほっとしている。


 現在時刻は16時13分


 母親が帰ってくるまでには3時間くらいあるだろう。



 「陸翔は片づけて来なよ、荷物とかキッチンに置きっぱなしでしょ」


 陸翔はそう言われて1階に降りていく。


 うるははベッドに座ってゴーグル越しに兄を見る。


 プロフィールなどを登録しておく。


 


 大好きだったお兄ちゃん。


 当時小学生だったうるはを女性として意識するわけもなく、ただ妹として可愛がってくれた。


 いじめっ子にいじめられたときは一斗の舎弟しゃていの舎弟がいじめっ子をこらしめてくれた。


 それ以降小学校でも中学校でもうるはをいじめようという子は出てこなくなるほどであった。


 

 今の私は女の子に見える?お兄ちゃん?


 少しはドキドキしたりする?


 ファーストキスだったんだぞ?


 私の部屋にいるのにそんなにぐっすり寝ちゃってるの?


 女の子だなんて考えてもいないから?


 かっこいいお兄ちゃん。


 お兄ちゃんにならなんでもしてあげてもいいんだよ?


 半分だけ血がつながってるお兄ちゃん。


 うるはのえっちなとこ見たり胸さわったりとかしてもいいんだよ?


 ねえ、さわってほしいな。



 いつの間にか顔が真っ赤になってうるはの息が荒くなっている。


 うるはは寝ている一斗の顔に自分の顔を近づける。




 「お兄ちゃん起きた?」元気な声で陸翔が入ってくる。


 うるはは1メートルくらい後ろに飛び跳ねる。


 「だから急に入ってこないでよ陸翔!」今回は相当怒っている口調だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る