第7話 恋の形


 「ただいまー」うるはが家に着いたのは18時過ぎだった。


 「おかえりー」弟の陸翔りくとの声が聞こえる。女の子のような高い声だ。


 陸翔はリビングの大画面テレビで何やらゲームをしているらしい。


 テーブルに置かれているマカロンを1つ手に取るとそのまま3階の部屋に向かう。



 部屋に着くとベッドにダイブするように寝転がる。


 「ハク」


 ”うるは”


 抱き枕型コントローラーを握りしめる。


 ハクからの反応も感じられる。


 「ねえ、ハク」


 ”ん?”


 「私って流されやすいのかなあ」


 ”そうだよ、いまさら?”


 「んー・・・まあ、そうなんだけど」


 ”そこがかわいいけどね、うるは”


 うるはの部屋にいるがゴーグルに映し出されているのは地中海のリゾート地である。


 うるはが寝そべっているのに合わせてハクも横になっている。というか抱きしめあっている形だ。可愛いくまの抱き枕の反応とゴーグルによって視覚に飛び込んでくる情報とでまるでハクが実在しているように思える。


 人工知能であることさえ感じさせないハクのリアクションもうるはをとりこにする。


 「ねえハク」


 ”ん?”


 「キスして」


 ”ああ・・・うるは”


 抱き枕がうるはを引き寄せるように動く。


 くちびるの感触はないが美しいハクの顔が視野いっぱいに広がる。


 ドキドキする。


 これはこれで恋の形だよね、などとうるはなりに納得していた。



 「おねーちゃん!」急にドアが開いて陸翔が入ってくる。


 「だから急に入ってこないで!」


 ハクとの世界にひたっていたうるはが陸翔をにらみつける。


 「お風呂入れだって」


 「あー、うん」


 「・・・」


 「なーに?陸翔」少しからかうようにまだ小さい陸翔を見る。


 「えっと」


 「んー?なにかな?」


 「いっしょにはいろ・・・」


 「まさか陸翔君は小学5年生になってお風呂1人で入れないのかな?」


 「いつもいっしょじゃん・・・」少し泣きそうになりそうだ。


 「ごめん、陸翔、一緒にはいろ」そう言って陸翔の頭をなでる。


 2人は1階に降りていった。

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