Data.6 大高札
その後、町に戻るまでに結構な時間を要した。
理由は……単純に道に迷ったからだ。リアルすぎるゲームの森を適当に歩けばこうもなる。むしろ、迷っても帰ってこられたことが奇跡!
途中、森の中でログアウトしてやろうかとも思ったが、町のような戦闘禁止区域以外でログアウトすると、アバターがフィールドに残ってしまうらしい。
プレイヤーの意識が抜けたアバターなどただの
町の中でログアウトすればアバターは消え、次のログイン時に再出現する。これなら変なことに巻き込まれることもない。ログアウトの方法は簡単で『ログアウト』と口に出せばいいだけだ。その後、確認画面が出てそれに同意すればログアウトできる。
ちなみにこういった情報は、疑問を口にするだけでゲーム側が答えてくれる。とても親切設計でVRMMO初心者の私は非常に助かりますなぁ~。
「さて、どう終わりにするか……」
ログアウトする時に決めポーズでもあればカッコいいかなと思い少し考えていると、興味深い会話が耳に入ってきた。
「おい、
「マジかよ! 小物界の大物と言われるだけあって、それなりに強えはずだよな?」
「そりゃそうよ! なんたって今回の
「うひょー! 倒した奴にはいい小遣いだなぁ! で、誰が倒したんだ?」
「トラヒメっつー聞いたこともないプレイヤーだ。てか、実際に大高札を見てみろよ!」
「わーったよ。今から行こうぜ!」
2人組の男はそう言って町の中心部へと向かっていった。
「今、思いっきり私の名前を言ってたなぁ……」
それに隙間鼠って私が串刺しにして倒したズズマのことだよね? どうしてあの戦闘の情報が広がっているんだろう? あの戦いにギャラリーなんていなかったのに。
まあ、その大高札って奴を見てみればわかるかも。さっきの2人組を追って私も町の中心へと向かった。
「なるほど、これが大高札か。でっかい掲示板って感じね」
人の背丈よりずっと大きく、横にも長ーい掲示板がそこにはあった。周りにはたくさんのプレイヤーが集まっていて、ぺちゃくちゃおしゃべりをしている。その中にさっきの2人組を見つけ、私はこっそりと彼らの後ろから大高札を覗き込んだ。
そこには私とズズマの顔と名前が張り出されていた。しかも、ズズマの顔の方には赤い墨汁で
「なんだこれは……」
私がズズマを倒したことを伝えているのはわかるけど……誰が何のために?
いつ撮られたのかわからない私の顔写真は、非常に映りが良くて美少女だ。誰かを斬るたびにこんなかわいい写真が張り出されたら目立ってしょうがない!
というか、もう写真の本人がここにいると気づいている人がいるかもしれない。騒ぎになる前にログアウトした方がいいかも……。
「あのぉ~、もしかしてトラヒメさんですか?」
「あ、ああ……はい」
時すでに遅し。青みがかった白髪の少女に呼び止められてしまった。そして、『トラヒメ』の名を聞いたプレイヤーの何人かがこちらを振り返る。
私、目立つの苦手なんだけどねぇ……。
「ありがとうございます! あの男を倒していただいて! あっ、私『うるみ』と申します!」
私の気持ちなどつゆ知らず、うるみは長い白髪を振り乱して頭を下げる。白を基調とした
装備を見るに、私より長くこのゲームを遊んでいるのは明らかだ。なんてったって私は最初から着ている庶民っぽい地味な色合いの着物に、偶然手に入れた長い刀をぶら下げた完全なる浪人スタイルだもんね!
うるみは私より顔立ちや体つきが幼いとはいえ、何倍もおしゃれだし強そうに見える。そんな彼女が謎の浪人女子に何度も頭を下げているのだから、目立ってしょうがない!
「えっと、どういたしまして……? 何か人に感謝されるようなことをしたとは思ってなかったよ。自分のために好きで斬ったようなもんだからさ」
「それでもありがとうございます! おかげで貴重な技能が戻ってきました!」
「技能が……戻ってくる?」
「えっ、もしかしてツジギリ・システムをご存じないんですか?」
「つ、ツジギリ・システム……!?」
そういえば、ズズマもそんなことを言っていたなぁ。冷静に聞くとかなりダサカッコいいネーミングだけど、このゲームを遊ぶ上で重要なシステムではあるらしい。
「ご存じないようですね。まあ聞かない限り教えてもくれないシステムですから……。あ、ということはトラヒメさん、このゲームを始めたばかりで?」
「うん、始めて1時間くらいかな」
「そ、それでお尋ね者に仕置きを……! すごいです!」
「ありがとう。それでそのツジギリなんとかっていうシステムは……」
「簡単に言えば『殺人』と『強盗』を行うためのシステムですね」
まあ『
でも、だからこそ興味を惹かれる!
とりあえず、うるみの話を真剣に聞いてみることにしよう。もちろん、私は物盗りのために人を斬る気はないけどね。
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