釣り堀で釣った魚は美味い
サンマのフルコースから1週間。残暑もまだまだ張り切っている10月の始めに俺たちは水族館に来ていた。
当然と言えば当然だが人は多い、しかし外の暑さがないと言うだけでかなり気分的には助かる。もちろん綾香とデートというのが1番だが。
その綾香と言えば先程からずっとクラゲが入っている水槽を眺めている。
「綾香、そろそろ10分経つけど……そんなに魅入るものか?」
「クラゲ可愛くない?」
「可愛いとは思うがそんなに長時間眺めるものじゃないと思うぞ」
「そうかなぁ?」
そんな会話をしている間もクラゲから視線を逸らすことはない。クラゲもそろそろ見すぎじゃない?とツッコミをいれたい思っていることだろう。
「こういうふよふよしてるの見るの好きなんだよね」
「じゃあクリオネは?」
少し離れたとこにあるクリオネの水槽を指してそう言う。
「あれはダメ。食事が可愛くない」
「あぁ……」
確かにクリオネの食事はちょっとグロい。けどあの触手の感じは割といいと思うんだけどな、俺は。まぁ価値観の相違というやつだろう。
「クラゲ見るのはいいけど時間を忘れるなよ、ショー見るんだろ?」
「そうだった!」
「ほんとに忘れてたのか」
「ほんとに忘れてました」
「イルカはクラゲに負けるのか……」
まさかイルカもクラゲに負けるとは思ってないだろう。というか綾香がクラゲを見ているのをずっと見守っていたからか思考がちょっと変な感じになってる。さっきからずっと魚?サイドの考えをしてる。
「思い出したならそろそろ行こうか、クラゲはまた戻ってきたらいいだろ」
「そうだね!」
「ほんとに戻るつもりなのな」
自然と手を繋いでクラゲの水槽を離れてショーをやる野外ステージへと歩いていく。
入り口で前の席は水がかかるかもしれないという看板があったので後ろの方に陣取りショーが始まるのを見る。
「あ、イルカだ」
「そろそろ始まるのか」
係員と共にイルカがやってくる。
係員の元気のいい挨拶ともにいきなりイルカがジャンプをする。観客はそれを見て拍手をする。こうしてイルカショーは始まった。
まずは何度かジャンプを繰り返し、その後少し複雑な芸をする。
リングをくぐったりとかしてその度に歓声が飛ぶ。ふと綾香を見ると目をキラキラさせて見ていた。イルカより綾香の方が可愛いと思ってしまったのは秘密にしておくべきだろう。
ショーの最後になると観客の子供が2人選ばれてその子達がイルカを指示をすると言うのもあった。綾香は私もしたかった……なんてしょぼんとしていた。高校生は流石にやらせてくれないと思う。
でも綾香の可愛さなら割と問題なく行けそうだよなとか考えたりするけどどうなんだろうか。
とそんなことを考えている間にいつの間にかイルカショーは終わってしまっていた。
「イルカ凄かったね!」
「だな」
「私もしたかったなー……」
「イルカに指示するのか?」
「うん、あれは子供以外でも希望者募るべきだと思うよ」
「見てる間ずっとうずうずしてたもんな」
「……そんなになってた?」
「なってたぞ、ものすごくしたそうにしてた」
「冬夜くんちゃんとイルカ見てた?」
「半分ぐらいイルカを見てる綾香を見てた」
「もぉー!」
ポカポカと俺を叩いてくる。だって綾香の方が可愛いんだし仕方ないだろ。そう言い訳したいけどそれを言うとちょっと痛いぐらいに叩かれそうなので止めておく。
「さて、次はどうする?」
ポカポカ叩かれるのがひと段落した所でそう尋ねる。
「やってみたいことあるんだよね」
「やってみたいこと?」
「そ!ついてきて!」
「え、ちょっ」
グイッと手を引っ張られて綾香が歩き出す。若干引きずられながら俺はついて行く。そしてその先で着いたのはなんと釣り堀だった。
この水族館が海のすぐ近くにあるから出来るのだろう。釣り堀の中には沢山のアジが泳いでいる。
「釣りがしてみたいです!」
「おっけ、じゃあどっちが多く釣れるか勝負だな」
「負けないよ!」
「ちなみに釣りの経験は?」
「ない!」
「なんでそんな自信満々なの?」
「これだけいたら釣れるでしょ、って甘い考えの元やっております」
「そんな気はしたよ……」
出鼻をくじかれた感すごいがこうして釣り勝負が突発で始まった。制限時間は15分。どちらが多く釣れたかで結果が決まる。
15分後、お互いのバケツを見せあって勝負が決まる。
圧倒的に俺の勝利だった。まさか綾香が2匹しか釣れないとは思わなかった。
まぁ圧倒的といっても俺も7匹だからせいぜいトリプルスコアだ。
「なんでこんなに差が……」
自分のバケツに入ったアジを眺めたりツンツンしたりしながらしょぼくれる綾香。しれっとスマホで動画に収めつつ会話をする。
「まぁこんなもんだろ」
「私冬夜くんが針を直接刺すとかいう暴挙をしてたの見てるからね?」
「あれはたまたまだからな?狙ってないからな?」
あれは俺も驚いた。適当に投げてなんとなくタイミングを測って針刺せないかなーなんてやってたらほんとに刺さったのだから笑えない。アジよ、なぜそんなにタイミングよく口を針に向けて突っ込んで来てたんだ。
「まぁ半分ぐらいは逃がすかな、これだけいても食べきれないだろうし」
「だねー、何匹にする?」
「綾香の2と俺が3とかでいいんじゃないか?」
「んー、結構お腹減ってるし4でもいいよ?」
「じゃあそうするか」
こうして6匹のアジをバケツに入れて近くの調理場へと向かう。ちなみに奇跡のアジは真っ先に食べることを決めた。
さて、ここ水族館だがなんと釣ったアジを食べることができる。近くにあるレストランに持っていっても調理して貰えるし、キャンプ場の調理場のようなとこで自分でやることも出来るのだ。
料金的にはそんなに変わらない。加工費を払うか材料費を払うかの違いだし。
もちろん調理したアジだけしか食べれない、なんてことはなくご飯や味噌汁、ほかの魚介を食べることも出来る。
水族館で魚介を食べるのは少し抵抗あるけどな。
そんなことを考えながら俺はアジフライ用にアジを捌いていく。献立は4匹をアジフライに、残り2匹を刺身にする予定だ。釣りたてで新鮮だし問題ないだろう。
アジの骨を毟り取りながら綾香の方を見ると手際よくアジを開き、刺身にして行っている。綺麗に盛り付けられているのを見てやっぱり綾香の料理は美味しそうだな、と思う。
俺より美味しそうに盛り付けるのでこういうとこは学んでいきたい。
「俺はもう揚げてくけど大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ。殆ど終わってるし」
「おっけ」
俺がアジを揚げている横でご飯をよそったり配膳したりしてテーブルに次々と料理が並べられていく。
アジ以外にも鯛やサーモン、マグロなんかの刺身も並んでちょっと豪勢なお昼ご飯になりそうだ。
この調理場がダイニングキッチンみたいになっているからいつも家でやっているように調理出来た。そのせいかは知らないが隣のスペースにいる人から、なにあの夫婦……みたいな目で見られてしまったが。
無事に完成して2人でテーブルに付き手を合わせる。いただきます、といってまずはアジに手をつける。
「美味い」
「美味しい〜!」
釣りたてや自分で釣った補正もあってかなり美味しく感じられた。
「こういうのまたしてみたいね」
「だな、ちょっとした旅行でいつかやってみるか?」
「ありだね、キャンプとかも楽しそう」
「夢が広がるな」
「だね〜」
綾香といつかやってみたい計画を立てているうちにテーブルの上から料理は無くなっていた。楽しいお昼になってよかった。
その後洗い物をしながら午後の予定を考えているとクラゲを見に行きたいと言われたのは言うまでもない。
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