なぜか待つがわの方が緊張する
水族館に行くのは来週の土日になった。今週にするには流石に急過ぎたからだ。
もちろん急だという理由もあったが1番の理由は綾香がアルバイトを始めることだろう。駅ナカの洋菓子店ということで直ぐに見に行ける距離ではあるし、仕事の心配はしてないがやはり何か不安のようなものがある。
だからといって俺が出来るようなことも無いためこうして1人ソファに座り、何故か緊張しているのだ。
「……落ち着かん」
今日は面接だし、綾香だから落ちるような心配はしていないがなぜか俺が不安になってしまっている。面接だから見に行ったところでなにかわかるわけでもないし、こうしてソファに座って待つしかないだろう。
「はぁ……」
もはや何度目かもわからないため息をつきつつ残っていたコーヒーを飲み干す。
何をしようか迷いつつとりあえずキッチンに足を向けたところでインターホンの音が鳴る。画面を覗いてみればそこには春弥の顔が映っていた。
『入ってもいい?』
「ああ、今開ける」
ロックを解除して少しすると春弥が部屋にやってきた。
「こないだ振りだね」
「そうだな、今日はどうしたんだ?」
「いつもの母さんからの預かりもの」
「今度はなんなんだ」
「普通に食材だよ」
「それで発泡スチロールに入ってんのか」
春弥の持っている袋の中に発泡スチロールがはいっていて、おそらくその中に入っているんだろうが……いかんせん箱がでかい。よくここまで来たなってレベルだ。
春弥もいい加減疲れたのだろう、キッチンに箱を置く。
「今日は父さんが送ってくれたからね、さすがにこれ持って歩いてたりはしないよ」
「歩いてきたって言ったらびっくりするわ」
俺もキッチンに向かいとりあえず箱を開けてみることにする。蓋を開けるとそこには大量の氷とシートがあった。これを見る限り魚だろう。問題はどの魚かだ。
「……今回はサンマか」
「まぁもうすぐ時期だからね、知り合いから貰ったらしいよ」
「へぇ。んで多いからおすそ分け、と」
「そそ、綾香さんと2人で食べてほしいって」
「まぁそれは嬉しいが……」
「……ところで綾香さんは?」
「バイトの面接」
「バイト始めたんだ」
「今日からようやくな」
「なんかずっとするする詐欺してたよね」
「そうだな、まぁ始めたしいいだろ」
「だね、仕事は?」
「洋菓子店、たぶん店員だろ」
「綾香さんなら厨房でもいけそうだけどね」
「お菓子作りは大変だからな、わかんないぞ」
個人で楽しむ分なら俺も綾香も作れるが店売り、それもそこそこ量を作るとなるとそれ相応の実力がいる。まぁそこらへんの仕組みをしらないから何とも言えないが。
「車で来てるってことは今日はすぐ帰るのか?」
「そうだね、待たせたら悪いしすぐ帰るよ」
「そうだな、話はまた今度しようか」
「お互い積もる話があるもんね」
「俺はお前の恋愛事情が知りたいがな」
「……聞かないでくれると弟は嬉しいよ」
そう、ここ最近色々あって聞く機会どころか思い出す機会がなかったが春弥は白石先輩の妹といい感じなのだ。今どうなのかは知らないが。
「まぁそれは今度言うよ、今日は帰るね」
「おう、またな」
「うん、また」
春弥を見送って俺はキッチンに戻る。
「さてこいつはどうするかな……」
まず4匹もいるのがおかしい。全然2食分ぐらいある。とりあえず使わないのは冷凍しておくか。なるべく早く食べたいから明日には食べるけど。
今日食べるのはせっかくだし何か仕込んでみようか。そういえば何かの漫画でサンマ料理を作ってた気がする。俺にも真似できるだろうか。できるならやってみたいが……とりあえず漁ってみるか。
スマホを開いてレシピを検索してみる。
「うーん……やっぱ焼くのが無難だよなぁ……」
サンマ料理はたくさん出てくるがせっかくの新鮮なサンマだしどうせならそのまま味わいたさもある。
「……1人2匹食えるか?」
半分を焼いてもう半分を凝ってみるのはありかもしれない。とりあえず色々試行錯誤してみようと思い俺は意識は思考の海に沈んでいった。
「ただいまー」
綾香の声が聞こえて俺はようやく時間が過ぎていることに気づく。気付けば日も傾いていて綺麗な夕日が窓から見えていた。
「なんかいい匂いがする!」
「おかえり、今日はサンマのフルコースだ」
「サンマ?なんで?」
「母さんから貰った」
「へぇー、おぉ……いっぱい並んでる……」
「一応晩御飯の予定をいうと、無難な塩焼き、竜田揚げ、かば焼き、カルパッチョだ」
「カルパッチョ?」
「これはあれだ、漫画みたやつをパクっただけだ」
「あー!あったね!」
どうやら綾香も読んでいたらしい、すぐに思い返したようだ。機会があったら真似をしたいと思ってたけどまさか今できるとは思わなかった。実際作ると思ったより大変だったけどな。
「それで、面接は?」
「無事合格だよ!」
「おめでとう、さすが綾香だな」
「ふふん!シフトはまた言うね」
「あいよ」
「でも多分そんなにいかないよ」
「そうなのか?」
「うん、とりあえず最初は家事とかとの兼ね合いをみてから行こうかなって」
「なるほど」
それは確かにいい考えだろう。俺だって大学生の時にバイトしてたけど一人暮らしだったから家事をさぼりがちになってしまったしな。
「なるべくサポートはするからバイトがんばれよ」
「うん!お金貯めて冬夜くんにいいもの買うね!」
「別に買わなくてもいいんだぞ?」
「ん?買うよ?」
「……ほどほどにしてくれよ」
この感じは引かないやつだと察した俺は早々に抵抗を諦めてなるべく加減してもらう方向にシフトする。
「さ、風呂は入れてるから入ってきな」
「うん!」
綾香が風呂に行ったのを見て俺も晩御飯の準備を再開する。
今日はサンマのフルコースだ!
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