ただいま


 屋敷でかれこれ1週間が経過した。前半は翡翠と買い物をしたり、綾香とイチャイチャしたり、葉山さんと勝負をしたり。後半は海から始まり宴会があって、綾香とイチャイチャして。


 こう考えると結構な時間を屋敷で過ごしていた。もちろん社会人の俺にはこのお盆休みプラス有給のコンボが終われば仕事があるのでそろそろ帰る予定だ。


 というわけで俺は荷物の整理をしている。


「冬夜、後で俺の車のとこにこい」

「わかった」


 父親からそう言われて荷物の片付けにキリを付けてから車に向かう。


「トランクにある荷物をお前にあげようと思ってな」

「ん、俺の車に入る?」

「大丈夫だろう」


 いくつかダンボールが見える。この量ならトランクよりも後部座席に乗せた方がよさそうだ。


「……これ中身なに?」

「1つは米」

「それは助かる」

「後2つは色々、だな」

「……絶対使い道少ないやつだろ」

「文句は母さんに言え」

「全部察したわ」


 多分1つは浴衣とかだろう。夏祭りに行ってこいと言うことだろうか。あと1つは予想がつかないが恐らく浴衣と同等の類のものだろう。


「あとこれな」

「ん?」


 ひゅっ、と父親から投げられた何かを受け取る。


「鍵?」

「それを綾香ちゃんに渡してくれだと。家の鍵だ」

「そういうこと」

「家出するなら是非来なとでも伝えといてくれ」

「それは父さんが伝えろよ」

「俺はいいよ」


 謎に謙虚な父親を傍目に映しながら俺は屋敷へと戻っていく。部屋に戻ると準備を終えた綾香がベットに転んでいた。


「そろそろ帰ろうか」

「う〜……」

「帰りたくないか?」

「ここの暮らしが良すぎるから帰りたくない……」

「それはわかる」


 あるもの全てが一級品。特にベットなんかは凄かった。まともに使わないものなのにすごくよく寝れたしな。


「……よし」

「帰るか?」

「うん、挨拶して帰ろ!」

「おう」


 2人で最後の荷物を持って部屋を出る。


 しばし手を繋いで廊下を歩いて爺さんの部屋につく。


「爺さん、1週間世話になった」

「おう」

「また来ますね」

「いつでもお前たちが来てもいいようにしておくから、好きに来るといい」

「わかりました」

「嬢ちゃんは家出にここ使ってもいいぞ」

「機会が会ったらお願いしますね」


 俺がいる前でそういうことを堂々と言うのやめて欲しい。というか父さんといい、うちの家系は思考が似てるな。


「じゃ、また」


 それだけ言い残して部屋を出る。その後は直ぐに車に向かう。既に綾香の両親は仕事の為に帰ったし、俺の親には挨拶はとっくに済ませているからだ。


「じゃあやり残しはないな?」

「うん」


 トランクに荷物をしまってそれぞれ運転席と助手席に座る。


「んじゃあ帰るか」


 車を発進させて長い長い運転が始まる。






 昼過ぎに出たというのに着いた頃にはすっかり夜だ。まずはトランクから荷物を下ろして……


「えっ!?」

「どしたあや……か……あ?」

「やっほー」

「「なんで翡翠 (ちゃん)が?」」

「忍び込んだ」

「そうだろうけど……とりあえず部屋にこい、それからだ」

「ん」


 スーツケースは翡翠に頼んで俺はダンボールを運ぶ。いちいち持ちづらいせいで3往復もする羽目になった。


「それでなんでここに?」

「お出かけがしたくなった」

「それだけか?」

「うん」

「……わかった。ただ爺さんには言うぞ」

「いいよ」


 爺さんに電話をかけて事情を話す。どうやら事前に知っていたらしく侵入は協力されていたらしい。後部座席に忍び込むとバレないもんなんだな……とちょっと感動する。


「とりあえず風呂入ろうか、晩御飯は宅配でもいいか?」

「いいよー」

「気になる」


 ピザの宅配のチラシを綾香たちに渡して俺は荷物の片付けやら家事やらに奔走する。明日は軽く家中の掃除だな。埃が溜まっていたりと気になるところが多い。


「冬夜くーん、ピザ注文するよー?」

「わかったー!」


 俺は正直なんでもいいので注文は任せてさっさとシャワーだけ浴びることにする。


 僅か10分で風呂から上がりリビングに戻る。


「風呂は今沸かしてるからご飯食べてから翡翠も一緒に入ってやってくれ」

「はーい」

「んでピザはなににしたんだ?」

「えっとね……」


 頼んだのは通常のものと、2種類のミックスが1つずつらしい。


「ピザが届くまでに翡翠に質問があるんだけど……」

「夏休み?が終わるまでここにいさせて」


 質問を知られて回答に詰まる。ほんとこの程度のことに能力を使わないで欲しい。


「綾香はいいか?」

「私は大丈夫だよ、それに今の私たちにはストッパーがいるし」

「確かに」

「すとっぱー?」

「……恥ずかしいから詳しくは後でお風呂で綾香に聞いてくれ」

「わかった」

「私に丸投げ!?」

「俺が言うのは違うだろ」

「うぅ……確かに私の方が暴走しがちだけど……」


 頭を抱えて悩み込む。翡翠がそれを大丈夫?という感じに撫でて慰める。ほんと家族見たいだな。


「後、1つ予定入れていいか?」

「なに?」

「夏祭りいかないか」

「もちろん!」

「よっしゃ」

「冬夜くんが誘うなんて珍しいね」

「母さんから浴衣を貰ったからな。翡翠の分もあるぞ」

「浴衣……動きにくいの?」

「まぁ、そう……だな」


 浴衣=動きにくいので繋げないで欲しい。子供からしたらそうなのかも知れないが、もうちょっとオブラートに包んでくれ。


「それで何時なの?」

「明後日」

「早いねー」

「急ですまんな」

「いいよ、家族で楽しもうね」


 翡翠を抱き抱えてそう言う。


「そうだな」


 綾香の隣に座って3人で軽く話しながらピザを待つ。これからしばらくの間翡翠が一緒に暮らすことを考えるとちょっと大変だが楽しそうだな、と想像が捗った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る