届けものと見直し
少しの間自分の部屋に戻りあるものを取ってから翡翠の部屋に戻る。
部屋に戻ると綾香は意外にも疲れていたのが翡翠のベットの上で寝息を立てていた。
「翡翠は眠くないか?」
「うん」
「そっか、じゃあちょっとだけ真面目な話をしようか」
「真面目な……話?」
「おう」
俺は懐から部屋に取りに帰った封筒を翡翠の前に置く。
「こいつを知ってるか?」
爺さんが持っていたのだがとりあえず預かっとこうと先に預かっていたのだ。まぁそのせいで部屋まで取りに戻る羽目になったが。
「……手紙」
「そ。それと伝言」
「……うん」
「私たちが自殺するのを知ってたか?って」
「……知ってた」
「そっか」
俺は封筒の封を切って翡翠に渡す。
「好きな時に読め」
「わかった」
封を切って好きな時に読め、はなかなかおかしな行動だがまぁ酔ってるということで許して欲しい。
「すぐ読む」
翡翠は中身を取り出して目を走らせる。中に入っていたのは3枚の紙だ。恐らくは父親の分、母親の分だろう。後は2人からの分かな?
「……?1枚は冬夜お兄ちゃんの分」
「俺の?」
翡翠から貰った紙に目を通す。少し集中して内容を把握する。中に書かれていたものは一言でまとめるなら『娘を頼む』だ。もちろん紙にびっしりと心配やらが書かれている。
それにこれは大人になった俺に向けたものらしい。文章の所々に子供では理解しにくいものがあった。もしかしてあの両親はこれを大人の俺が読むことを予想していたのだろうか。
「……うん」
「どした翡翠?」
「だいたい読めた」
「そっか」
「冬夜お兄ちゃん」
「なんだ?」
「私のやることがちょっとずつ決まるかも」
「……わかった」
「でも今日はもう寝る」
「ん、一緒に寝なくてもいいか?」
「うん、もう大丈夫」
「わかった、綾香は連れて帰るから鍵だけしっかりな」
「おやすみ」
「ああ、おやすみ」
軽く片付けをこなして綾香を背中に背負って部屋から出る。直ぐに鍵の閉まる音と僅かに震えた声が聞こえた。
それでも翡翠はもう大丈夫だろうと信じて部屋に戻る。
「んうぅ……」
「起こしちゃったか?」
部屋に戻ってベットに綾香を転がすと呻き声をあげる。
「まだねる……」
「ん、おやすみ」
綾香の頭を優しく撫でて眠りにつかせる。
「……風呂でも入るか」
やることが無くなった俺は気分的にも風呂に入りたかった。その後直ぐに寝るだろうしせめてシャワーだけでも浴びたい。
大浴場ではないほうの風呂に入って軽くシャワーで流す。だいぶ思考もスッキリとしたしお酒も抜けてきている。ただそれのせいで目が覚めてしまった。
「酒入ってるし寝れそうな気もするが……」
部屋に戻ってベランダに行く。夏の夜の空気が一気に俺を包み込む。ただ蒸し暑さなんかはなく少し寒いぐらいの空気がより思考を冷静にしてくれる。
「こういう時の山の上はいいな」
自分の家なら暑くて仕方ないがここは涼しくて助かる。
「……これからどうしようかな」
綾香との関係にこれ以上の進展は望めない。というよりしてはいけない。これ以上はもう一線を超えるものしかないからだ。しかしそれを守るのも後1年半ある。正直耐えれる気がしない。
はぁ、とため息をつく。綾香は魅力的な女性だ。そんな彼女相手にキスだけで済ます。それはかえって綾香に不安を与える行為とも見て取れる。そうならないように尽くしているがそれでもどうにもできないことはある。
実際そういう事があって今回綾香には大きな負担をかけたし辛い思いをさせてしまった。間違えないようにしたいと思っても間違えてしまう。人間だから仕方ないと納得したいがそれで諦めたくはない。
「もっと頑張らなきゃな」
仕事も今よりもっと稼げるようになっておきたい。実の所今の2人の生活は結構な出費になっている。まだ同棲を始めて3ヶ月というのもあるだろうが食費やらが増えたのは大きい。
貯金も出来るぐらいの余裕はあるし問題は無いのだがいつまでもこのままだと子供ができた時なんかは少し心配になる。子供も綾香も満足させたいしそう考えるとやはり収入はあるほどいいだろう。
綾香だって働いてくれるだろうが俺的には家にいて欲しい。それは決して女性はこういうもの、という考えではなく俺の独占欲に過ぎないが。実際セクハラとかが心配なだけなんだが。
「はぁ……こういうとこだな」
もっと堂々として綾香は俺のものだと示したいがなにか方法は無いのだろうか。プレゼントした指輪だけでは足りない気がしてきた。
「一緒のピアスとか開けてみるかなぁ」
ちょっとしたことを思いついて想像をしてみる。一応2人ともピアスは問題ないし服装的な面での心配はない。後は開ける時ぐらいだろうか。
そう言えば何かの漫画でピアスを開ける時にキスをして痛みを誤魔化していたのがあったな。今の俺たちにはありきたりかもしれないがきっとうまく使えるだろう。
「いい男にならなきゃな」
決意を胸にして部屋に戻る。流石にそろそろ寒くなってきた。
冷えた身体に程よく温もりを貰うために綾香を抱き抱えて俺は目を閉じる。
「綾香、大好きだよ。これからもよろしくな」
愛を囁いて俺は意識を落としていった。
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