大集合


 海で遊んだ2日後。屋敷の宴会場のようなところでまさに宴会が行われていた。俺と綾香は主に親戚の女性陣に囲まれ、花梨さんもそれに乗じてめんどくさい話から逃げていた。当然ながら翡翠は参加していない。


 集まった親戚たちは50人程だが酒を飲むとうるさくなるおっさん達のせいでそれ以上の熱気というかうるささを感じる。かくいう俺もこうなる前に散々飲まされている。おかげで暑くて仕方ない。というか人に飲むのを強要しないで欲しい。ただでさえこっちは綾香に全神経を集中させておかないといけないのに邪魔ったらありゃしない。


 それに見かねた女性陣が助けを出してくれたのが本当に救いだろう。おかげで少し休むことができている。会話のないようは一切休まらないが。


「……止まらねぇなぁ」


 綾香を含めた女性陣の会話は一切入り込む余地がないほどに怒涛の勢いで展開され続けている。主導権を握っているのは話題が俺と綾香のことだけに綾香と俺の母親、綾香の母親だ。


 それを肴に俺は麦茶を飲む。まぁ普通の飯が入らないぐらいにお酒でお腹が一杯なだけだが。


「冬夜、ちょいといいか」

「どした爺さん」

「嬢ちゃんと一緒に翡翠にこれを届けてくれ」

「……なんだこれ」

「宴会の飯だ。あいつがこの時間にくれって言ってたし頼む」

「わかった。綾香ー」

「どしたの冬夜くん?」

「一緒に抜け出すぞ」

「へ?」


 左手に爺さんから貰った料理の袋を持ち、右手で綾香を引っ張ってそのまま会場を出る。廊下にでると一気に喧噪が遠のき心なしか空気もおいしく感じる。


「抜け出すってそういうことね」

「紛らわしかったな」

「ちょっとときめけたので許してあげる」

「綾香も酔ってるのか?」

「皆飲んでるしね、雰囲気でちょっと酔ってるかも」

「そっか」


 その言葉に俺は警戒を高める。宴会場を抜けたとは言え警戒を緩める理由にはならないし、綾香の判断力が落ちているならその分俺が集中しないといけない。


「そう言えば子供たちはいなかったね」

「まぁあんなとこに置いとくわけにはいかないだろ」

「悪い大人ばっかりだもんねー」


 翡翠のとこに向かう途中になんてことない会話が進む。


「みんな寝たのかな?」

「屋敷の探検とかしてそうだけどな」

「確かに、私も子供ならここは探検したくなるかも」

「……ちょっと急ぐぞ」

「え?あっ!」


 綾香も同じ考えに至ったのか料理が崩れないギリギリで廊下を走る。そして翡翠の部屋のある廊下に着くとそのドアの正面に子供たちが数人いた。


 どうやらドアに鍵がかかっていてどうにか開けようとしているらしい。


「綾香、俺の前に出るなよ」


 子供は下手なおっさんより質が悪い。なんせ好奇心の赴くままに行動するからこういうドアを見つけると意地でも開けたくなるし、相手が女性ならスカートをめくったりは平然とする。まぁ綾香にはズボンを履くように言ったのでそういうことは対策しているが、俺は一切綾香には触れさせたくないしな。


「おい、なにしてるんだ」

「あ、お兄ちゃん!この部屋ってなにがあるの!?」


 翡翠のいる部屋を指さして俺に聞いてくる。


「こっちの方は使用人達も使ってる部屋だから鍵を閉めてるんだ。探検するのはいいが人の部屋に勝手に入るなよ」

「そうなんだ」

「じゃあもっと奥にいこーぜ!」

「そうだね!」

「はぁ……」


 爺さんはある程度予見してたな、と悪態づく。


「こっちは使用人達の部屋って言ったろ。大人しく本館に戻れ」

「えー、ちょっとぐらいいいじゃん」

「ダメだ」

「ならなんで兄ちゃんたちはこっちいるんだよ」

「届けものに来てるんだ。お前らも宴会場行けばなんか貰えるかもな」

「ならそっち行こうよ」

「だなー、こっちダメみたいだし」

「ちぇー、遊びたかったな」


 子供たちが俺達の横を走り去っていく。その時も綾香を俺と壁の間に挟むようにして守っておく。完全にいなくなったのを見て俺は翡翠に声をかける。


「翡翠、大丈夫なら開けてくれ」

「…………ん」


 カチャと鍵の開く音が鳴って扉が開く。


「飯持ってきたぞ」

「ありがと」

「入ってもいいか?」

「うん」


 綾香と部屋に入って鍵を閉める。俺は袋から飯やら飲み物を取り出してそれを広げていく。


「おおー」

「これでちょっと宴会みたいにはなるだろ」

「……お酒もあるの?」

「これは俺用だな……」


 爺さんがいれていたらしくそれなりの量が入っている。もちろん普通飲み物もあるが。翡翠の部屋には冷蔵庫もあるのでそこに今は飲まない分はとりあえず仕舞っておいた。


「んじゃ乾杯」

「乾杯」

「かんぱーい」


 雑な音戸で3人の宴会が始まる。


「ねぇ、お酒飲んでみてもいい?」

「なにかあったら責任取るの俺なんだけど」

「私も飲みたい」

「2人ともかよ」

「ダメ?」

「綾香はもうちょっとしたら飲めるだろ」

「後4年ぐらいあるよ?」

「わたしは?」

「翡翠もダメ」

「わかってても?」

「ダメ」


 どうやら飲んだ結果を視たらしいがそれでもダメだ。


「どっちにしてもここにあるやつは美味しくないぞ」

「そうなの?」

「多分2人とも苦いって言う」

「ちゅーはい?はおいしい」

「翡翠はなにを試してんだ」

「それはないの?」

「今はないな」


 厨房の冷蔵庫を漁ったらあるかもしれないが今は漁れないしな。


「ま、大人になるまで我慢だな」

「う~……じゃあこうするもん!」


 綾香はそういうと俺の唇を奪って舌まで入れてくる。


「んむ!?」

「……ぷは。……うぇ苦い」

「味わい方どうかしてるぞ」

「えへへ」


 明らかに酒ではない暑さが顔を覆う。さっきよりも顔は赤くなっているだろう。


 それから2人と宴会でした話をしたりしながら夜は更けていった。

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