勝負
朝10時のチャイムそれがスタートの合図だった。俺と葉山さんで挟むように将棋盤と囲碁盤、チェス盤が置かれている。ジャンケンで勝ったのは俺なので全て先手は俺だ。
「ふぅ……」
最初の一手を置き一息つく。頭の中にそれぞれの盤面を置いて展開の仕方を決めていく。どの順番で回ってくるかはわからないから全部同時にだ。
葉山さんも同じようなことをしているだろう。俺は翡翠を相手しているような気持ちで対局に集中していく。
ーー綾香ーー
冬夜くんが勝負をしている部屋のドアを見て息を吐く。お爺さんに観戦禁止と言われてしまったため部屋から追い出されたのだ。
「なにしようかなぁー……」
正直暇だ。冬夜くんとなにかしているならともかく1人でなにかすることが最近なくて今できることが思い浮かばない。
「翡翠ちゃんも考え事するって言ってたし……やばい私ぼっちだ」
ほんとに何もすることがない。課題もすでに終わらせているから持ってきてないしゲームも今はする気分じゃない。
「庭でも見て回ろうかな」
ほんとにそれしかすることがないから散歩しながらなにか考えようと思い屋敷の外に出る。どうじに携帯の通知音が鳴って両親が買い物に行ってくるというメッセージが届いた。本格的に1人になったなとちょっと寂しくなる。
「ん~!」
思いっきり伸びをして気持ちをリセットする。今は伸び伸び過ごすそれだけを思っていようと無理矢理納得させる。
「とりあえず行けるとこまでいってみよう!」
こうして散歩兼庭の探索を始めた。
ーー冬夜ーー
勝負が始まって約2時間。勝負は終わりに近づいていた。すでにチェスと囲碁は俺の勝利で決着がついている。そして将棋も後数手というところまで来ていた。
本来ならもっと時間がかかるんだろうが、制限時間などで時間が殆ど持ち時間がないからこうなった。
「ふむ……」
葉山さんが若干も迷いを含んだ言葉とともに次の手を指す。しかしそれは俺の予想していた手でノータイムで打ち返す。
「む……」
葉山さんの持ち時間は無くなっていて爺さんのカウントが部屋に響く。
「10秒」
それを聞いて葉山さんがだした苦し紛れの手をまたノータイムで返す。
「参りました」
「……っし」
全て想定通りに進めれたことに満足する。相手の手を全部誘導してずっと有利に進める、やってみると案外簡単にできた。
「想像以上ですね、冬夜様」
「ん……?様?」
「ええ、この勝負の結果をもってあなたのことをそう呼ぶように言われておりますので」
「ああ、そういうことですか」
「本当に強くなりましたね」
「爺さん程じゃないですけどね」
「ご謙遜を」
そう言って葉山さんは立ち上がって部屋を出ていく。すぐに話し声が聞こえたので仕事に戻ったのだろう。
「葉山の手を操作したな」
「そうだよ、よくわかったな」
「棋譜を見ればわかる。いつもの葉山とは違う。本人は気づけんかったようだが」
「そういう風にしたからね」
「儂とやるか?」
「やらないよ、今のとこメリットがない」
「ふん、まぁそのうち1戦はやろうや」
「はいよ」
「……翡翠には同じことはできんか」
「多分無理。負けさせるだけなら簡単だけど」
「手段を選ばなければか?」
「そうだな、常識の範疇でなんでもやっていいならいくらでも勝てる」
方法は簡単。実践の空気にして心を乱すだけだ。翡翠の天啓は自分から知るには心身状態が大きく影響してくる。そうして天啓を使わせなければ俺は勝てるだろう。戦術だけはいくらでもあるからな。
「ああ、商品のビーチはちゃんと貸すぞ、整備もしてるし問題はないだろう」
「ありがと」
「おう、昼飯はどうする」
「あー……あとで適当に食うから今はいいや」
「わかった」
俺も部屋を出る。すると目の前に綾香がいた。
「うおっ……ずっといたのか?」
「ううん、さっき来たとこ」
「そっか、なんかするか?」
「ん……部屋いこ」
「わかった」
綾香に手を引かれて部屋に戻る。微妙に機嫌が読み取れないのが怖い。怒らせるようなことはしていないはずだし心当たりもない。部屋に戻るまでずっと考えてたがなにも思いつかなかった。
「ベットに座ってて」
「わかった」
ちょっと圧を感じるような声色でそう言われて俺はベットに座る。すると綾香が部屋に鍵をかける。カーテンも閉めて部屋を完全な密室にする。カーテンによって光が完全に遮られ昼間だというのにこの部屋だけまるで夜みたいだ。
「綾香……?」
突然足音がしなくなって綾香の方を見ると服を脱ぎ始めいた。まだ目が慣れていないからよく見えないが恐らく下着姿になっているだろう。床に服が脱ぎ捨てられこちらに歩いてくる。
まさか襲われるのかとも思ったけどそれはないと判断してベットに座ったままでいる。
「綾香どうしたんだ?」
「冬夜くん……あのね」
消え入りそうな声を出しながら綾香は歩いてくる。そして俺のすぐそばまで来ると勢いよく抱きついてきて俺をベットに押し倒す。
ここでようやく綾香の心情を察する。
ゆっくりと綾香を抱きしめるように手を回して優しく話しかける。
「ゆっくりでいいよ、落ち着いて話しな」
「うん……私ね……」
「ああ」
「冬夜くんがいないとだめな身体になっちゃった」
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