ある少女との再会
花梨さんが来てからの激動の日々が過ぎ俺たちは爺さんの屋敷に来ていた。
「ん~!空気がおいしいね~」
「だね~。冬夜も運転お疲れ様」
「流石にちょっと疲れたよ」
「今日はちゃんと休んでね」
「うん」
家の駐車場に車を停めて荷物を下ろしていく。すると家の方から数人こちらにくるのが見えた。
「お久しぶりです、冬夜さん」
「久しぶり、葉山さん」
「荷物を運んでも?」
「お願いします」
「わかりました」
葉山さんが指示を出すと後ろに控えていた人達が荷物を運んでいってくれる。
「それとこちらはみなさんのお部屋の鍵です」
「ありがとう」
「冬夜さんのは事前にご連絡があった通りにしております」
「助かるよ」
「それと
「了解です」
綾香と花梨さんに部屋の鍵を渡して葉山さんの後をついていきながらぐるりと屋敷の庭を見渡す。
「よく手入れしてますねこれ」
「数にものを言わせてますからね」
「ほんと相変わらずだな、爺さんは」
「全くです。つい先日も───」
葉山さんから爺さんの話をいくつか聞く。ほんと80代とは思えないことばかりしていて驚きよりも呆れの方が多い。まぁ頑丈さは誰よりも知っているからこそ心配なんかは一切しないのだが。
「ホテルみたいなお屋敷だよね」
「ね、これ使ってない部屋どれぐらいあるんだろ」
「親族の皆様が宿泊されても数十は余るかと」
「掃除大変そう……」
「メイドさん達は住み込みなんですよね?」
「ええ、一家ごとここに住んでいる方もいますよ」
「よっぽどですね」
「冬治さまの元で育てば余程のことがない限り安心ですからね」
「教育も十分に受けれるし、娯楽もある、ほぼ最高の環境ですよね。交通の不便さを除けば」
「それが唯一の難点ですね。ヘリがある今はいいですが」
「それ病院とか降りれるんですか」
「幸い近くのが降りれるので、不安要素などありませんよ」
多分怖いのは殺人ぐらいじゃないんだろうか。まぁそれすらも問題ないのがこの屋敷の人間なのだが。なにかしら人並み外れた能力を持った人間がいるのがこの屋敷だ。
その中の一人にとんでもなく頭のいい子供がいたのだが元気だろうか。元気なら今は中学生ぐらいになってると思うが。
「さて、冬夜さんはこちらに」
「ああ」
屋敷に入ると俺は葉山さんに連れられ爺さんのところに向かう。綾香たちはメイドさんに家の案内を簡単にしてもらうそうだ。
「冬治様、失礼します」
そういいつつも返事を待つことなく部屋に入る。爺さんは椅子に座ってなにか作業をしていたようだ。
「よう、爺さん」
「ん、冬夜か?ずいぶんデカくなったな」
「高校ぐらいから会ってなかったしな」
「元気にしてるか」
「もちろん」
「嬢ちゃんは連れてきたんだろうな」
「真っ先に気にすることがそれかよ」
「当たり前だろうが。孫の嫁だぞ」
「そうかよ。それで何の用だ」
「ああ、
「……当然」
翡翠。先程少しだけ存在を思い出した少女のことだ。
「あの子の暇つぶしをしてやってくれ」
「爺さんはやらないのか」
「手が空いてればやったんだがな。あいにく予定で埋まってる」
「そうか、場所は変わってないな」
「ああ」
「んじゃ行ってくる」
それだけ言って俺は部屋をでた。
「冬治様、伝え忘れがあるのでは?」
「む……儂も歳だな。まぁ冬夜なら問題あるまい」
「そうでしょうか?」
「翡翠は冬夜に関しては加減を知っておるからな」
「それはまた……波乱を生みそうですな」
「……ところで嬢ちゃんの飯は食えるんだろうな」
「ご安心を、本日の晩に作ってもらうことになっています」
「なら腹を空かしておかねぇとな」
「……無茶だけはしないように」
昔の記憶を引っ張り出して俺は翡翠の部屋に向かう。どうにかたどり着くとそこだけ明らかに違う雰囲気を纏った扉がある。
ノックをしようと手をかけたとこでその扉が開かれて白い頭がひょっこりと見えてくる。
「冬夜お兄ちゃん……?」
「そうだよ、久しぶり。翡翠」
「うん、久しぶり」
翡翠が開いてくれて俺は部屋の中に入る。昔と変わらず殺風景な部屋で強いて目を引くところと言えば部屋の一角を除いてすべて本棚だということだろう。本はそこに収まりきらず床にも積まれている。
「花ぐらい置かないのか?」
「……枯れるのがわかるから」
「そういやそうだったな」
よく会っていた頃俺は庭の花で作った花かんむりを上げたことがある。けど受け取ってくれず理由を聞いたらなんとなく寿命がわかると言われたのだ。
翡翠は直感のようなものが異常に発達していて、一種の能力とまで言えるレベルになっている。
幼い翡翠はその能力を無意識で使っていたため同級生どころか、教師からも気味悪がられた。その結果精神が一度崩壊する直前までいって爺さんが引き取って外部との接触を断ち育てている。心が壊れたの翡翠だけでなくその両親もで二人は娘が壊れていく日々に疲弊した。
もちろん治療はしたが精神へのダメージが消えることなく二人とも自殺してしまった。
俺も葬儀に参加したから覚えている。翡翠は心が一度壊れかけた影響からか葬式でも涙を見せるどころかほぼ表情が変わらず全てが終わるのを見ていた。
「冬夜お兄ちゃんは私の事怖い?」
そんなことを見透かされたような質問を投げかけられる。
「……そうだな。翡翠のその超能力はちょっと怖いけど翡翠は好きだよ」
「私も冬夜お兄ちゃん好き」
「そっか」
「うん」
無感情にそう言ってくるが頬に僅かな緩みが見えている。俺はそれを嬉しく思い頭を撫でる。綾香とは違った感触だ。近くに寄ったついでに翡翠のことをしっかりと見てみる。
驚くほど綺麗な銀髪、感情の抜け落ちた顔、そして数年は陽に当たっていない白い肌。身長は140cmほどだろう。かなり小さい。服も大きなのを被っているだけで雑さが見て取れる。
「翡翠はお洒落しないのか?」
「見せる人がいない」
「爺さんは?」
「あの人……苦手」
「あらら」
「私のこと子供扱いしてくる」
「翡翠はまだ子供だろ」
爺さんも一般のおじいちゃんと同様孫の俺を可愛がってきてたしその感覚で翡翠を可愛がったのだろう。
翡翠には好かれなかったみたいだが。
「じゃあ俺が見たいって言ったら?」
「する」
「翡翠に紹介したい人がいるんだけどいい?」
「いいよ。お嫁さん?」
「ぶっ……」
「私に隠し事は出来ないよ」
ピシッと指をさしてポーズをとる。そのぎこちなさが可愛くてつい写真を撮りたくなるが我慢だ。
「そうだな、俺のお嫁さんだ」
「いい人だよね」
「あぁ」
「その人がお洒落教えてくれるの?」
「そう、たまには外に出るのもいいだろ?」
「うん」
「明日一緒に買い物に行こうか」
「行く」
また頬を僅かに緩ませる。よく見ていても気づかない程度に。これはいい傾向なんだろうな、と勝手に納得する。
「今日は冬夜お兄ちゃんと遊ぶ」
「いいよ、何する?」
「えっとね……」
とてとてと歩いて机の引き出しを開ける。そこから出てきたのは将棋盤だった。それと駒。
「これ」
「……翡翠怒ってる?」
「ちょっとだけ。翡翠ぷんぷん」
いつの間にこの子はこんな言葉を言えるようになったんだろうか……
「頼むから手加減してくれよ」
「気分次第」
それから俺は綾香よりも歳下の少女にフルボッコにされたのだった。
ちなみに翡翠は覚えていた通りの歳で今年で十三歳らしい。そんな子に遠慮なくボコボコにされた俺はちょっとだけ悲しかった。
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