花梨を迎えに
ーー冬夜ーー
家に帰るとほぼ同じぐらいにメッセージアプリが音を鳴らす。内容を確認すると花梨さんからで、『帰るとの8時ぐらいになりそう』というものだった。とりあえず了解です、と返信をしておく。
そうしてリビングに行くと人をダメにするクッションに埋まっている綾香の姿があった。
「……なにしてるんだ」
「おふぁえふぃ」
「せめて口は離そうか」
「……おかえり」
「それでなんで埋まってんの」
「今日から夏休みなのにそれを忘れて朝起こされたから埋まってた」
「それ、理由なのか?」
「めっちゃ眠いです」
「あー……すまん」
「ま、面白い物見れたからいいけどね」
「花梨さんのこと踏んでたしな」
「ちょっと楽しかった」
「頼むから変な扉を開かないでくれよ」
「大丈夫だよ」
本当に大丈夫だろうか。俺の目には、なにこれ楽しい……って感じに踏んでた綾香が映ってたんだけどな。
「そう言えば、花梨さん8時ぐらいに帰ってくるって言ってたけどご飯どうする?」
「んー……冬夜くんが迎えに行ってその間に私が作っとくよ」
「俺仕事帰りなんだけど?」
「でも行く予定だったでしょ?」
「そうだけどな」
元々迎えには行く予定だったのだ。大人とはいえ夜中に歩くとわかっているのを知ってなにもしない、なんてことはない。
「とりあえず俺は風呂入ってくる」
「ゆっくりどうぞー」
「おう」
それだけ言って俺は風呂場に向かった。
風呂から上がり、綾香が入っている間に俺は晩御飯の準備をする。今日は夏だし、涼しげなものしようと思い水晶鳥をつくることにした。後は味噌汁と付け合わせ。
「仕上げは綾香がするし……こんなものかな」
時計を見るといい時間になっている。そろそろ家を出ないといけない。ドライヤー中だった綾香に声をかけて、料理はあとなにをすればいいなどを伝えてから家をでる。
「あっつ……」
流石夏の夜、むんむんとしていて嫌な暑さだ。車に乗り冷房を効かせて走らせる。花梨さんには家を出る前に連絡済みで恐らく大学の入り口で待ってくれることだろう。なるべく早く着くように急いで向かう。
大学の近くについて適当に車を停める。そんなに長い間停めることはないだろうし道路脇に停め車から降りる。少しだけ歩いて大学の入り口に行き、花梨さんを待つ。
「さて、例の人はどこだー?」
そんな声が聞こえてきて俺はそちらを振り向く。すると数人の学生に囲まれた花梨さんがいた。……多分俺が迎えに来るってことがバレたんだろうなと予想する。綾香を迎えに行った時もこんなんだから気にしないけど。
「あ、冬夜!」
「お疲れ様です、花梨さん」
花梨さんが俺をみつけてこちらにかけてくる。学生達は距離を保ったままひそひそとなにかを話している。
やっぱり七草先輩だ……とかあの人がお弁当作ったんだよね??とか色々聞こえる。というか先輩ってなんだ。もしかして過去に会ったことのある人物がいるのだろうか。
「ごめんね、騒がしくなっちゃって」
「いいですよ、荷物持ちましょうか」
「ありがと」
ノートPCとか入っているらしくそれなりの重さのある荷物を受けとる。そこで学生達がようやく寄ってくる。
「あの、七草先輩ですよね。生徒会長だった」
「えっと……」
「先輩の2年後に生徒会に入った、
「なるほど、知らないわけだ」
「高校の時の冬夜のことたくさん教えて貰ったよ」
「そんなに面白いものないと思うけど」
「話聞いただけだけど相当やってるよね」
「……まぁ加減をしなかったことは認めます」
「貴方がいる前と後じゃ学校が全く違うもの」
周りの学生もやばいよねー、とか言ってる。一体何を広められたのだろうか。それを知ったとこで何もできないから聞くつもりもないけど。
「さて、あんまり話しててもあれですし帰りますか?」
「そうね。じゃあねみんな。また明日」
「またね~」
学生達が手を振って離れていく。そして角を曲がって見えなくなったところで花梨さんが大きく息を吐く。
「今日もつっかれたぁ……」
「とりあえず車に行きますよ」
「うん……」
すでに眠そうになっていて昨日の夜更かしがかなり響いていることがわかる。
「冬夜は疲れてないの?」
「別に」
「化け物ね……」
「元々睡眠時間が短いし」
車に乗り込むと花梨さんは助手席に座って早々に目を瞑っていた。多分家まで寝るのだろう。
「ごめん、家着いたら起こして」
「了解です」
なんとなく寝やすいBGMを流して少しだけゆっくり車を走らせる。花梨さんはすぐに寝てしまったようで可愛い寝息が聞こえている。
「先生って大変なんだろうな……」
塾講師のバイトをしていた時ですら教えるのが大変だったのにそれに加えて、自分の研究や生徒のことを考えたりなどやることが増えるのはかなり大変そうだ。できないことはないけど自信はない。それを花梨さんはやってきたのだ。それもまだまだ若いのにきちんと結果をだして。その点は尊敬すべきところだろう。
「ほんと、家事さえできればな」
家事さえできたら完璧だっただろう。仮に家事ができたとしても花梨さんは家のことをすべてやってくれる旦那さんを探した方が性に合ってそうだけど。
それから家に着くまで俺はなるべく花梨さんが休めるように車を走らせた。幸いにもついてから起こしたら朝のようなことはなくパッチリとしていて少しだけホッとした。
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