花梨の新しい1日


 ーー花梨ーー


 冬夜達に朝から散々迷惑をかけて意気消沈して私は職場の大学に向かう。それでもテンションはいつもより高い。なんせ冬夜お手製の弁当を貰ったのだ。これで上がらない方が難しいだろう。


 大学につけば自分の研究室に行く。一応それが貰えるぐらいには私の地位はある。研究室は教え子たちの手によって綺麗に整理されているため自分の部屋より住み心地がよかったりする。綾香ちゃんの部屋にはかなわないけど。


 あれはもう別次元だ。ベットに転んだ瞬間いい匂いがして一瞬で眠りに落ちた。今日の朝抱きついて確認したけど多分あれが綾香ちゃんの香りなんだと思う。……我ながら変態だね。それを毎日堪能してる冬夜が羨ましくて仕方ない。というかあの子と同棲して手を出してないってほんとにどういうことよ。私なら初日すら持つ自信ないけど。


 そんなことを考えているといつも早く来る教え子たちがやってくる。


「おはよーございます」

「おはよー」

「あれ、天道先生がしゃっきりしてる……?」

「たまにはそういう日もあるわよ」


 嘘です。朝から色々ありすぎてしゃっきりせざるを得なかっただけです。なんせ従姉弟の男の子に裸見られたしね!!


 ちなみには私は自分のことを天道先生だったり、花梨先生だったりで呼ばせている。その方が恥ずかしくないし。


「嘘ですよね」

「なんで疑うの!?」

「だって私が先生のとこに来てからこんなこと一度もなかったじゃないですか」

「うっ……」

「なにがあったんですか?」

「一つ約束してくれる?」

「なんでしょう」

「他言無用」

「了解です!」


 というわけでしばらく冬夜と同棲することになったことを話す。大半ぼかしているため、例えば綾香ちゃんがいることや、今朝なにもかも見られたことは言っていない。


 綾香ちゃんがいることを隠した理由は冬夜のためだ。両親の同意があるとは言え未成年と同棲していることをむやみに広めるわけにはいかないと考えたからだ。


「男の人と同棲してるんですか!?」


 キャー!!といった感じに黄色い歓声を上げる。そんなラブコメないからね?


「それでお世話してもらってるんですね!」

「そ、そうよ」

「へぇー、先生にも春が来たんですねぇ……」


 後半に連れて彼女のテンションが下がっていったけど気にしない。多分こないだ彼氏と別れたって言ってたから心に刺さるのだろう。


「あ、でも一切ラブコメなんてないからね?」

「?先生綺麗なんですし誘惑すれば簡単では?」

「彼の理性はダイヤモンドなんてものじゃないわよ。あと婚約者いるから」


 これは大丈夫だろうと判断して話す。


「婚約者……?」

「幼い頃からの婚約者がいるのよ」

「それドラマの話ですか?」

「残念なことに現実よ」

「先生の恋は?」

「そんなもの抱く前に消えたわね」

「先生……今日飲みに行きます?」

「いかないわよ?彼がご飯作ってくれるし」

「夫に全部任せてるダメな妻ですね、先生」

「私だって少しはできるのよ?」

「ご飯炊けるし、スクランブルエッグは作れますもんね」

「そうよ!」

「誇ることじゃないんで今すぐにその人から料理を習ってください」

「はい、すみません……」


 そう私が家事を少し覚えたのには教え子たちのおかげだったりする。この子たちが色々と教えてくれたからできているのだ。まぁ料理はまだまだだけど。


「ところで今日のお昼はどうするんですか?」

「私はお弁当があるわね」

「その人優良物件すぎませんか」

「ね」

「ね、じゃないです」

「はい……」

「とりあえず今日は食堂使わないんですね」

「しばらく、の間違いね」

「お弁当作らせる気満々ですね」

「彼曰く、自分の作るついでだしそんなに手間じゃないからいいですよ。だって」

「私は玉砕覚悟で告白したいです」

「私が許さないわ」


 そんな話をしていると結局次々と教え子たちがやってきて彼女たちがいる間は私がずっと質問され続ける羽目になった。






 お昼になって食堂でご飯を食べる。私はなにが入っているんだろうと期待して袋を開ける。すると弁当箱の上に小さな包みがあった。それとメモ。


『今朝はすみませんでした。お詫びと言っては何ですけど食べてください』


 と書かれてある。今朝のことを思い出して顔に熱が集まっているのを自覚しながらそれを開けるとクッキーが入っていた。


「クッキー……?」


 メモには続きがあって、手作りのクッキーです。と書かれている。冬夜ほんとに何でもできるわね……と関心していると横から手が伸びてくる。私はそれを掴んで止める。


「なにしようとしてるの?」

「美味しそうだな~って」

「あげないわよ」


 そう言って弁当を開ける。それはもう宝石箱かと思った。なんでこんな手の凝ったお弁当が作れるの?と疑問に思っている。特に目を引くのはハンバーグだろう。どうみても冷凍ではないそれは朝から作ったことを示している。


「冬夜……本当に何者?」

「先生!そのハンバーグ一口ください!!」

「あなたに上げたらみんなに上げないといけないからだめ」

「ジャンケンで決めたので大丈夫です!!」

「変な団結してるわね……」

「早く食べさせてくださいっ」


 口を開けて待っている彼女にハンバーグを一切れ食べさせてあげる。


「え、美味っ!?」

「そんなに?」


 大袈裟な、とおもいますつつ自分も一口食べる。


「……これお弁当よね?」

「先生まじでその人何者ですか」

「さぁ?私が知ってる彼は無邪気な子供なんだけど……」

「たしか先生冬夜って言ってましたよね?」

「え、うん」

「私その人知ってるかも」

「ほんと!?」

「教えて~!」


 その子に全員の視線が集中する。


「多分七草冬夜ですよね。高校の先輩でした」

「見たことあるの?」

「いえ、過去の生徒会長の名前にあったので」

「それ詳しく教えて」


 そしてお昼の時間はその子に冬夜のことを尋問することになったのだ。

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