再び勝負


「ねぇねぇ冬夜くん」

「どした?」

「今日も勝負しない?」

「……またなんか賭けて?」

「それはどっちでもいいよ」

「そうなの?」

「うん、だって現状でも一週間好きにできるのにこれ以上なにをするの」


 と俺に膝枕をされながら綾香が言う。まぁ確かにこれ以上探してもなにもでてこないな。


「んじゃなんで?俺としては嬉しいしいいんだけど」

「頭フル活用して遊ぶからか程よい疲労感でぐっすり寝れるんだよね」

「なるほど」

「あと翌日の冴え具合が違う」

「メリットしかないな」

「だからシよ?」

「……主語はちゃんと言おうな」


 転んでいるとはいえ上目遣いでそんなことを言われるとちょっと心に来るものがある。


 けど勝負自体はしたいので俺は綾香の提案に乗った。






「さ、始めようか」

「その前に一ついいか」

「なに?」

「なにか賭けようぜ」

「昨日全敗してよくそのセリフ言えるね」

「綾香もなにか報酬があったほうがいいだろ?」

「そうだけどね、何を賭けるの?」

「それは今から決める。条件は今日の勝負に勝ち越した方」

「おっけー」


 そしてお互い少し考える素振りを見せそれぞれ自分へのご褒美を考える。そして出したものが――


「私が寝るまで耳元で愛を囁いてもらう」

「綾香の作ったお菓子が食べたい」


 になった。


「なんか私だけ欲望丸出しじゃん!」

「というかそれ普通に命令できるんじゃ?」

「だから勝っても負けてもしてもらうよ」

「俺だけ地獄か」

「昨日負けた自分を恨むんだね」

「くっそ」


 流石に昨日は負けすぎた。自分への戒めにもなったしそれはいいだろう。だけど今日は違う。昨日散々負けたのだ、あれから俺は当然成長してる。だから今日はいい勝負はできるだろう。一戦ごとの勝率は40%程度かな?


「じゃあ、今日もやるよ」

「おう」


 お互いスイッチを入れて目の前の盤に意識を集中させる。こうして勝負の幕を開けた。






 1時間して一戦目が終わる。脳の疲労を吐き出すように息を吐いてソファにもたれかかる。綾香も同じような体勢だ。勝負は俺が1勝、綾香が2勝。まずまずといったところだろう。


「結構疲れるね」

「だな、けどようやく感覚を取り戻してきた」

「まだまだ上があるんだ」

「昔の俺のほうが強かったよ。多分今の俺なら一方的に負ける」

「私そんなに強くなられたら無理だよ?」

「そこまでになったら流石にネット対戦とかにするよ」

「でも私も強くなるからね?」

「それはそれで怖いぞ」


 俺は昔やってた感覚を取り戻すということもあるから今のペースで成長モドキをできているけど綾香が同じように強くなるとちょっと怖い。いくらハイスペックとはいえそれをされると勝てる気が全くしなくなってくる。


「成長……しないよな?」

「多分ね。でも体は成長してるよ?」

「それは言わんでいい」

「残念」


 しかし昨日はちょうどいい疲労感と言っていたけど今日は大丈夫なんだろうかと思って聞いてみると、「普段そんなに使わないから使ってる時点で十分だよ」と言っていたし綾香がいかに強いかを見せられた。


 これが若さってやつか。


「もう次やる?それとも終わる?」

「やろうか、まだまだいけるし」

「わかった」


 もう一度する準備をして俺たちは再び勝負を始めた。






「うそ……」

「こんなもんだな」


 勝負を始めて約3時間。時間もかなり経ってそろそろ寝る時間になってきた。というわけで今日の勝負も終わった。


 最終的な結果は俺が1勝だけ勝ち越したことになった。というわけで賭けは俺の勝ち。無事綾香の手作りお菓子が食べれることになった。綾香のお願いもやらなくちゃいけないけどな。


 元も子もないことを言えば綾香に頼めばお菓子だって作ってくれるだろうしこの賭けは最初から遊びみたいなものだったし。


「冬夜くん短時間で強くなりすぎ」


 負け越したのが悔しいのかちょっと不機嫌になった綾香が勝負を始める前のように俺に転がってきてそのまま足に頭突きをしてくる。


 なかなかシュールな光景ではないだろうか。うつ伏せになった恋人が太ももに頭突きしてくるとか笑いをこらえるのが大変だ。


「それは仕方ないと思って勘弁してくれ」

「むぅ」


 納得がいかないという感じに綾香はさらに頭突きをしてくる。そろそろ痛くなってきたしやめてもらっていいかな……


「テストよりもこっちの勉強がしたくなってきた」

「それはダメだろ」

「テスト終わったら本気でやってやる」


 どうやら今日の負け越しがかなり響いたのか綾香はかなり本気になってしまったらしい。テストが終わったら結構大変になりそうだなと思う反面、爺さんとこにいくまでずっと綾香と練習ができることを考えたらそれはそれでかなり嬉しい。


「まぁテストに影響でない程度に頑張れよ?」

「それはわかってるよ、この調子ならテストにも問題ないし」

「それはよかった、俺が作った問題はどう?」

「みんなにすごい好評だよ。難しいとは言われるけど」

「まぁそういう風に作ってるしな」

「あれを普通に解けたら学校のテストなんて楽勝だよね」


 実際あの問題が簡単に解けるなら学校のテストごときほんとに楽だろう。作ったテストの想定はかなり上だし、問題は全部解けるように作っているから書き方とかでごまかしてる部分があるし。


「さて、そろそろ寝るか?」

「うん、私へのご褒美よろしくね」

「……忘れてた」


 これから始まる羞恥に俺は目をそむけながら綾香を抱えて部屋に向かった。

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