最高のコンディション

 

 ーー綾香ーー


 上機嫌に学校に向かっていると桜を見つける。向こうもすぐにわかったようでこちらに歩いてくる。


「今日はすごいご機嫌だね」

「うん!昨日いいことがあったの」

「へぇー、なにがあったの?」

「秘密」

「どうせおにーさん関連でしょ?」

「そうだけどね」


 そんなやり取りをしながら私たちは教室に入る。すると先に学校に来ていた詩乃ちゃんがこちらをみて少し驚きの表情を見せる。


「あ、綾香ちゃん何があったの?」

「全力でお楽しみをしてきました」

「あ、うん」


 むふー、と満足げに返す私を見てちょっと引く詩乃ちゃん。実際かなり満足できるまでしてきたので私はすこぶる元気である。中途半端に楽しむと勉強会の時みたいに変なミスをするけど今日はそんなミスはしないしなんら満点だって取れる勢いだ。


「さぁ詩乃ちゃん、今回の私に勝てるかなっ!」

「もう勝てる気がしないんだけど」


 ちょっとげっそりとして返してきたので私はテンションを抑えることにした。






 テストの日は午前中だけで終わるのでテストが終わった後は自由時間だ。ということで私はいつものメンバー(白ちゃん、黒ちゃん、桜、詩乃ちゃん)で図書館で勉強をすることにした。


 いつもは教科書なりノートなりをみてやったり問題を出し合ったりするけど今日は違う。冬夜くんお手製のテスト問題があるからそれを使うのだ。


「これをやるんですか……」

「おにーさんほんとなんでもできるね」

「詩乃ちゃんはもうやったことあるんだっけ?」

「ええ、先日綾香のお家でやりましたよ。ところで黒さんはなぜ机に突っ伏したまま話してるんですか」

「んー?勉強から目を背けてるの」

「私が手伝うので頑張ってください」

「……私はねもう疲れたの、だから見捨ててくれていいんだよ?」

「なんでちょっと演技をするんですか。さぁやりますよ」


 詩乃ちゃんの無理やり体を起こされて黒ちゃんが勉強をする体勢にさせられる。


「黒に対する対抗策は詩乃さんでしたか」

「黒ちゃんが勉強してる……」

「そんなに珍しいことなんですか!?」

「珍しいなんてものじゃないよね」

「うん、私は黒ちゃんが勉強してるの見たことないかな」

「そんなレベルなんですか……」

「黒は家でも勉強してないですから」

「今までどうしてきたんですか……」

「今まではギリギリで生き延びてたよ」

「よくやってきましたね」


 黒ちゃんは毎回赤点ギリギリの点数で生き延びている。それもテスト前に暗記とか頑張っているからだけどね。幸いなのはこの学校の赤点のシステムだろうか。よく平均点の半分とか聞くけどこの学校は30点以下に固定さえれているので変動しないという点では非常にありがたい。


 この学校は一応平均学力がかなり高いからそれを考えての措置だろう。テストによっては平均点が80になることだってあるのだ。すると40点以下が赤点になることもあるので黒ちゃんには結構きつい。


 そもそもよく学校に受かったなとは思うけど。受かった理由を聞いたらどうやら試験に対してはかなり本気で取り組んでいたようで白ちゃんといっしょの学校に行くんだ、と張り切っていたらしい。


 多分白ちゃんに助けてほしかったからだと思うけどね。


「黒さんは私と一緒にテスト問題を解きましょう。解き方を覚えてしまえば楽ですから」

「私たちは普通にテストしようか」


 詩乃ちゃんと私がそれぞれ指揮をとって午後の勉強会が始まった。






「おわったー!!」


 2時間程したところで黒ちゃんが両手を上げて図書館ということも忘れて叫ぶ。すぐに詩乃ちゃんが口を塞いで周りにペコペコと謝る。


「黒ちゃんテスト終わったの?」

「うん!今の私は最強だよ!」


 声の大きさは控えめながらもその興奮のしようがわかるぐらいには興奮している。なんかどこかの氷の妖精が思い出せるね……


 頭の中で「あたいったらサイキョーね!!」といってる黒ちゃんを思い浮かべる。


「意外と似合う……?」

「どしたの綾香」

「ううん、なんでもない」


 桜に不審がられてしまって思考を止める。実際黒ちゃんってそういうキャラが似合うもんね。


「さ、勉強の続きしようか」

「うん」

「はい」


 自分が意識を切り替えるためにあえて声をだして2人と勉強を進める。


 黒ちゃんの方を見るとやる気が出てきているのか別の教科のテストを2人で解いていた。


 負けてられないなと自分に喝を入れて残りの時間を過ごしていった。






 5時になり勉強を終えて私達は学校を後にする。白ちゃんと黒ちゃんは迎えが来るらしくて学校を出てすぐにいなくなった。詩乃ちゃんも用事があるので、と言っていなくなって桜と2人きりになる。


「なんか桜と2人きりって久しぶりな感じする」

「朝はいっつも2人だけどね」

「あれは周りに人が多いじゃん」

「確かに、2人きりとはいいにくいね」


 他愛もない話をしながらゆっくりと歩く。


「そう言えばおにーさんとは今どうなの?」

「付き合ったけど関係はそこまで変わってないよ」

「そうなの?」

「もちろんキスしたり、イチャイチャする時の距離感は近くなったけどね」

「それはいい事だね」

「うん、お陰で毎日が幸せだよ」


 桜がよかった、とまるで母親の様な顔で微笑む。


「随分気にしてたんだね」

「まぁね」

「そういう桜はどうなの」

「私?」

「そう、桜の恋愛事情はどうなの」

「えっ……と」

「言えないの?」

「なんというか……その……」

「ほらハッキリ言う!」

「……ました」

「なんて?」

「その、一緒に1晩過ごしました」


 その言葉に一瞬フリーズする。


「え?お泊まりってことだよね?健全な」

「全然違うよ、一線超えたよ」

「えぇぇ!!!」


 友人の恋愛事情に驚いてその場に立ち止まる。


「それ!早く!言ってよ!」

「ごめんごめん、言う機会なくて」

「もー、テスト終わったらお祝いだからね!」

「え、別にいいよ?」

「私がしたいからするの!」

「う、うん」


 桜を圧倒しながらお祝いの予定を立てる。恋愛が全然上手くいってなかった友人がついにいい人を見つけたのだ、そりゃお祝いするしかないじゃん。


 こうして久しぶりの2人の時間はお互いの恋模様を語り合って過ぎていった。

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