お泊まり


「なんか私のタイミング悪かった気がする……」


 あわただしく迎えたことは当然ながら見抜かれて気を使わせてしまった。まぁ服見れば一瞬でわかるしな。仕方ない。取り繕う暇もなかったんだし。ちなみに綾香は乱れた服、髪やらを整えるために部屋に戻った。


「いや、来てくれて助かった」

「多分だけどいいところだったんですよね」

「俺的には危ないところだったぞ」

「まぁキスマークついてるぐらいですもんね」

「あ、そっちも気づかれる?」

「そんな見えやすいところで隠せると?」

「だよなぁ……休日でよかった」

「なんか平日にもそういうことがあった顔してますね」

「実際あった」

「……私帰ってもいいですか?」

「なんで」

「だって完全にお邪魔虫ですよね?」

「俺には救世主だぞ?」

「そう言ってる時点でお邪魔虫なんですよ!」


 多分詩乃ちゃんなりの考えがあるのだろうが帰らせるわけにはいかない。救世主とやかくではなく、そもそも綾香の友達なのだから俺が勝手に帰らせるのは筋違いだ。


「とりあえず上がってくれ」

「……お邪魔します」


 詩乃ちゃんをまずはリビングに案内して座らせておく。


「綾香は……多分すぐ来るから待っててくれ」

「わかりました」


 と言って放置するわけにもいかないので適当に飲み物を入れてお菓子と一緒にだす。こういう時便利なのはクッキー。事前に作れば数日は持つし簡単で美味しいし。


「クッキーは手作りなんですね」

「趣味だからな」

「家庭的なんですね」

「一人暮らしをするんだしそのついでに覚えただけだよ」

「……綾香さんの言ってたことを何となく理解しました」

「何が?」

「お兄さんが万能って話です」

「流石にそこまでじゃないぞ」

「できることは認めるんですね」

「多少はな、全部謙遜しても鬱陶しいだけだ」

「思ったより計算高いんですね」


 察しがいいのか結構核心をついてくる言葉を投げてくる。俺はそれをスルーして適当に綾香がくるまでの時間を潰す。


 数分もすれば綾香がリビングに来てくれる。


「ごめーん、遅くなっちゃった」

「いいよー、お兄さんと話してたし」

「そっか、勉強するのここでいい?」

「いいよ」

「わかったじゃあ持ってくるね」

「うん」


 今度は勉強道具などを取りに戻る。すぐに戻ってきて机の上にノートやらを広げて準備する。詩乃ちゃんも一緒に広げて2人の勉強会が始まる。


 邪魔するのも悪いから俺は事前に決めていたように綾香たちに教えるために自分も準備を始めたのだった。






 窓から差し込む光が少しオレンジになってきて俺は晩御飯の支度のために部屋をでる。予定していたことは終わらせたので夜には問題なく先生をこなせるだろう。


「2人とも……ってまだやってたのか」

「うん、途中休憩はしてけどね」

「ならいいよ、晩御飯の準備しようと思うけど大丈夫?」

「私もいいよー」

「私も大丈夫です」


 2人の許可を得て俺は晩御飯の準備に取り掛かる。ちなみに今日の晩御飯はハンバーグだ。泊りと聞いて少し悩んだのだがまぁハンバーグなら大丈夫だろうと判断して作ることにした。事前に食べれないものも聞いているしそこらへんは配慮済みだ。


 俺は慣れた手付きで肉をこねて、並行して野菜や汁物も準備していく。ハンバーグを作るのは綾香が越してきた時以来なのですこし俺もテンションが上がっている。


 下ごしらえをすべて終えてあとはハンバーグを焼けば完成までの状態にする。一応もう少しで完成ということを2人に伝える。


「もう少ししたらできるからキリつけといてなー」

「「はーい」」


 2人の返事を聞いてから俺はハンバーグを焼き始める。いい感じに焼ければ取り出して、ソースを作ってそれをハンバーグにかける。それぞれ配膳をして並べ終えたら晩御飯の準備は終了。エプロンを外して席につく。


 ほぼ同時に2人も勉強を終えて席につく。


「ハンバーグ!」

「すごいおいしそうです」

「食べてみないとわからないけどな」

「絶対おいしいよ!」


 テンションが上がっている2人と手を合わせて食べ始める。最初にハンバーグを食べて出来を確認する。……うん完璧。これなら大丈夫だろうと判断して2人を方を見る。


「流石冬夜くんだね……」

「こんなハンバーグ初めて……」

「初めてってことはないんじゃないか?」

「そんなことありますよ、これはお店のハンバーグにも負けてません」

「そこまで言われると照れるんだけど」

「冬夜くんが作ったのだしね、詩乃ちゃんの気持ちはわかるよ」


 そう言いながら綾香はパクパクと食べ進める。いや確かにちょっといつもよりも頑張ったけどここまで褒められるとは思わなかった。


 この後も2人から絶賛されながら晩御飯の時間は進んでいった。






「さてと……2人ともお風呂どうする?」

「先に入ってもいいい?2人で入るし」

「……狭くない?」

「大丈夫だよ」

「ならいいけど」

「じゃあもうちょっとしたら入るね」

「あいよ」


 そうして洗い物に取り掛かろうとして一つ伝え忘れていたことを思い出す。


「あ、風呂から上がったらテストあるから」

「「え?」」


 2人の声が完全にハモる。


「綾香に先生頼まれたから作ったんだけど……する?」

「先生は頼んだけどそこまでは予想してなかったよ」

「あ、別にやらなくてもいいぞ、普通にプリントとして使うし」

「私はやるけど……詩乃ちゃんは?」

「私も受けるよ」

「わかった、詳しいことは風呂からあがったらいうから」

「はーい」


 2人にそれだけ伝えて俺は洗い物を始める。ちらりと様子を見るとなにか話し合っているのでテストについて話しているのだろうと想像する。


 俺は結果を出すのを楽しみにしながら洗い物をしたのだった。

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