お酒の強さ


 仕事が終わり会社を出る。今日は帰りに買い物をして帰る予定なのでそのままスーパーへと足を向ける。


 事前にメモしておいた物を買ってそれを両手に抱えて家まで歩く。いつもなら休みに土日とかに車を使って来るのだが綾香が来てから2人分の食材を使うようになって慣れていないから少し調整をミスったのだ。


 まぁ次からはないように気をつけるし大丈夫だろう。


「あ、七草さん。仕事帰りですか?」

「えぇ」


 マンションまで帰ると入口でたまたま隣人と会う。


「買い物もされてきたんですね」

「いつもなら土日にやってるんですけどね」

「あ、私が開けますね」

「ありがとうございます」


 ちょうどよくオートロックを解除してもらい、俺はマンションに入る。それから少しだけ世間話をしてそれぞれ自分の部屋へと帰る。


「ただいまー」

「おかえりー」


 リビングの机に荷物を置いてソファに座る。


「お疲れ様」

「ん、ありがとう」


 綾香がすぐに飲み物を入れてくれてそれを飲んで一息つく。


「買い物の片付けしとくからお風呂入ってきていいよ」

「ほんと?んじゃ任せた」

「任されました」


 綾香に買い物を任せて俺は風呂に向かう。


 風呂に浸かっている時エプロン姿でポニテの綾香が可愛かったなという思考に埋め尽くされて少しだけのぼせかけてしまった。




 いつものように晩御飯も終わり2人でなんとなくだらだら過ごす時間になる。


「あ、俺の明日晩御飯外で食べるから」

「誰かと食べてくるの?」

「というか飲んでくるだな」

「わかった、じゃあ私の分だけ作っとくね」

「すまんな」

「いいよ〜。そういう付き合いも大切だもんね」

「お酒は好き好んで飲まないけどな」

「……確かにお家でもほとんど飲んでないよね」

「好きって訳じゃないし買うのが勿体なく感じるしな」

「でもお酒強いんでしょ?」

「人並みにはな」


 と言ったものの、父親に馬鹿みたいに飲まされた時にちょっと暑いな程度で済んだんだから強いんだろう。まぁ爺さんも父親もお酒には強いので遺伝したって感じだろうか。酒の強さが遺伝するかは知らないが。


「ちなみに明日行くとこは昼間喫茶店らしいんだ」

「へぇ〜」

「調べた感じ雰囲気とか結構よかったし今度いくか?」

「うん、行ってみたい」

「じゃあ予定立てとくな」

「やったー!」


 綾香が両手を上げて喜ぶ。膝枕をしている為顎にグーが飛んで来そうでちょっと怖かった。


 最近は2人で並んで座ることもあるけど綾香が俺に膝枕されていることが多く、これが2人の基本姿勢みたいになりつつある。俺も最初は緊張してたけど今は割と慣れてきてちょっと綾香を撫でてあげたり出来てるので気に入っている。


 やってることが猫相手にやるのとそんなに変わらないんだよな。もしかして綾香って猫なのか。


「私ってお酒飲めるのかな?」

「急にどうした」

「んー……冬夜くん飲めるのに私が飲めなかったら将来一緒に飲めないじゃん?」

「そこは何でもいいんじゃない?」

「そうかな?」

「アルコール弱いやつとかにすれば結構なんとかなると思うよ」

「うーん……」

「あんまり気になるならいい手があるけど」

「なに?」

「小説みたいにウィスキーボンボン食べてみる」

「それどうなの」

「実際それでどうなるかは知らないから調べてからだけどな」

「でもヒロインって結構酔うよね」

「確かにどれくらいアルコール入ってるんだろうな」


 ふと気になってインターネットで調べてみる。


 するとすぐに出てきて1個につき、2~3%と書いてあった。


「やっぱそんなもんか」


 ついでに転んでいる綾香に画面を見せる。


「沢山食べたら酔うかもなんだね」

「結構食べてる描写とかあるもんな」

「私も1箱ぐらい食べてみようかな?」

「そんなに気になるか?」

「気になるよ。だって冬夜くんと晩酌できるか決まるんだし」

「学校でアルコールテストみたいなやつしなかった?」

「……したけどあれどうなの?」

「まぁ弱いってわからなかったらいんじゃない?」

「ふーん」

「ちなみに結果は?」

「なんの反応もなし」

「ならとりあえず大丈夫だろ」

「じゃあそういうことにしとく」


 アルコールパッチテストはほんとに弱いやつがやって触れた部分が真っ赤になっていたからそれが分からなかっただけマシだろう。


 そうして納得してくれた綾香の頭を撫でる。相変わらずふにゃりと笑顔になってくれて本当に可愛い。


「冬夜くん私の頭撫でるの好きだよね」

「だって綾香が可愛いし」

「……そんな顔してる?」

「してるぞ、結構緩んだ笑顔」

「うそだー」

「じゃあ今度写真撮って見せてあげる」

「そうして、私の人生に関わるから」

「そんなに重い!?」

「だって恥ずかしい顔とか見せたくないじゃん」

「可愛いからいいけどなぁ」

「そうじゃないの!」


 いかにもぷんぷん!といった感じでポカポカと叩いてくる。それは慣れてきたからいいけどそんなに恥ずかしいものなんだろうか。


「恥ずかしいのはわかったから叩くのやめてくれ」

「……仕方ないからプリンで許してあげる」

「なぜプリン」

「食べたいから」

「冷蔵庫に今日買ったやつがあるぞ」

「わーい!!」


 すぐに立ち上がって冷蔵庫に駆け出す。こういうところがほんと可愛いんだよなぁ。


 戻ってきた綾香の手にはプリンが2つ握られていて多分俺の分も持ってきてくれたのだろう。


「あれ、俺のスプーンは?」

「全部私があーん、してあげる」

「まじ?」

「おおまじだよ」

「恥ずくない?」

「そう?」


 綾香の羞恥心がわからない中俺は綾香にプリンを1口ずつ食べさせてもらう。俺が食べている間にも綾香は自分のプリンを食べているので結構関節キスになってるはずなんだけど……


「はー……美味しかった」

「そりゃよかった」

「冬夜くんもよかった?」

「美味しかったよ」

「よかった。またしてあげるね」


 そう言うといそいそと台所に綾香が行く。一瞬見えた顔が真っ赤になっていたのでやっぱり恥ずかしかったんだろう。


 全く、そうなるならせめて最初の1口だけにしとけばいいものを。と思いながら俺はコーヒーでプリンの甘さを流し込むのだった。

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