綾香の過去と冬夜の思い
ーー冬夜ーー
家に帰ってから綾香が若干挙動不審なことにはすぐに気づいた。その理由はわからないが。
ご飯の時もずっとなにかを聞きたそうにしては聞けずにいる。そんな感じがしばらく続いていた。
流石にその状態でいるのは気持ち悪いので晩御飯もお風呂も終わった後に綾香を問いただすことにする。
「綾香」
「な、なに?」
「なんか聞きたいことでもあるのか?」
「……えっと」
「別に遠慮せずに聞いてくれればいい」
「じゃあ……」
綾香が大きく深呼吸をする。1度で足りなかったのか2度。そして開かれた口から出てきたのは想像もしない言葉だった。
「冬夜くんってなにを思って生きてるの?」
「……ん?」
「あ、えっと……難しいな……」
言葉を探すように黙り込む綾香。この時点で俺は綾香の聞きたいことを察したので割り込む。
「俺の行動基準か?」
「そんな感じ!」
「急にどうしたんだ」
「隠しても意味ないし言うと、冬夜くんのおじいさんに聞かれたの」
「……なるほど。まぁ爺さんなら……」
あの人ならばそういう気づきをしてもおかしくないだろう。綾香は近くにいすぎてわからなかっただけで傍から見ればわかり易かったし仕方ないとは思うけど。
「綾香の予想は?」
「……私の為ってだけじゃない気がしてる」
「うん」
「多分だけど私の幸せの為……とかかな?自分でいうのは恥ずかしいね」
「大体正解だよ」
「そっか」
「一応答えを言うと、綾香の笑顔の為かな」
「私の……笑顔?」
「そう」
「笑顔……笑顔…………あっ」
なにかに気づいたようにバッ、と顔を上げる。俺はそれを正面から受け止める。
「全然説明するよ」
「うん」
今度は俺が深呼吸をして話し始める。
「俺が中学生になってすぐぐらいに綾香が誘拐されかけたことあったよね」
「……あったね」
「その時からだよ。そう生きるって決めたのは」
「なんで」
「あの時の綾香はすっごく辛そうだった。外に出るのも怖がって引きこもってた。そして俺は綾香が攫われかけた時に傍にいたのになにも出来なかった」
「でも、それは」
「うん、中学生だから。……なんて理由で片付けるつもりはないよ」
声のトーンが一気に下がる。僅かに綾香が怯えたような表情を見せる。
「そうして俺はまず自分を鍛えるとこから始めた。勉強や運動はもちろん色々と他の事も学んだよ」
「そしてその後に綾香を守るための方法を考えた。1番いいのはずっと家にいてもらうこと。でもそれじゃ幸せになれないし、ずっと笑顔でいさせる自信もない」
「だから綾香の周辺の把握や事前にできそうなことに片っ端から手をつけた。そうして悪意や害意が一切近づかない環境を作った……いや作ろうとしたかな」
「それはできたの?」
「いや、出来なかったよ」
「……そうなんだ」
「結局は俺が護り続ければいいと思った。俺が綾香を笑顔に、幸せに出来ればいいんだから」
「そうだよ!」
「え?」
「それに気づいたならなんで私に相談とかしてくれなかったの!」
「だって……」
「だって?年齢差なんて関係ないよ!私たちはお互い好き同士なんだよ!?なら私にもちょっとは頼ってよ!」
「……ごめん」
「そりゃ塞ぎ込むよ、誰だってあんな事があれば。でもその後は違うよね。冬夜くんがもし相談してくれば離れてた数年ももしかしたら一緒に入れたかもしれないよね」
「ごめん」
「だから約束!」
「約束?」
「そう!今後なにかする時は私に絶対相談すること!私に出来ないなら弟くんでもいい!だから1人で抱え込んじゃだめ!」
「……あ」
そこでようやく気づく。今まで自分が独りで抱え込んでいたものに。
「冬夜くんは私に幸せでいて欲しいんでしょ?笑顔でいて欲しいんでしょ?なら私だって冬夜くんに笑顔でいて欲しい。好きな人には幸せになって欲しいし、一緒に幸せになりたい」
綾香の言葉の1つ1つが胸に刺さる。
「だから約束……絶対に破らないって誓って」
一瞬間を置いて俺は言葉を返す。
「わかった、俺は絶対に約束を破らない。そして綾香と一緒に幸せになる」
「うん、私も絶対冬夜くんと幸せになる」
きっとキスをすましていたなら今キスをしていたのだろう。けどまだしてない俺たちにそんなことは出来ない。ただハグをするだけ。
それでもお互いの鼓動が伝わり、息遣いが伝わり。想いが届く。
気づけば2人とも涙を流していた。お互いの顔は見えていないけどわかる。誰よりも幸せなる。そう誓う。
「なぁ綾香」
「どしたの?冬夜くん」
「文化祭の2日目ってまだ
「うん、残ってるよ」
「ん……じゃあそれが始まる時屋上で待ってる」
「わかった」
綾香と約束する。
なんとなく察しているだろうけど俺はその時綾香に告白する。これは決めていた事だ。
お互いの気持ちを確かめあったその日は疲れたのか2人とも泥のように眠った。
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