気づき


ーー綾香ーー


 連日文化祭の準備で授業が埋まっているなか私は委員長とともに衣装の交渉に来ていた。


「ここですか」

「ここだね〜。紫乃ちゃんは初めて?」

「えぇ、寄り道なんてしたことないので」

「じゃあ今度一緒にどこか行こ?」

「え?」

「細かい事は後でいいとして、いいでしょ?」

「か、構いませんけど……」

「じゃあ決まり!」


 流れるように紫乃ちゃんと約束をとりつける。そのまま店の前にいるのも悪いのでとりあえず店にはいる。


「こんにちはー」

「いらっしゃい。どうしたんだい?」

「えっと文化祭の衣装で相談がありまして」

「ふむ」

「まだ衣装貸してたりします?」

「申し訳ないけどもうやめたんだよ」

「そうなんですか」

「あぁ借りる人もいなかったし場所も結構取ってたからね。すまないね」

「いえいえ、こちらも無理を言ってすみませんでした」

「相変わらずいい子だね。またお友達と来たら飲み物ぐらいはサービスしてあげるよ」

「ありがとうございますっ!」


 私はおばちゃんの手を握ってお礼の意を伝える。そのまま店を出てとりあえず学校に帰る。


「衣装大丈夫なんですか?」

「それは大丈夫だよ。私の伝手でどうにかなるし」

「綾香さんの伝手って……」

「あ、そう言ってると電話がきたよ」


 私はスマホの画面を紫乃ちゃんに見せた後にそのまま電話で出る。


「もしもし〜」

『もしもし、衣装どうだった?』

「冬夜くんの言ってた通りだった」

『だろうな』


 そう、私は朝冬夜くんから多分もうやってないかもという可能性を伝えられていたのだ。一応もしかしたらと言うことで聞きには行ったけど案の定してなかったので冬夜くんの予想通りとなった。


『じゃあ昼休みの時に送るように言っておく』

「わかった。お願いね」

『まかせろ』


 それだけ言って電話を切る。


「綾香ちゃん、今のは?」

「私の伝手だよ」

「昼休みに来るって言ってたけど……」

「多分車で持ってきてくれるんじゃないかな?」

「す、すごいね」

「採寸とか早めにしなきゃだし助かったね」

「そうだね」

「じゃ学校に戻ろっか」


 驚きなのか戸惑いなのかはしらないけど固まっている紫乃ちゃんを連れて私は学校に戻った。




 お昼休み、私たちが昼食を食べ終わった頃に校内放送で職員室に来るように呼ばれる。


 呼ぶのはいいけどせめて人づてにしてほしい。校内放送で職員室に呼ばれるとかなんか緊張するじゃん。


 てか先生に事前に伝えてるんだし受けとるだけしてくれたらいいのになぁ、と思いながら廊下を歩く。すると職員室前で応接室に入って、と言われたのでその通りにして応接室にはいる。


「失礼します」

「おお、来たか」

「えっ……なんでおじいさんが……」

「ん、暇だったからきた」

「まさか運転も?」

「いんや、それは任せた」

「そうなんですね」


 ソファに座っているのは紛れもなく冬夜くんのおじいちゃんで……会うのは10年とかそれぐらい振りかな?わかんないや。


「って、暇だからくるわけないでしょ」

「そう思うか?」

「おじいさんの事ですしね」

「成長したの」

「そんなことで成長を測らないで下さい」


 この人と話すといつもちょっとだけとげとげした雰囲気になってしまう。勝てないから無意識て抵抗してるんだろうな、と自覚してもどうにもならない。


「というか先生方は?」

「邪魔だからな、帰ってもらった」

「よく通りましたね」

「まぁおれだし」

「その言葉おじいさんぐらいしか言えませんよ」

「冬夜も言えるだろ」

「……そうかも知れません」


 確かに冬夜くんも出来るなー、と納得してしまったけどそうじゃないと思って軌道修正をする。


「それでほんとの用件は?」

「ちょっと話がしたくてな」

「というと?」

「最近の冬夜の様子だな」

「冬夜くんの……様子?」

「綾香ちゃんの目から見てあいつはどう見える」


 そう聞かれて私は考え込む。冬夜くんがどう見えるか。そう聞かれて冬夜くんの行動を思い返す。


 優しくしてくれるし、困ったらすぐ助けてくれる。それどころか予測して先に手を打ってくれている。……あれ?


 そこで違和感に気づく。もしかして冬夜くんって……


「……全部私のために動いてる?」

「やっぱりか」

「えっ、知ってるんですか?」

「なんとなく想像してただけだ、まぁもしかしたらって話だがな」

「そうなんですね」

「ふむ……やはり本人に聞くのが手っ取り早いか」

「家に来るんですか?」

「いや、それはせんよ。今度来るんだろ?そこで聞くことにする」

「そうですか」

「ではの、時間を取らせてすまんかった」


 そう言って封筒を手渡してくる。


「えっと……これは?」


 なんとなく想像がついているけど一応聞いておく。


「小遣いじゃな。冬夜の分もあるぞ」

「そうじゃなくて……」

「ん?」

「小遣いの封筒になんで厚みがあるんですか」

「それぐらいあっても構わんじゃろ?」

「使いませんよ!?」

「なら貯金でもしておけ。どうせいつか使うんじゃ」

「そうさせて貰います……」


 そうして手を振って部屋を出ていくおじいさん。ほんとあの人と話すと混乱するなと思い私も部屋を出る。


 先生に一言言ってから教室に戻るが私の頭の中はさっき気づいたばかりの疑念に囚われてしまっていた。


 それにこの封筒持ったまま午後過ごすの……?せめて振り込んどいてくれないかな……

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