一緒にゲーム


「冬夜くーん」

「あいよ」


 綾香に呼ばれて俺は洗面所に向かう。


「開けるぞ?」

「いいよー」


 声をかけてからドアを開けると一応服は着た綾香がドライヤーを持って待っている。


 綾香が来てから3日に1回ぐらいこうやって呼ばれて髪を乾かしている。


「やるから動くなよ?」

「うん」


 鏡を見るとにこにこした綾香がいまかいまかと待っている。そんなにされるの嬉しいか……?まぁ本人が嬉しいならやるけどな。


 ドライヤーのスイッチをいれてゴーっと風が出だすと綾香の髪に当ててゆっくりと乾かしていく。一点に当てすぎて熱くならないように全体を満遍なくする。


「〜♪」


 綾香は鼻歌を歌ってだいぶご機嫌のようだ。そんな綾香が見れるだけで俺は充分だけどそれで終わるわけには行かないのできちんと最後までやる。


 綾香の髪は腰ぐらいまで伸ばされているのでそこそこ時間をかけて乾かし終わった。


「はい、これで乾いたろ」

「ありがと」

「おう、んじゃリビング戻ってる」

「はーい」


 俺は洗面所を出てリビングに戻る。そのままソファに座り込んで大きく息を吐く。


「ふぅ……」


 風呂上がりでだいぶ服を緩く着ている綾香は色々と見えそうでほんとにきつい。そりゃ着たくないのはわかる、けどせめて隠そうとしてほしい。俺に全部許してるのがわかるので理性がゴリゴリと削れる。


「後2年もこれが続くとか俺無理だろ」


 落ち着く為にコーヒーを入れるために立ち上がりキッチンに行く。


「上がったよー」

「あいよ、なんか飲む?」

「牛乳!」


 綾香のために牛乳をコップにいれて渡す。綾香は牛乳好きでよく飲んでるけどこれ以上大きくなるつもりなんだろうか。なにがとは言わないけど。


「んくっ……っぷはー!」

「……酒でも飲んでんの?」

「お風呂上がりだからね」

「腰に手を当てて一気に飲むのがルールだもんな」

「そうそう、それが1番美味しく感じるんだよ」

「変なとこだけ影響されるよなぁ……」

「変じゃないよ?」

「影響のされ方は変だろ」

「むー……って冬夜くんゲームしてたの?」

「ああ、綾香となんか出来るのあるかなって探してた」

「私レースのやつやりたい!」

「いいぞ、ちょっと準備するわ」


 コントローラーを2つだしてカセットを入れ替える。テレビの電源を入れてゲームを起動してソファに座る。直ぐに綾香も隣に座ってきた。


「んじゃやるか」

「よーし!冬夜くんをぼこぼこにするぞー!」

「そのセリフ使うゲームじゃないだろ」

「じゃあ全レース1位とる!」

「それは阻止させて貰うぞ」


 2人とも徐々にテンションが高くなってくる。ゲームが始まると適当にマシンやキャラを選んでステージはランダムでレースを始める。


「頑張るぞー!」

「綾香ってこのゲームやったことあるのか?」

「ない!」

「なんでそんな自信あんの……」

「センスだけで勝つよ」

「キメ顔でそのセリフ言わないで」


 そうこうしているうちにレースのカウントダウンが始まる。俺も綾香もスタートダッシュできるカウントでアクセルボタンを押す。こうして2人ともスタートはミスせずレースが始まった。


「いっくよー!」

「俺も負けないぞ」


 最初のアイテムを取って俺はそれを温存したまま上位に行く。綾香も同じプランのようで後ろを着いてきた。


「ほんとにセンスだけでどうにかなってるな……」

「ふふーん!」


 実際綾香は1度も操作ミス等はなく宣言どおりセンスだけでどうにかなっている。ボタン全部勘で押してるのすげぇな。


 レース最初は団子状態だったけど進んでいくに連れて上位と下位で少しづつ差が出来てくる。そうして2週目の終わりの時点で1位が俺で2位が綾香、その後はだいぶ距離があくという状況が出来た。


「流石だな綾香」

「もっと褒めてくれていいんだよ?」

「それは勝ったらな」

「じゃあ抜かしちゃうよ!」


 俺に攻撃アイテムが飛んで来たのを見て綾香はそう言う。けど俺はそれを冷静に対処し順位を変動させない。


「うそっ!?」

「そりゃ対策ぐらいするよ?」

「抜けると思ったのにぃ……」


 結局その後順位変動はなく俺が1位、綾香が2位で終わる。


「むぅー!」

「叩くな叩くな」

「次は勝つからね!」

「悪いけど勝たせるつもりはないぞ」


 それからの3レースも結果は1レース目と一緒だった。やっぱり俺はこのゲームをやったことがある分有利だな。これで負けたら普通に悲しい。


「私が勝つまでやる!」

「ある程度したら寝るからな?」

「じゃあそれまでに勝つ!」


 綾香が若干駄々をコネ出してる気がするけどわざと負けるわけにも行かないのできちんと全力でやる。多分手を抜いたらバレるだろうしな。


 それからはほとんど無言で集中してプレイした。というより綾香が完全に集中して喋らなくなったというのが正しいだろう。


 ただ途中から綾香が集中しすぎたのかカーブの度に身体が傾くようになって度々俺に当たりそうになったり少しだけ当たるから俺はプレイに集中出来なくなってたりした。


 触れるか触れないかの距離ったすげードキドキするよな。


 11時を回った頃ようやく綾香が1位をとる。


「やっっったー!!!」

「流石に負けるかぁ……」

「2時間ぐらいやって1回も負けない時点でおかしいと思うよ」

「綾香が精神攻撃をして来なかったらまだ勝てた」

「……私そんなことしたっけ?」

「気づいてないならいいよ……」


 気づかない方が本人は幸せかもしれないしな。


「やっぱ人とゲームするのは楽しいな」

「私もこんなに楽しかったのは久しぶりかも」

「またやりたいな」

「今度は桜たちとも一緒にやりたいな」

「土日なら昼飯ぐらい作るぞ」

「ほんと!?」

「おう」

「なら今週誘ってもいい?」

「家具が届かない日ならな」

「ありがと!」


 綾香だけじゃなくみんなとも遊ぶのもいいかもしれないなと思う。俺は気づけば一人暮らししてたのなんて忘れるかもしれないと薄々感じ始めるのだった。

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