報告
ーー冬夜ーー
いつもよりも少し遅い時間に仕事を終え会社を出る。なにかあったわけではなく、ちょっと会議が長引いただけなのだが。
「連絡しとかないとな」
綾香に今から帰ると連絡をいれて帰路につく。その途中あることを思い出して俺は駅に寄る。
「確かこっちだったはず……」
駅の中にある店に寄って少しだけ買い物をしていく。今日はその店の割引の日で残ってるか不安だったがどうやら間に合ったようだ。俺は無事に目的の品を買うことができた。
駅を出ると若干蒸し蒸しした暑さがしてくる。もう梅雨に入っているため暑さに湿気が混ざってきている。これからさらに暑くなってくると考えるとどんどん憂鬱になるな……
「そう言えば7月は文化祭があったな」
梅雨明けを考えていると7月には文化祭があったことを思い出す。綾香に予定とか聞いとかないと……有給取れないし。
考え事をしていると直ぐに家に着き俺はマンションのロックを開けて自分の部屋に行く。
「ただいまー」
「おかえり」
エプロン姿の綾香が出迎えてくれる。その姿を見るだけで今日の疲れがとれるようだ。
「先にお風呂入るよね?もうお湯はいれてるよ」
「ありがとう、直ぐに入る」
「うん、ゆっくり疲れをとってきてね」
……完全に夫婦な気がする。てか綾香に晩御飯任せっきりだな。たまには作りたいけど俺の方が帰るの遅いし仕方ないのかな?
俺はどうにか家事の分担を上手いこと出来ないか考えつつお風呂に入るのだった。
「おぉ、今日は唐揚げなんだな」
「うん!自信作だよ!」
お風呂を上がるともう机に料理が並んでいて俺は椅子に座る。今日の晩御飯は唐揚げと作り置きのポテトサラダ、味噌汁だ。2人でいただきますを言って食べ始める。
「……ん、美味しい」
「やった」
綾香が小さくガッツポーズをとる。
「綾香のご飯はやっぱり美味いな」
「冬夜くん程じゃないけどね」
「俺とほとんど変わらないだろ」
「そうかな?」
「そうだよ、自信持っていいんだぞ?」
「じゃあちょっとだけ自信持つ」
「ん、それがいい」
半分程食べ進んだ所で俺は綾香に文化祭のことを聞き出す。
「今年も文化祭って例年通りにあるんだろ?」
「うん、16日の金曜日にあるよ」
「わかった、じゃあその日は有給取っとくわ」
「来てくれるんだね」
「そりゃ綾香と文化祭回りたいし」
「私も冬夜くんと回りたかったから嬉しい」
「それならよかった」
「うちのクラスは喫茶店だし是非食べに来てね」
「おう、そう言えば綾香はミスコン出るのか?」
「出る気はないけど……どうしたの?」
「いや、弟からそういうのがあるってことだけ知ってるから聞いただけ」
俺が卒業した後にミスコンはできたらしいのでよくは知らないが一応優勝者には景品があったりして人気ではあるらしい。
「冬夜くんは私にミスコン出て欲しい?」
「綾香の好きにすればいいと思うよ、それに綾香が出たら優勝が決まっちゃうし」
「……面と向かってそういうのはどうかと思うよ?」
「事実だし」
「まぁ、出るつもりはないよ。回る時間減っちゃうし」
「それもそうだな」
一区切りした所で2人ともほとんど食べ終わり机の上を片付け始める。
「そういやデザート買ったけど食べる?」
「なに買ったの?」
「ロールケーキ」
「食べる!」
「あいよ。冷蔵庫から出してくるわ」
冷蔵庫からロールケーキを出して皿に乗せる。ついでに紅茶を2人分いれる。その間に綾香が机を片付けてくれていた。
「帰ってきたときに持ってた袋はそれだったんだね」
「うん、割引されてる日ってこと思い出してな」
「駅の中にある店だよね?」
「そうそう」
「あそこの美味しいよね」
「食べたことあるのか?」
「たまーにお母さんが買ってきてくれたの」
「なるほどな」
その後は2人でどこの店のが美味しいとか、あのお店の食べてみたいとかのスイーツ談義をしつつデザートの時間を過ごした。
「それじゃお風呂入ってくるね」
「あいよー」
綾香がお風呂に行き俺は1人になる。特にすることがないのでソファに転がりなんとなくスマホを見る。それでも面白いものはなくスマホを閉じてぼーっとし始める。
「暇だな……」
前までどうしてたっけ?と綾香が来る前のことを思い出す。綾香が来てからまだ1週間ちょっと、だというのに綾香といる時間に慣れてしまった。幸せを知ってしまったと言うべきか。
「こうも変わるもんなんだな」
前は仕事が終わって家に帰ったら家事を済まして1人でお酒とかなんとなく飲んで時間を潰してた気がする。ゲームも買ったけどいつの間にか1人でする気も無くなってしばらく触ってない。
綾香とゲームするのもいいかもしれない。2人で楽しめるようなパーティゲームとか買ってみようかな。それともほかに綾香と出来ることを探すべきだろうか。
気づけば綾香となにかすることばかり考えてしまう。それぐらい綾香のことが好きなんだろう。よくもまぁこの数年抑えれてたものだ。いや抑えてたからこそ今爆発しているのか。
「もう1人には戻れそうにないな……」
自重気味にそう呟く。人といること、好きな人と過ごすことの幸せを知ってしまった。それはきっと毒なのだろう。
二度と1人になれなくなる。常に寂しさを感じてしまう、そんな毒。浸れば甘く離れれば辛く苦しい。俺はそんな毒にもっと深く浸かりたいと願ってしまう。あわよくば永遠に。
「久しぶりにゲームでもするか」
お風呂上がりの綾香となにか出来るゲームを探すために俺はソファから立ち上がった。
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