人気者


ーー綾香ーー



 冬夜くんとの至福の時間を過ごした私は上機嫌に学校に向かう。上機嫌といってもこないだのようにわかりやすいわけではなく一応隠してはいる。前みたいにわかりやすいと私の場合弊害が多いことに気づいた。まぁ隠してもフラグには勝てない気がするけど。


 でも隠してるはずなのに今日も視線が多い気がする。今回は原因がわかりきってるからいいけど……絶対冬夜くんのことだよね。絶対広まったよね。そのうち広めていく予定だったし早く広がる分にはいいけどまだ細かい対応考えてないよ?


 質問責めにあうのを覚悟で行くしかないよね。辻褄合わせは文化祭までに準備すればいいや!


 私はほとんど無謀な覚悟を決めて教室に向かったのだった。




「淡水さんおはよ~」

「みんなおはよう」


 クラスのみんなに挨拶をして自分の席に向かう。それから朝のHRまでいつもと同じような時間が続く。思ったよりも質問とかが飛んでこないことに安堵する。多分しないように的なことを言ってくれたんだろうか?もしそうならまた感謝することが増えてしまう。


「あ、みんなちょっといい?」

「どしたの~」

「こないだのお礼ってことでクッキーを焼いてきたの」

「淡水さんのクッキー!?」

「う、うん……」


 想像以上のに食い気味で聞き直されて私はちょっと引き気味で答える。このクッキーは昨日の朝ごはんの後に焼いたもので一応作り立てだ。冬夜くんには晩御飯の後に食べてもらって既にお墨付きをもらっている。


「おいしい!」

「淡水さんほんと料理上手だよね~」


 などと誉め言葉を貰って照れくさくなる。みんなが食べているのを見て私も食べたくなりクッキーをつまむ。味はわかりきっているのでよく出来たな〜ぐらいの感想しかないけど。


「それじゃあHRを始めます」


 その先生の声で私たちは解散してHRが始まる。いつものように連絡があり私は適当に聞き流して待つ。いつもはそれでいいけど今日は少し違った。


「さて、あと一月後に迫った文化祭についてです」


 文化祭についてのお知らせがある。内容としては金曜日までにクラスでやることを考えること、そして個人でなにか出るもの等があるなら先生に言うことだった。


 前半はいい、問題は後半だ。個人で出るもの、これにはミスコンが含まれる。このミスコンは2年前の生徒会長が作ったもので今年は3度目になる。人気が無ければ無くなったのだけど2年連続でかなり人気だったので今年もあるそうだ。


 私は去年断ったし今年も断ろうと思っている。だって冬夜くんと回る時間がなくなるじゃん!みんなに押し切られないかが心配かな。


「それじゃあ1時間目はクラスの出し物決めと実行委員を決めるからこの教室にいてね」


 先生がそう言ってHRを締める。終わった途端にがやがやといつもよりも数倍賑やかな教室になる。


「綾香〜?」

「どしたの桜」

「綾香ミスコンでるの?」

「でない」

「だよね」

「うん、急にどうしたの?」

「別に?まぁお姉さんに任せなさい」


 綾香はその足で女子グループに行き一言二言話して直ぐに離れる。一体なにをしたのだろうか?


 1時間目までの休み時間はほとんどなくてすぐに1時間目が始まる。最初は先生が進行をする。


「まずは実行委員からね、立候補はいるかしら?」

「はい」


 直ぐに返事がありみんなそちらを向く。彼女はクラス委員で藤井ふじい 紫乃しのという。去年もやっていたし恐らくそういうタイプの人なんだろう。


「あともう1人はいる?男女どちらでも構わないわ」


 先生が聞くが反応は悪い。実行委員は文化祭当日も仕事がある。それをする為には誰かと回るとかの約束を断らないと行けないわけだ。ちなみにその仕事はパトロールとか。


 そして私は誰も手を挙げないのを見て立候補する。


「私がやります」

「淡水さんがやってくれるのね、みんなこの2人でいい?」


 否定の言葉はなく私は文化祭実行委員になることになった。


 もちろんなったのには理由がある。実行委員になれば全てのクラスの出し物を把握出来るしパトロールは人と回ってもいいのだ。なら冬夜くんと回る理由になる。実行委員なら案内っていう理由にもなるし知り合いなら一緒に回っても問題ないだろう。


 そして1番の理由は実行委員になってミスコンを断ることだ。当日やることあるから、でだいたいの用事は断れる。実行委員自体は対して大変でもないので問題はない。


「さてそれじゃあこれからの進行は実行委員の2人にお願いするわね」


 私と藤井さんは前に出る。藤井さんに進行を任せて私は黒板に意見を記していくことにする。


「さて、クラスの出し物でなにか案はありますか?」


 喫茶店やら何かしらの展示、クラスで劇、メイド喫茶など様々な意見がでる。てかメイド喫茶は男子がみたいだけでしょ。


「この中だと喫茶店か展示が妥当ですね」

「メイド喫茶は〜?」


 1部のチャラい男子達が調子に乗ってそう言う。


「ありえません、そもそもなぜ女子だけが場に出ないと行けないのですか」

「そりゃ可愛いしー」

「はぁ……おだてた所で何も変わりませんよ」

「ちぇっ、委員長は相変わらず硬いねー、淡水さんはどう?」


 なんで私に振ってくるのかな?私がやると思ってるの?


「やりません、次このような意見を言った場合はそもそも記録しませんよ」


 強めの口調でそう言えばすぐに黙る。全くその程度なら最初から喋らないで欲しい。


 時間がかかったのは最初だけでその後はするすると決まって言った。


 最終的にうちのクラスは喫茶店をやることになった。他のクラスと被らないように委員会で話し合って決まれば最終決定となる。


「先生これでよろしいでしょうか」

「ええ、2人ともありがとう」


 授業時間を10分ほど残した所で話し合いは終わり残りはほぼ休憩時間になる。


 文化祭はなにする?とか誰を呼ぶ?みたいな話になる。文化祭まで残り1ヶ月、学校の雰囲気は徐々に文化祭へと近づいていっている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る