幸せな朝
ーー冬夜ーー
心地よい温かさに包まれて寝ていたところから目を覚ます。カーテン越しにまだ日が差し込んでないところを見るとまだ夜中だろう。
時間を確認するためにいつもベットの近くに置いてあるスマホを手に取ろうとしてなにか柔らかいものを掴んでしまう。数回触って流石にこんなもの置いてたっけ?となってそちらを見ると綾香が寝息をたてて寝ていた。
「んぅ……」
俺は恐る恐る手を伸ばしている方向を見る。そこには予想通り(合っていて欲しくはなかったが)綾香の胸が収まっていた。
急いで手を離しその場から離脱する。急に立ち上がった反動で頭痛がするがそんなことが気にならないほど心臓がバクバクと鼓動している。
「何やってんだ俺……」
とりあえず綾香を部屋に移動させようと思い、起こさないように丁寧に持ち上げる。背中におぶろうと思ったけど体勢的に難しいのでお姫様抱っこをして綾香を運ぶ。
ちょっと苦戦しながらドアを開けてどうにか綾香をベットまで運び終える。
「ふぅ……」
無事に起こさず運べたことに息をつきベットとか離れようとする。
「とうくん……?」
「ん、起きちゃったか?」
「ん……はなれちゃ、や」
そう言って綾香は俺の服の裾を掴んで離さない。しかもそのままの状態で寝てしまう。もしかして俺朝までこのままなのか?
「綾香さーん?ちょっとその手を離して貰えると……」
返ってくるのは寝息だけで離してくれる気配はない。もうこのまま寝るしかないと思うがどう寝ようか。捕まれている場所的に一緒にベットに転ぶしかないんだよな……
「仕方ない……か」
綾香をどうにかベットの奥の方に押して俺はベットに転がる。シングルベットのため2人転がれば当然スペースなど皆無だ。お互いの息が当たるぐらいの至近距離で俺は目を閉じどうにか眠りにつこうと頑張ったのだった。
ーー綾香ーー
冬夜くんの隣で寝たからかいつもよりもすっきりとした朝を迎える。隣にはまだ冬夜くんが寝ていてその寝顔に思わずほっこりしたのもつかの間自分のいる場所に気づいて一気に混乱する。
「あれ……私リビングで寝たよね?」
急いで記憶を掘り起こす。うん、確かに私はリビングで寝た。なんなら枕とかを持っていった記憶がある。つまり、なにかの理由があって私は自分の部屋に帰ってきたというのだ。ならなぜ冬夜くんが隣で寝ているんだろう。私を運んだあと冬夜くんは普通なら自分の部屋に行くはずだ。ならなにかしらの原因があってこの部屋にとどまったことになる。
そして私は気づかなくていいことに気づいてしまう。自分の左手がなにをつかんでいたのか。ずっと別のものと誤解しておけばよかったのに。
「もしかして……私が引き留めた……?」
私の左手は冬夜くんの服の裾をつかんでいたのだ。それも結構しっかり。それが原因で冬夜くんはこの部屋に残ったのだろう。しかも袖とかじゃないからちゃんとベットに転ばないといけなかったのだ。
「私変なこと言ってないよね……?」
多分寝ぼけてたから記憶がない。大丈夫だよね?とか不安になって焦っていると、冬夜くんが目を覚ました。
ーー冬夜ーー
目を開けると目の前には綾香のお腹があった。といっても服に隠れているので肌は見えていないが。そのまま視線を上に向けると綾香が割と焦っている時の顔をしていた。それを見てだいたいの状況を把握した俺はなるべくいつもの調子であいさつをする。
「おはよう、綾香」
「お、おはよう、冬夜くん」
綾香はどうにか落ち着いておはよう、と言ってくれる。
「俺がここにいるのも悪いし、すぐでるよ」
「えっ……」
俺は立ち上がりすぐに部屋を出ようとする。
「ま、待って!」
「どした?」
「もうちょっとだけ時間あるよね?」
「あるけど……」
綾香の部屋の時計をみてそう答える。
「こっち来て……」
「……わかった」
綾香に促されて俺は再びベットに座る。するとそのまま綾香の手によって転がされる。綾香も転んできて俺たちは再び至近距離で向き合うことになる。
「な、なぁ」
「ちょっと静かにしてて」
「お、おう……」
少しだけ強めに言われて思わず俺は押し黙る。すると綾香がもぞもぞと動いて俺の胸の中に収まる。そしてちょっとくすぐったいような顔で綾香が俺に抱きつく。
「綾香?」
「ふふっ……冬夜くんすごいドキドキしてる」
「いきなり来られたらするに決まってるだろ」
「私もすごくドキドキしてるよ」
「してなかったら困る」
「聞いてみる?」
「え?」
綾香はそういうと俺の答えを聞く前に自分の胸に俺を抱き寄せる。俺は急に自分の顔に当たる綾香の胸の感触にびっくりしてつい声をあげる。
「むぐっ……」
けど綾香の胸に埋まったままではうまく声も出せない。
「聞こえる?私の鼓動」
綾香気づいて、俺このままだと綾香の胸で窒息する。そんな意味を込めて腕を叩くする。
「あっ、ごめんね。ちょっと強かったよね」
「……ふぅ、もう大丈夫」
「どうだった?」
「すごい柔らかかった」
そりゃもう天国のような気持ちだった。実際天国に行きかけたけど。てか絶対綾香半分寝てるよな。いくらなんでもこんな大胆になるか?
「また疲れた時は言ってね?」
「ああ、でもこんなに過激じゃなくていいぞ」
「そう?」
綾香の言葉を聞いて理解する。決して寝ぼけてた訳じゃないと。疲れた俺を癒そうとしてくれてたんだな。だとしても抱き寄せるのはちょっと違うと思う。
「でも、ありがと」
「うん、どういたしまして」
「んじゃ朝ごはんの用意してくるわ」
「私もすぐ行くね」
ようやく俺は綾香の部屋を出る。最後に名残惜しく手を振って部屋を出た。俺は身体の至るところに残る綾香の感触にドキドキしながら朝の支度を済ませたのだった。
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