マッサージ



 冬夜くんの部屋を堪能した後私は洗濯物を畳んだり掃除機をかけたりして時間を過ごしていった。


「なんか結婚してるみたい……」


 夫が仕事に行ってる間に家事をしている妻みたな感じのことを思う。年齢的にも恋人としての時間も考えて私は新妻かな?


「えへへ……」


 そんなことを考えているとまた顔がにやけてくる。今日の私は表情筋が緩みすぎじゃないだろうか。冬夜くんが帰ってくるまでにしっかり気を引き締めておかないと冬夜くんの前でだらしない姿を見せてしまうことになる。昨日表情から読み取りやすいって言われたぐらいだし気を付けないと。


「よしっ、洗濯物おわり」


 服はそれぞれ分けて冬夜くんの分だけは部屋のベットの上に置いておく。これは冬夜くんにこうしといてって言われたからしている。そのうちどこにしまうかも覚えたい。その後自分の分とタオルなんかを片付けて家事を一通り終える。


「やることなくなったなあ」


 晩御飯の準備とかをしてもいいのだけど冬夜くんに聞いたらもう決めてあるって言ってたし私が準備することもないだろう。ふとテレビの下のラックにゲーム機があることに気づく。


「ゲームしてみようかな」


 普段はそんなにゲームをしない私だけどこうまで暇になるとゲームをして時間を潰すことが多くなる。ちなみによくやるのはスマホのカードゲームだったりRPGをよくやる。頭を使うのはすきだけど実力が圧倒的に足りないことが多いのでシューティングゲームとかアクションゲームはあまりやらない。


「なにがあるのかな?」


 ゲームを起動してなかに入っているセーブデータを確認する。するとスマホでもやっているゲームのコンシューマー版があったのでそれをプレイすることにする。カードゲームだしたぶんそんなに違和感はないだろう。


「はふぅ~」


 しばらくプレイして私はソファにもたれかかった。買ったり負けたりをずっと繰り返して結構疲れたのだ。いつもとは違う環境になれなかったのが原因だと思う。でもそれが面白くてしばらく続けてやりたいという欲が湧いてくる。時計をみるとそろそろ冬夜くんが帰ってくる時間なのでお風呂を沸かしておく。


「よしっ!」


 少しだけ意気込んで私は再びゲームのプレイを再開した。



ーー冬夜ーー



「ただいまー」


 そう言った直後にパタパタを綾香が玄関にやってくる。


「おかえりなさい」


 綾香が荷物を受け取ってくれる。なんか新婚夫婦みたいなやり取りだなと感じる。いつかここにただいまのキスとか入るんだろうかと想像してしまう。


「お風呂沸いてるけどもう入る?ご飯の準備はその間にしとくよ」

「じゃあ頼んでいいか?ご飯の準備はすぐ終わるし」

「うん、まかせて」


 綾香にそう言って俺はお風呂に向かった。




 晩御飯を食べ終え綾香もお風呂から上がりなんとなく習慣づいてきた綾香とゆっくりする時間になる。ちなみに晩御飯は昨日のカレーの残りを使ったカレーうどんだ。


 今日は綾香が勉強を教えてほしいと言ってきたので俺はなんとか高校の時の知識を引っ張りだして教えていた。


「もう大丈夫か?」

「うん、ありがと。冬夜くんは教えるのも上手なんだね」

「うろ覚えだったけどな」

「それでも助かったよ」

「まぁこれぐらならまた手伝うから言ってくれ」

「ありがとー!」


 綾香がわざとらしく抱きついてきてお礼を言ってくる。俺は若干紅くなりながらそれを受け止める。ハグ自体は一瞬ですぐに終わった。綾香はすぐに立ち上がり伸びをする。


「ん~……」

「疲れてるのか?」

「ん~?ちょっと肩が凝ってるだけ」

「マッサージしようか?」

「できるの?」

「少しぐらいはな」

「じゃあお願いしていい?」

「まかせろ」


 綾香にカーペットの上に座ってもらい俺は綾香の肩に手を添える。


「んじゃいくぞ」

「おねがいしまーす」


 ゆっくりと綾香の肩をほぐすように揉む。綾香の身体は柔らかくて少し戸惑いながらも俺はマッサージを進める。


「んっ……」


 綾香の声を聞きながらどこが凝ってるのかを探す。


「あ~そこかも~……」


 綾香の脱力した声を聞いてそこを重点的に揉む。ゆっくりとそして痛くない程度に力強く。徐々に綾香の頬が火照ってくる。


「んぅ……きもちい~……」


 妙になまめかしい綾香の声を鋼の理性で聞き流しマッサージを続ける。


「ん、終わり」

「ありがと~」


 マッサージは10分程行った。途中からはほとんどわざとのような綾香の声が心臓に悪かった。ほんとやめてほしい。


「私もお返しにマッサージしようか?」

「俺はそんなに凝ってないぞ」

「冬夜くんは絶対凝ってると思うよ。ほらそこに転がって」


 綾香に促されて俺は床に転がる。すると腰のあたりに綾香が座ってくる。綾香のお尻が背中を腰にダイレクトに伝わってきてこれまた心臓にわるい。


「……綾香、態勢変えない?」

「ん~?このままいくよー」

「いや、変えてほしいんだけど」

「じゃあ無理やりにでも落としたら変えてあげようかな?」

「くそ……」


 俺がそういうことをできないと踏んで綾香が提案してくる。もうこのまま受けるしかないかと諦めてマッサージを受ける。綾香がの小さい手が俺の肩を肩甲骨のあたりを叩いたり揉んだりしてくれる。それが心地よくて俺は目を閉じてマッサージを受け続ける。


「冬夜くんの背中ゴツゴツしてる……」

「まぁ男だしな……」

「硬くて、おっきくて男の人って感じ」

「言葉選びどうにかならなかった?」


 そんな軽口を交わしていても俺は徐々に心地よい眠気に襲われる。綾香の声や背中から伝わる体温。そして健気にマッサージをしてくれている感触。それらも相まって気づけば俺は寝落ちしていた。



ーー綾香ーー



「あれ、寝ちゃった?」


 いつの間にか冬夜くんが寝息を立てて寝ている。最近の引っ越しやら私の呼び出しやらで疲れていたのだろう。


「おーい、ここで寝ると明日辛いよー?」


 それとなく起こしてみようとするけど冬夜くんはなかなか起きない。


「運ぶのも無理だし……どうしよう?」


 とりあえず冬夜くんの部屋から枕とタオルケットをとり冬夜くんにかけてあげる。


「……そうだ!」


 その直後私は妙案を思いつき自分の分の枕を取ってくる。そしてそれを冬夜くんの横において部屋の電気を消す。


「おやすみ、冬夜くん」


 頬に軽くキスをして私は冬夜くんに抱きついて目を閉じる。その幸せな空間に私はすぐ眠りについた。

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