吐露


 綾香と並んで晩御飯を作る。綾香は制服にエプロンといった姿で新妻みたいな感じがする。正直言ってすごくいい。


「私のエプロン姿はどう?」


 綾香が心を読んだようにそう聞いていくる。


「すごくいい、制服にエプロンってのもポイントが高い」

「ふふーん、まぁなにかこぼしたら大変だけどね」

「スカートだけは汚すなよ」

「もちろん、常に注意を払ってます」


 そう言ってまだ使ってないお玉を片手にその場で一回転する綾香。その姿がまた俺を刺激する。ほんと俺の好きなところを抑えてるな。


「これはもう混ぜていいんだよね?」

「ああ、んで混ぜ終わったら鍋に入れてくれ」

「はーい」


 その後もカレー作りは順調に進み無事に完成させることができた。


「おいしそう……」

「綾香はほんといい表情をしてくれるな」

「そう?」

「綾香がおいしいって思ってるときとか特にいい顔をしてるぞ」

「なんか恥ずかしい……」

「俺としてはもっと見せて欲しいけどな」

「むぅ……」

「いったそばからやってくれるんだな」

「あっ!」


 綾香は表情がコロコロ変わるので話していても見ていてもすごく楽しい。だからこそからかいがいがあるし恋人になれてることが嬉しい。


「それじゃ食べようか」

「うん」

「「いただきます」」


 お互い同時にカレーを一口食べる。ちらりと視線を向けて綾香の方を見ると目をキラキラさせてカレーを頬張っている。満足しているんだろうなということがわかり俺もなんだか誇らしくなる。


「こんなおいしいカレーを食べるのは初めてだよ……!!」

「好評のようでよかった」

「冬夜くんはほんと料理上手だよね」

「ずっと練習してたしな」

「私もいつか冬夜くんぐらい美味しいのを作ってみせるから!」

「期待してるよ」


 少し前までは誰かに料理を振る舞うなんてことは全然無かったしましてやこんな距離感で会話することも無かった。こういうのを体験してしまうとやはり料理は人に食べてもらってこそだなと実感する。


 晩御飯を食べ終え交互にお風呂に入った後、俺と綾香は並んでソファに座ってだらだらとしていた。なにかを見ているわけでもなくただゆったりと話しているだけの時間。俺達にはそんな時間ですら至福の時間にはなるが。


「なぁ……綾香」

「どしたの?」

「今日の事は本当に大丈夫だったか?」

「というと?」

「なんか無理してそうな気がしてな」

「……そんな風に見えた?」

「ちょっとな、他の人にはバレてなさそうだったけど」

「そっか、冬夜くんにはバレちゃうかぁ……」

「やっぱ無理してたんだな」

「もちろんだよ、だって襲われかけたのなんて中々ないし」

「そんな経験が何度もあっても困るけどな」


 俺は少しだけ緩い空気を維持するように会話を続ける。


「だから予測はしてたけど怖かった」

「そうか」

「どうなっちゃうんだろう、ってずっと考えてた」

「うん」

「冬夜くんが来てくれた時本当は泣きたかった」

「うん」

「ほんと、怖かったよぉ……」


 その言葉に俺はなにも言わず綾香を抱き寄せる。少し強く抱きしめた後綾香をゆっくりと倒し寝かせる。ちょうど俺の太ももに頭を乗せるようにして。いわゆる膝枕と言うやつだ。


「あっ……」

「少しは落ち着けるか?」

「……うん」


 綾香は顔を埋めるようにして転がる。きっと涙を見せたくないのだろう。……涙を隠すんだったら抱きしめたままのほうがよかったか?今更そんなことを考えても仕方ないか。


「私……こんなことになるぐらいなら学校なんて行かない方がいいのかな……」

「そんなことはないよ」

「でも私だけじゃなくてみんなにも迷惑をかけちゃった……」

「学校ってのはそんなものだよ」

「そうなのかな……」

「迷惑をかけて誰かに嫌われたか?」

「……ううん」

「嫌われるどころか助けて貰っただろ?」

「……うん」

「それが綾香の積み上げてきたものだ。仮面を被っていても許される。誰に迷惑をかけても助けて貰える。それは立派なことだよ」

「うん」

「だから綾香が気に病むことはない、それでも辛いなら俺を頼れ」

「うん」

「綾香のためならいくらでも力になってやる。絶対に助けてやる」

「……うん!」

「だから綾香はずっと笑顔でいてくれ」


 少しづつ大きくなってく綾香の声を聞いて元気が出てきたかな?と思う。しばらくはたくさん甘やかしてやりたいしわがままもたくさん聞いてあげようと思う。それで綾香が元気になるなら安いものだ。


「ねぇ、冬夜くん」

「なんだ?」

「私冬夜くんに助けられてばっかりだよ、今も昔も」

「俺だって綾香に助けられてるよ」

「ううん、私は全然冬夜くんの力になれてない」

「そうなのか?」

「うん、だって冬夜くんはずっと私のこと考えてくれてるもん、私だってそれぐらいしたい」

「真似をする必要はないんだぞ」

「それでもだよ、私はずっと冬夜くんの傍にいたいもん」

「そっか……」

「だから私が胸を張って冬夜くんの傍に立てるようになるまで私のこと助けてくれる?」

「もちろん」

「ありがと」


 顔をあげた綾香が満面の笑みで答えてくれる。それを見て俺はようやく一安心する。やっぱり綾香には笑顔が1番だ。


「なんか泣いたら疲れちゃった」

「もう寝るか?」

「甘いものが食べたいなー?」

「……あんまりないぞ」

「なにがあるの?」

「前に作ったプリンかクッキー、後は……」

「プリン!」

「はいはい……」


 綾香の頭を退けて立ち上がる。綾香がプリン♪プリン♪と上機嫌に歌っている。ちょっと甘やかしすぎたかな?と思ったけどまぁこれぐらいでいいかと納得して俺は綾香と自分の分のプリンを取りに行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る