記者会見的な


「おにーさん結構背高いんですね!」

「かっこいい人だね淡水さん!」

「この人が彼氏さんなんだ!」

「ひゅーひゅー!」


 なんだこの状況。綾香の後ろにぞろぞろと人が着いてきた時点である程度は察してたよ。けどさそんなに言われるとは思わんじゃん?


「えっと……少しなら時間作るから別の場所に行こうか」


 みんながはーい!といってぞろぞろと着いてくる。ほんとになんなんだこの状況。てか校長先生、見てないで何かしら手伝って?というか授業は?






 関正かんせい高校は月曜日と金曜日は学校が終わるのが早く俺達が話し合いをしてる間に学校が終わっていたのだ。それで綾香がちょうど帰えろうとしたから着いてきたら俺がいたというわけだ。今日は帰っていいと言われたわりにはもう一日が終わる頃だとは、時間が経つのは早いな。


 まぁなんとなく予想はしてて着いてきたらいた、という事を1人の女子生徒に教えて貰った。流石に全員と話すのは厳しいから1人話す人を決めて貰ってその子と話をしている。


「それじゃあ質問してもいいですか?」

「どうぞ」


 ちなみに校長室で話をしてます。はい、校長先生が場だけ提供してくれました。その本人はちゃっかり自分の席に座って話を聞いています。


「お付き合いはいつからされてるんですか?」

「えっと……綾香、俺達っていつから付き合ってんの?」

「……確かに、私たちっていつから付き合ってるんだろうね?」

「まぁ幼なじみで昔からよく一緒にいて気付いたらって感じかな」

「多分そうだね」


 一応婚約者ってことは隠して話す。それを言うと余計に面倒くさそうな気がしてくる。


「ほうほう、幼なじみ……と」

「そうだね」

「では、お二人は今一緒に住んでるって本当ですか?」

「それは本当だよ。住み始めたのは先週からだけどね」

「まだまだ日は浅いんですね〜」


 この子なんか記者の気分でやってそうだな。こういうのって質問する側が絶対楽しいよな。俺は学生時代から質問される側の方が多かったからちょっと羨ましい。


「同棲してると言うことですが、ハプニングはなにかありましたか?」

「ハプニングって……アニメみたいな?」

「そうです、綾香さんがお風呂に入ってると知らず……みたいな」

「それはないし、今後も無いように徹底してる」

「それはいい事ですね」

「私としてはいつでもウェルカムだよ?冬夜くん」

「お前はなにを言ってるんだ」

「あいてっ」


 綾香にチョップをかます。周りがあの淡水さんがそんなことを!?とか言ってるけど綾香は学校でどんなキャラやってるんだよ。絶対お嬢様キャラとかやってるだろ。


「淡水さんは家では今みたいな感じなんですか?」

「好きな人の前だと仮面なんてつけないよ」

「学校のイメージとは真逆ですね……」

「みんなに嘘をついてるわけでもないんだけどね」

「もちろん理解してます。キャラ付けは学校では大事ですから」


 よく考えたら学校で本心で話し続けることなんて無いよな。ある程度自分を演じる訳だし。自分では本心で動いてるつもりでも案外少しでもよく見られるように演じてるし。


「お家での淡水さんが見てみたいですね」

「あんまり見せるつもりはないよ?」

「ではちょっと機会を大切にしないとですね!」

「そうだね、というかいつまでその口調なの?」

「え?こういう場ってなんとなく記者の真似しない?」

「するけど……記者ってそんな感じだっけ?」

「私もわからないから適当にやってます!」


 俺話題からそれてそうだし帰っていいかな?


「それでは次の質問───」


 それから約十数分俺達は質問攻めにあった。






「七草くんちょっといいかな」


 みんなが校長室を出ていって俺達も出ようとした時に校長先生に呼び止められる。


「なんでしょうか」

「君はこの学校にいた時なにを思っていたのかな」

「……どういうことでしょうか」

「少し知りたくてね。この学校は君のいた3年間で大きく変わった。受験の競争率なんて倍以上になった程だ」

「そうなんですね」

「君には感謝してもしきれないが、なにがそこまで君を動かしたんだい?」

「なにが……ですか……」


 確かに俺はこの学校において異常ともおける変革を行った。その原動力と言えばやはり───


「綾香の存在ですかね」

「ほう」

「綾香が俺の後をついてきてここに入学するのは明らかでしたから。綾香が来た時に少しでも楽しい生活を送れるようにしたかったんです」

「それが君の愛なんだね」

「そうですね」

「ならそれだけの能力はどうやって手に入れたんだい?君は高校生にしては随分と高い能力を有していたけど」

「それに関しては中学に入ってからずっと自分を高めてきたからですよ」

「中学生にそんな思考が出来るのかい?」

「条件さえ揃えば可能だと思います」

「その条件は?」

「ここでは言えませんよ。先生を信頼してないわけではありませんがこれに関しては運みたいなものですし」

「そうか、なら詳しくは聞かまい」


 そう言って先生はこの話からひいてくれる。


「時間を取らせてしまったね」

「いえ、これぐらいなら」

「君には改めて感謝を、それと今日は迷惑をかけてすまなかった」


 校長先生を頭を下げる。


「気にしてないですよ」

「そう言って貰えると助かる」

「では」

「あぁ、またね」


 校長室を出るとすぐ横の壁に綾香がもたれかかって待っていた。


「ごめん、待たせたな」

「ううん、いいよ」

「帰ろっか」

「うん!」


 俺は綾香の手を握りながらさっき先生に聞かれたことを思い出していた。


 俺がこれだけの能力を持てたのは一重に環境のお陰だろう。やりたいと思ったら出来たし、なんでも教えてくれる人がいた。そして綾香の存在があった。


 ちょうど時期的にも俺は自分がもっと成長しなきゃという思いがあったしな。始まりはある事件だが。


「今日の晩御飯はなに?」

「今日はカレーだな」

「辛さは?」

「自分で作るしな……まぁ中辛ぐらいじゃないか?」

「作るの手伝うね」

「それよりも先に洗濯物を頼む」

「もちろん終わってからだよ」

「じゃあお願いしようかな」

「任されました」


 綾香が可愛く敬礼をする。2人で他愛ない話をしながら歩き続ける。


 そんな幸せな時間に俺の中にあった思い出はは消え去っていた。

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