事後処理



 お昼休みは質問責めをされ続けて疲弊し授業でやっと助かると思った矢先に先生によばれる。


 先生に先導されて校長室に入ると校長先生、教頭先生、そして事件を起こした張本人である野崎くんが居た。


「驚いているとは思うが座ってくれ」

「失礼します」


 まぁ驚きも怯えもなにもないので特に感情を出すことなくソファに座る。


「さて今回の事は全て聞いたけど一応本人達からも説明を貰えるかな」


 彼が喋りそうには無かったので私から説明をする。淡々と全てを説明し終えると先生が野崎くんに確認を取る。彼は頷き全てを認めた。


「盗撮に脅迫……よくやったね。学校側としては淡水さんの意見はありがたいが、いいのかな?」

「私が被害者と思われたくないだけです」

「というと?」

「名前なんかは当然公表されないでしょうけど近隣の人とかはわかるじゃないですか、そういうなにも知らない人からの同情とか対応がめんどくさいんです」

「ふむ」

「それにまだ実害は受けてませんし私が望めば内々に済ませれますよね?」

「そうだな、確かにそれは可能だ。それに学校側としてもメディアなどにこういうのが出回るのは避けたい君がそう言ってくれるならそうしたい所だ」

「出来ない理由があるんですか?」

「野崎くんが公表すると言っているんだよ」

「は?」

「今でこそ無言だが彼はとことん君の邪魔をしたいようだね」


 どうやらかなりめんどくさい状況になっているらしい。


「そもそも公表したところで私に被害はないですよ?」

「そうだろうね、君の生活に関しても保護者の説明を受けているし現保護者の方がどういう人間かは我々がよく知っている」

「そう言えば卒業生でしたね」

「そうだ、だと言うのに彼は公表するらしい」

「意味がわからないんですが……」


 なお無言を保ち続ける野崎くん。私は思い切って聞いてみることにする。


「ねぇ、なんで公表しようとするの」

「……から」

「なに?」

「君に嫌がらせがしたいんだよ、完全に負けて終わるのは嫌だから!ならとことんまで食い下がってやりたいんだ!」

「……正真正銘の屑ね」


 本音を包み隠さずにいう。今仮面を被る必要なんて無いだろうしこれをバラされたところで問題なんてないし。


「それで、公表したとして君はどうするの」

「さぁ?どうせ警察にいったって俺は未成年だし、大した問題じゃないね」


 もはや性格すら完全に終わってる彼の言動に私は呆れる。全く理解が出来ないというのはこういうことを言うんだろう。なにか彼を封殺出来るものがあればいいんだけど……


 その時ドアがノックされ2人がこの部屋に入ってくる。その内1人はよく知っている人で


「冬夜くん!?」

「綾香、大丈夫だったか?」

「うん、私は大丈夫だよ」

「ならよかった」

「すまないね、仕事を中断させてまで来てもらって」

「いえ、構いません」

「全員揃った所だしもう一度私の口から現状を説明しよう」


 そうして校長先生の口から再度説明がなされる。冬夜くんと一緒に来ていたのは野崎くんの母親らしく話を聞いて泣きながら彼に怒っていた。まぁそうなるだろう。


「……なるほど」

「彼の為もあるし公表はしたくないんだけどね、我々には現状彼を止めるすべがない」

「少し待ってて貰えますか?」

「構わないよ」


 そう言って冬夜くんはスマホを持って部屋を出る。5分もしないうちに戻ってきて椅子に座る。


「少し待ってて貰えますかね。それで多分対応は取れますよ」

「ほう、なら期待して待っておこう」


 校長先生は待っていたと言わんばかりの笑みを浮かべてそう答えた。



ーー冬夜ーー



 対応をする為の準備を済ませ俺は送られてきた情報を校長先生に見せる。


「なるほど、しかし彼はこれで止まるかね?」

「止まるでしょうよ、そのための情報ですから」


 今度は野崎くんと呼ばれた生徒に一枚の画像を見せる。すると彼は余裕の笑みから一転一気に焦った顔になる。


「な、なんでそれを……」

「お前は本当に捕まっていいのか?今ならまだ引き返せるぞ」


 ちなみに俺の本心は捕まって欲しい。学校や綾香はそれなりに面倒な状況になるだろうが綾香に手を出した奴を放って起きたくはないし、それが未成年だろうが関係ない。


「お前が今回のことを公表するなら。それが嫌なら公表はするな」


 ほとんど脅しのようなセリフ。それでもなお彼は抵抗する。


「お、おれはくっしないぞ……」

「そうか、なら容赦はしない」


 そう言ってメッセージを打ち込み送信する1歩手前までにする。


「これを送れば君の大切な彼女は壊れる。さぁどうする?」

「…………」


 彼は黙り込んでしまう。これは、いやこの人は彼の最も大切な人だ。それが壊されるの知っても彼が行動をするだろうか、いやしない。


「ごめんなさい……俺が、俺が悪かったです。ですからあいつだけは……妹だけは許して下さい……」

「そっか、公表はしないね?」

「はい……もう二度と迷惑はかけませんから……!!」


 彼は泣きながら土下座をする。そう彼の大切な人は妹だ。入院している彼の妹はテレビや人伝にしか情報は伝わらない。彼も捕まったところで知られない確信があったのだろう。だがそれを伝えたらどうなるかだ。


 彼の妹は心がかなり不安定らしく簡単なことで自分を見失ってしまう。なら今の彼女の拠り所である兄が二度と来れない旨を伝えたら簡単に壊れるだろうと確信して俺はこの方法をとったのだ。


 もちろん彼が拒否をしたところで実行はしない。実行しているような動画でも近くで流して彼を後悔させてはいただろうが。


 人の家族を人質に取るなんてどっちが悪者かわからないな。


「七草くん、助かったよ」

「いえ、たまたま伝手があっただけですから」


 今回はたまたま友達が病院で働いていたこと、そして弟が野崎くんの妹と同じ年だったから出来たことだ。ちなみに高校1年生。


「今日は綾香を連れて帰ってもいいでしょうか?」

「そうだね、欠席扱いにはしないよ。それと明日も1日休むといい」

「お気遣いありがとうございます。綾香、帰ろうか」

「うん!」


 俺は綾香と共に校長室を出る。


「ふぅー……」

「すごいね、冬夜くん」

「ん。たまたまだよ」

「それでも助かったよ。ありがとう」

「……別に綾香の為だしこれぐらい」


 まぁこないだの迎えといい今回といい会社には迷惑をかけたので今度同僚や部下の仕事でも手伝っておこう。


「あ、荷物教室に取り入ってもいいかな?」

「そうだな。俺はここで待ってるから」

「じゃあちょっと待っててね」


 そう言って綾香はパタパタと廊下をかけだす。俺は下駄箱にもたれて綾香を待つ。


「七草くん」

「なんですか?」


 校長先生に声をかけられ俺は返事をする。


「今回のこと、急な出来事にしては随分と手際がよかったですね」

「気のせいでは?」

「流石は元生徒会長……と言いたいところですが何をしたのです?」

「別に……なにもしてないですよ。ただ連絡を取っただけです」

「待ち時間、本来なら必要ありませんでしたよね?」

「そうですね」

「あれは情報を集めている風に見せかける時間だったのでは?元々貴方はこの情報を持っていたでしょう?」

「……校長先生にはまだまだ勝てませんね」

「いえいえ、ここまで出来たら十分です。ちなみに理由を聞いても?」

「綾香の為ですよ。あいつには不自由なく過ごして欲しいんです。ですからちょっと情報を集めてただけですよ。もちろん犯罪にならない程度に」

「そうですか」


 もちろんちょっとというのは過小表現だ。実際は綾香に関わりを持ちそうな生徒の集められる情報は全て集めている。


 俺の同級生からの又聞きや弟からの情報など。集めれるものは全て集めた。まぁ実際これが重すぎる愛ってことは理解してるし寧ろ異常ということもわかっている。


 でも俺はそれぐらい綾香を愛している。のように泣いてほしくないから。


「おや、そろそろ時間ですね」


 チャイムがなり綾香もそろそろ戻ってくるだろう。


「お、戻って……なんか人多くないか」

「そうですね」


 帰ってきた綾香には10人近くの女子の集団がいた。そして申し訳なさそうな顔をしている綾香。


 これ絶対ロクなことが起きないやつだ!先学校出てていい!?

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