デート 1
お昼ご飯を食べ終え少しだけゆっくりして、その後今のうちにできる家事をすべてすまして出かける準備をする。それらがすべて終わってから着替えをしていつでも出られる状態にする。俺は男なので着替えなんかはすぐ終わったがまだ綾香は終わってないと思いリビングで待つことにする。
「なんかやってるかな……」
なんとなくテレビをつけて面白そうな番組を探すがどれもぱっとしたものはなく結局動画サイトを開いて料理動画を漁る。それを一本見終わったころにリビングのドアが開き綾香がやってくる。
「お待たせ」
「ん、ならもう出るか?」
「うん、なるべく早く行って買うものをさっさと買っちゃお」
「そうだな」
綾香の服装は暖色を基本にしたシャツとスカートですこしお嬢様感のある服装をしている。まぁ実際綾香はお嬢様みたいなところはあるけどな。
「その服似合ってる、可愛いよ」
「……っぁ、ありがと……」
「そんなに照れなくても」
「……不意打ちは卑怯だよ」
「不意打ちって言われても言うタイミングなんて今ぐらいしかないだろ」
「ダメなものはダメなの!」
なんかダメだったらしい。俺は普通に褒めただけなんだけどなぁ。綾香はプンプン!といった感じで玄関に向かう。それでもどこか上機嫌に見えるのは俺の気のせいだろうか?
今回の目的地はショッピングモールで、そこで家にない家電や家具などを揃えていくつもりだ。場所は電車で10分ほどの場所なので車ではなく電車で行く予定だ。マンションを出たところで俺はさりげなく綾香の手を取る。
「あっ……」
「これぐらいはいいか?」
「うん、もちろん」
下を向いているが少しはにかむような笑みを浮かべて俺の手を握り返してくれているのできっと喜んでいるのだろう。まだまだどこかよそよそしい雰囲気は消えないがこれからゆっくりと段階を踏んでいければいいと思う。
「とりあえず駅に行くんだよね?」
「そうだな、んで電車に乗ってショッピングモールに行く感じだ」
「電車の運賃ぐらいは出すからね?」
「別に出さなくてもいいのに」
「それぐらいは出しとかないと冬夜くんはなんでも自分で出しちゃうでしょ」
「あー……そんな気がする」
いくらお金に余裕があるからと言っても全部出せるわけじゃないしこれぐらいは綾香に出してもらおうか。まぁ綾香の両親から毎月食費やらの生活費はある程度振り込みますって言われてるから電車ぐらいなら問題ないんだけどな。
「えへへ……冬夜くんとデート……」
なんか可愛いこと言ってるんですけどこの子。というか外でその緩んだ顔をしないでほしい。誰かに見られたらどうするんだ。
「綾香、うれしいのはわかるが顔と声に出てるぞ」
「……さっきまでのことは忘れて」
「可愛かったからやだ」
「むー……!」
綾香は手をつないで無いほうの手で俺をポカポカと叩いてくる。それがまた可愛いいからあやすように綾香の攻撃を受ける。綾香にわすれてなんていわれても初デートなんだし絶対わすれないだからこの際とことん可愛がってやろう。
「冬夜くんなんかよくないこと考えてるでしょ」
「そんなことないよ」
「絶対考えてた、そんな顔してたもん」
「そんな顔に出てたか?」
「出てはなかったけど私にはわかるもん」
「なにその特殊能力」
「冬夜くんが好きだからできることだよ」
「それ言ってて恥ずかしくない?」
「……冬夜くんのばか」
「俺絶対悪くないよな!?」
勝手に自爆した綾香をみていると徐々に周りから視線を感じ始める。駅に近づいているから人も多くなってきたのだろう。綾香も視線を感じたのか学校で見せていた雰囲気を纏う。俺も綾香に合わせて少しだけ意識して自分を見せる。多分ある程度は釣り合っているようには見えるだろう。
「えっと……目的地はあそこだから……」
切符売り場で綾香が目的地と照らし合わせながら買う切符を選んでいる。電車通学ならICカードで行けるんだろうが綾香は徒歩で通学しているから持ってないのだろう。今度買っておくか。
駅のホームに出ればすぐに電車がやってくる、これは都会の利点だな。時刻表なんて見なくても電車がそれなりの頻度でやってくる。田舎に出張で行った時は1時間に1本とかがザラにあって普通にキツかった。
「結構人多いね」
「そうだな」
電車にはそれなりに人がいて声を抑えてひそひそと話す。ちなみに位置取りとしてはドア付近にたっていて綾香がドアに背を預けて俺が綾香の正面に立つ形だ。
「なんか緊張しちゃうね」
「これ以上の距離にいただろ今日」
「それとはちょっと違うんだよ」
「そうなのか……うぉっ!」
「きゃっ!」
突然電車が大きく揺れて体制を崩す。車内放送で申し訳ない的なことが流れているが俺の気は別のことにとられていた。
先程も言ったように俺は綾香の正面に立っていて綾香はドアに背を預けている。もし姿勢を崩すことがあるなら俺は綾香の方に倒れるだろう。
まぁそんな長々としたことを言わずに端的に言えば俺は今綾香に壁ドンをしている。……なんか今日こういうハプニング多くない?
「……ドキドキするね」
「あぁ……す、すまん!すぐに離れる」
一瞬放心していたがすぐに正気に戻り綾香から離れようとする。すると綾香が服の裾を掴んでくる。
「もうちょっとこのままでもいいんだよ?」
とそんな悪魔の囁きをしてくる、普通に不味い。多分出かける前に香水とか付けたのだろう。すげぇいい匂いがするしなによりまだこの距離感になれていない。お互いの息がかかるほどの距離感では俺がまともな思考なんて出来ないことをこの数日で思い知っている。
「……周りの目もあるし離れさせてくれ」
「そっか、残念」
それでも本当に残念は思ってないような口調でそういう。多分理解してくれたのだろう。というかちょっと悪い笑みを浮かべているからイタズラに近かったのかもしれない。
最初からこんな調子でデートは大丈夫なのかとこの先に不安を募らせながら電車は進んでいく。
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