引越し

 

 綾香となんやかんや合った次の日。今日は綾香の家具などが届く日で俺達は朝から忙しなく働いていた。ベッドやら机などの大きいものからぬいぐるみなどの小物。さらには綾香の両親が入れたであろう皿など……まぁまぁな量が届いた。


 が、ここで1つ問題がある。現在俺と綾香は気まずい状態なのだ。業者と話している時こそ問題ないものの2人きりになった途端に一気に空気が重くなる。


 しかもそんな時に限って手が触れ合ったりなんでもない時に目が合ったりとしてどんどん変な方向に向かっていくばかり。今日お出かけするなんて言ってたけど一体どうなることやら。




 作業は昼前に全て終わりPCなどの配線系も手早く済ませて無事お出かけはできるようになった。


「これで大丈夫か?」

「うん、ありがとう」

「おう、それでお昼は出かけれるか?」

「いけるよ、ご飯とかは決まってるの?」

「まだ決めてない、なにか食べたいのはあるか?」


 ベッドに座る綾香が考え込むのみて俺も少し力を抜く。流石に身体が疲れた。仕事をしだしてから運動をする機会も減っていたし体力もそこそこ落ちているようだ。


 だからこそハプニングはおこるのだろう。ちょっと疲れていた俺は椅子に座ろうと歩き出したところでつまづいてしまう。反射的に倒れても大丈夫な方向、つまりベッドのに方に倒れる。けどそのベッドには今綾香がいるわけで……


「きゃっ……!」

「……」


 俺は綾香に覆い被さる形で押し倒してしまう。目の前には綾香の整った顔があり、作業をした後だからだろうか、ほんのりと紅く染まった顔はいつもよりもさらに扇情的に見える。


 幸いなのは作業をする為に衣服はしっかりしていたと言うところだろうか。もしこれが薄いタイプのものやダボッとしたかんじの緩いものならもっと俺の理性は危うかっただろう。


「えっと……すまん……」

「ううん、大丈夫だよ。冬夜くんこそ大丈夫?」

「あぁ、ちょっとつまづいただけだ」


 そんな会話をしている間も俺と綾香の距離感は変わってない。いつもより激しく心臓が動いているのがわかる。バクバクとなる心臓の音がする綾香にも聴こえそうで汗が頬を伝う、その時だった。


「あ、綾香!?」


 綾香が両手を伸ばし俺を抱き寄せる。先程まであったほんの少しの隙間はあっという間になくなり俺と綾香の距離はゼロになる。心臓がさらに激しく鼓動する。お互いの顔が見れないのが残念なのかそれとも幸いなのかわからない。でも小さな吐息すら聴こえるこの距離では顔が見えるかなんて関係ないだろう。


「綾香……なにして……」

「ちょっとだけぎゅーってさせて」

「……なんで」

「んー?頑張った私にご褒美」

「それ自分で言うことなのか……」

「冬夜くんもご褒美欲しい?」

「……いやいい」

「私とぎゅーって出来てるから?」

「…………そうだよ」

「なにー?きこえなーい」


 俺の細々とした声は聞こえないといったように綾香は元気よく返してくる。聞こえないはずなんてないのに。


「俺も……綾香といれるからそれでいい」

「ん……私もだよ」


 しばらくベッドの上で抱き合ったままの時間が続く。綾香がどんな顔をしているかわからないがきっと幸せそうな笑みを浮かべているのだろう。俺も多分そうだ。


 ……でも綾香の身体が全身でわかるのはやばい。その、いろんなところが当たって正直気が気でない。女の子なんだってわからせられるような柔らかさ、そして普段は意識しないが綾香の人よりかは大きな双丘。それが全身で感じれて本当にやばい。


「とうくんの心臓すごいドクンドクンいってるね」

「……あやだってそうだろ」

「そりゃ嬉しいしちょっと恥ずかしいもん」

「なら離してくれ」

「だーめ」


 そういうとさっきよりも更に強く腕を回してくる。より綾香のことが感じれるようになる。さっきまでは荒かった息もようやく落ち着いたと思えば綾香のいい匂いがしてきて頭がクラクラしてくる。このままおかしくなってしまいそうだ。


「とうくんいい匂いがする」

「それはあやもだろ……」

「そうかな?汗で変な匂いだったりしない?」

「あやなら汗かいてたってきっといい匂いだよ」

「なんかそれちょっと変態っぽいよとうくん」

「そっちだって同じこというくせに」

「あはは、バレちゃった」


 お互い離れたい気持ちなんて微塵もなくて気づけば俺も綾香の背中に手をまわしている。この幸せな時間がずっと続くように、なんて感傷的に願いながら。


 いつの間にか今日の気まずい空気なんて消えていてとうに甘ったるい幸せな空間に変わっていた。まぁ最初からお互い恥ずかしかっただけだしな。


「いつまでこうしてようか」

「んー……ずうっとこうしてたい」

「それじゃあ買い物行けないぞ」

「それはダメだね」

「それにご飯も食べれない」

「私もお腹減ってきちゃった」

「……なぁちょっとだけ予定変更しないか?」

「なにー?」

「お昼ご飯は家で食べて晩御飯を食べに行かないか」

「私はいいけど、どうして?」

「もっとこうやって抱き合っていたい」

「……それずるくないかなぁ」

「そうしてでも一緒にいたいんだ」

「じゃあしばらくこうしてよっか」


 こうして俺達はしばらく抱き合ったままベッドの上で時間を過ごした。幸せな時間というのは早く過ぎていくもので綾香のお腹がかわいい音でなってようやく俺達はお昼ご飯を作り始めた。


 なんとなく時計をみて抱き合っていた時間を逆算すると30分近くも抱き合っていたらしい。そりゃお腹もすくわけだ。


 お昼ご飯は2人でキッチンに並んで一緒にパスタを作って食べた。お互いちょっとだけ頬を染めながら食べるお昼ご飯は上手く味を感じれなかった。

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