綾香の苦悩2

 体育も終わり教室に戻る。うちの学校の体育は2時間続けてやるので次の授業が終わればお昼休みだ。


 それよりも今の休み時間を気にするべきだろうか。さっきからチラチラと視線が鬱陶しい。幸いにもクラスメイトの女子が私の周りで話してくれているので近寄っては来てないがそろそろ視線をどうにかしたい。


「あっ、授業始まるね」

「淡水さんまた後でね〜」

「はい、また後で」


 チャイムがなると同時にみんな自分の席に戻る。それと同時に私に集まる視線もほとんど無くなった。


 というか授業始まったのに私の方をチラチラ見てくるのはなに?多分私のことが好きだけど告白してこない人達なんだろうけど……授業ぐらいまじめに聞きなさいよ……。


「はい、じゃあ大石くん。ここを答えて」

「えっ!あっ、はい……」


 私のことをずっと見てきていた1人が当てられて回答につまる。自業自得だなと思い私もそうならないよう授業に集中した。






 授業も終わりお昼休みになる。流石にクラスメイトと話し続けるわけにもいかないので私は桜と教室を出る。


 するとあからさまに1人の男子が近づいてくる。


「あ、あの。淡水さん今日大丈夫だった?」


 下心を隠しもしない露骨な質問。流石に苛立ちを隠せず少し棘のある言葉で返す。


「えぇ、大丈夫です。桜もいる事ですし貴方が心配しなくてもいいですよ」

「で、でも女の子だけじゃ……」

「女の子だけじゃ、なにが困るんですか?私は信頼の置ける人を頼っているだけです。仮に困ったとしても貴方のように半日視線を送ってくるだけで話してもオドオドしているような人を頼ったりはしません」

「う、うぅ……」

「他の方もそうですよ?特にクラスメイトの方々」


 私は周囲を一瞥し少し声を張って話す。


「半日ずっと視線を向けられる不快感を貴方達は知っていますか?下心すら隠しもしないその視線やら言葉がどれだけ不快だと?私に好意があるのはわかります。これは貴方達の行動を見てればわかることですから」


「それにその思いを秘めるだけで一方的に見ていてなにが変わるんですか。せめていいように見られたいのならそれ相応の行動をとってください。とったところで私が誰かと交際するなどありえませんが」


 かなり距離を作るような喋り方で彼らを拒否する。ここまでしてようやく自分たちの現状に気づいたようでざわめき始める。自覚するのが遅いんだよ、私が苛立ちを隠していない時点で終わりなんだし。


「あ、あの淡水さん……」

「話しかけて来ないで下さい。不快です」


 先程話しかけてきた人を一蹴する。


「みんな、早く食堂いこ」

「りょーかい」


 桜たちを連れて廊下を歩き出す。人だかりが私たちを避けるようにして道をつくる。私はその道を歩いて食堂に向かった。


「いやー、大変だね綾香」

「久しぶりに怒った気がする……」

「ほんと人気があるのも大変だね」

「桜たちにも分散されたらいいのに……」

「ほら、綾香はちょっと格が違うし?」


 今回私が1番不快に思ったのは声をかけてきた男子ではなくずっと視線を向けてきた人達だ。見てくるだけの人種が一番気に障るんだから。


 クラスの男子でもまともな人はいるのだ。彼らはよくも悪くも思ったことを自分の口でいってくる、そこに迷いなどない。だからこそ裏表が少なく私も楽に接せるのだ。


 それぐらい堂々としてれば話ぐらいするのに彼らはその努力すらしなかったから仕方ないだろう。まぁその話す機会すら今日完全に失ったわけだが。


「こうなってくると文化祭が怖いね」

「そうですね。例の人を連れてきたらきたで一波乱ありそうです」

「だよねぇ……」

「でもイケメンなんでしょ?」

「そうだよ?」

「仕事も家事も出来るんでしょ?」

「うん」

「なら問題ないでしょ。なにか起きても解決できそうだし」

「綾香さん1人でもある程度はどうにかなりそうですけどね」

「綾ちゃんも強いもんね〜」

「私が強くても今回のことはどうにも出来ないよ」

「人の好意って面倒くさいからねぇ」


 桜が主体となって話を進めていく。私はご飯をさっさと食べ終わり机にダレている状態だ。周りから見れば伏せているようにしか見えないので問題ないだろう。


「はぁ……ほんと憂鬱……」

「しばらくは大変なことになりそうだね」

「私達も警戒だけはしておきましょう」

「あっ!そうだ。いい案があるよ!」

「……桜のことだからロクなことじゃないでしょ」

「婚約者さんに毎日迎えに来てもらうんだよ」

「冬夜くんに迷惑かかるからだめ」

「でもそうしないと今日とか特に面倒くさいよ?」

「それぐらい気にしないよ」

「家の前までついてこられるかもよ?」

「それはもう訴えていいと思うけど」

「とりあえず呼ぼうよ!」

「……もう桜さんが婚約者さんを見たいだけな気がして来ました」

「そうともいう」

「当たってたんですね……」


 冬夜くんに迷惑はかけたくない、けど今日ぐらいは甘えてもいいんじゃないだろうか?そんな気持ちが芽生えてくる。そうなってくると私は甘えたくなるわけで。


「とりあえず今日は呼ぶよ」

「おぉー!」


 桜が大袈裟に拍手をしてくる。絶対今度なにか奢らせてやる。


 そんなことを思いながら私は冬夜くんにメッセージを送った。ちなみに送った内容はこう。


 『今日一緒に帰りたいから学校まで来て』


 ……すっごい誤解されそう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る