同棲1日目


ーー冬夜ーー


 仕事が終わり家に帰る。いつものように洗濯物を取り込もうとベランダに出る。そして干されている洗濯物をみて……


「っ!」


 そう、俺と綾香は同棲を始めたのだ。つまりここには綾香の洗濯物も干されているわけで……ネットが被さっていて隠されてはいるものの、この距離ではそれは意味をなさない。いま俺の視界には綾香の下着があるのだ。


「これ……とってもいいのか……」


 いや、とりこまないといけないのだが触っていいのかという葛藤がある。いくら綾香のとはいえ勝手に下着を触るのもどうかと思う。そんなことを思っていても俺の視線と思考はいまも綾香の下着に支配されている。


 昨晩は理性が守ってくれたが家には俺一人で綾香もいない。ちょっとみるだけならと俺の中の悪魔が囁く。とりあえず取り込んでから考えようと綾香の下着がかかっているハンガーを持ったとこだった。


「ととととと、とうやくん」


 やけに挙動不審な声が聞こえてくる。


「おかえり、綾香」

「ただいま……ってそうじゃなくて!それ!私の……し、した……したぎ……」

「なんて?」


 最後のほうがもにゅもにゅ言ってよく聞こえなくて聞き直してしまう。


「それ……私の下着……だよね?」

「……だな、なにもしてないからな!」

「そ、それはわかってるけど……は、はずかしい……」

「それもそうだよな、ちょっと綾香のだけ先にとってくれるか?俺は風呂の湯いれてくるから!」


 状況のやばさにようやく気づいた俺は逃げるように風呂場に行く。どうにか綾香が返事をしたのだけは聞き取ったが綾香の顔までは見れなかった。




 気まずいまま晩御飯やら風呂やらのやることを終わらせ2人で話せる時間ができる。


「まずは謝らせてくれ。すまなかった」

「ううん、冬夜くんが謝る必要はないよ、私の注意不足だし」

「いや、これは明確に決めないといけないとこだったんだ。決めてない俺が悪い」


 お互い自分が悪いと思いこのままでは平行線な気がしたのでとりあえず話を進めることにする。


「洗濯当番とかを決めておこう」

「そうだね、それがいいと思う」

「けど、俺がしてもいいのか?」

「しばらくは私がするよ、代わりに朝ご飯は作ってほしい」

「わかった、晩御飯は一緒に作るでいいよな?」

「うん、もしいらない時と帰るのが遅れる時は必ず言うことを守れば大丈夫」

「掃除は休日に2人でやればいいか、それぞれの部屋は別として」

「そうだね、今週は私の家具が来るけど」

「そうじゃん……」


 完全に忘れていた。綾香の家具が来るってことはその時間に起きとかなきゃいけないな。いつもみたいに惰眠を貪るわけにはいかない。


「そういや来るのはいつなんだ?」

「土曜日の朝10時だよ」

「……はやいな」

「冬夜くん土日はお昼まで寝てるもんね」

「あぁ……ってなんで知ってるの!?」

「冬夜くんのお母さんから聞きました」


 ドヤ顔でそう答える綾香。それ誇ることじゃないよね?てか母さんは余計なことを沢山吹き込んでそうだな。


「家具ってなにがくるんだ?」

「机とベットと、PCとか色々」

「昼まで余裕でかかるやつだな、それ」

「そうだね〜」

「ならその日はお昼はどこか外で食べることにしようか」

「ん、わかった」

「あと綾香の欲しいものもついでに買っておこう。多分足りないものが沢山あるだろ」

「お金は大丈夫なの?」

「稼ぎだけはいいから」

「……その自信がすごいよ」

「この1年ほぼ使わなかったしな。いい機会だし使っとこう」


 実際通帳には数百万入っている。元々の給料がいいので最低限しか使わない生活だし、本業以外の収入もあるから社会人2年目にしてここまで貯蓄できている。


「そういや綾香はバイトとかしてるのか?」

「ううん。でもなにかしようとは思ってるよ」

「親から小遣いとか貰ってる?」

「通帳に定期的に振り込まれるようにはなってるらしいけど……金額は知らない」

「綾香の両親だからな……毎月10万とか入ってくるんだろうな……」

「私もそんな気がしてる。それでもバイトはする予定だよ」

「わかった。一応やる時は教えてくれ」

「りょーかいっ」


 綾香が可愛く敬礼をする。しかしこうやって一緒にいると綾香の写真を沢山撮りたくなってくるな。


「ふぁ……」

「もう眠いか?」

「うん、ちょっと疲れてるみたい」

「慣れないベットであんまり寝れてないだろうし早めに寝ておけ」

「……うん」


 そう言ってるうちに綾香は首がこっくり、こっくりと揺れている。これ多分寝落ちするな。そう確信した俺は綾香に近寄り、綾香を抱き抱える。


「ん……とうくん?」

「動くなよ、あや」


 綾香の呼び方が昔に戻ったのに釣られて俺の呼び方も戻ってしまうが気にしない。


 俺の部屋のベットまで綾香を連れていきそのまま降ろして寝かせる。お姫様抱っこと言うやつは初めてしたが案外なんとかなるな。


「それじゃおやすみ、あや」

「……んぅ」


 最後に昨日のお返しのつもりで綾香の額にキスをする。しかし、とうくんなんて懐かしい呼び方をされたもんだ。……そのうち俺も隠せなくなりそうだな。



 ――綾香――



 私は困惑していた。確かに眠くなって油断はしていた。そしてお姫様抱っこまではなんとか耐えれた。しかしとうくん、なんて昔の呼び方をしちゃったし冬夜くんはそれに合わせてあやって呼んでくれるし。


 そして部屋を出る直前にキスはされるし……結局そのまま目を開けるのが怖くて目を開けれず心の中でじたばたして寝るのはそれからだいぶ遅くなってからだった。

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