喫茶店にて

 学校が終わってすぐ私は白ちゃんと黒ちゃんの2人に連れられて、というより引っ張られて学校を出た。桜も後ろからついてきていて私が真ん中を歩く(引っ張られてる)形で喫茶店に向かっていた。


 喫茶店は学校を出て直ぐのところにあり幸いにも引っ張られているところは多くの人には見られなかっただろう。これもう一種の誘拐だよね?


「さぁ洗いざらい吐いて貰うよ」


 無理やり連れてきたから、という理由で飲み物などを奢ってもらって席についたらいきなり本題に入られる。誘拐からの尋問タイムだ。


「えっと……なにから話せばいいかな」

「まずお兄さんとの関係から教えて」

「いわゆる幼なじみで私の初恋で今は一応婚約者。年の差は……8歳かな」

「「……」」

「2人とも固まってどうしたの?」

「綾香、その情報量を一気に処理できる人はこの世にいないかな」

「あー……」


 確かに私がそもそも好きな人いないと日ごろ言っているのに初恋が続いていてしかも婚約者という形で。さらに歳の差が8歳もあるんだから普通は困惑するだろう。というか親が公認してなかったら犯罪すれすれな気がしてきた。冬夜くんが未成年に手を出したって言って捕まるのか……なんて呑気なことを考えていると注文したものが届く。


 いまだフリーズしている2人を横目に私と桜はパクパクとポテトを食べる。


「……話は理解しました」

「私はもうパンク寸前だよ~」


 黒ちゃんは机に突っ伏して、白ちゃんはこめかみに手を当ててそう答える。結局2人とも飲み込むのに5分ほどの時間を要した。


「それで今はその人とどうなっているのですか?」

「昨日から一緒に住み始めたの!2人きりで!」

「「…………」」


 先程よりも深い沈黙。というか黒ちゃんは処理限界を超えたね。理解するのをやめた顔をしている。


「えっと……2人は同棲しているということなんですか?」

「そうだよ~」

「それ大丈夫なんです?」

「うん、冬夜くんは大丈夫だよ。寧ろ私が抑えれるかのほうが心配かな」

「綾香、婚約者さんのこと大好きだもんね」

「そりゃあね?」

「どうして好きになったんですか?」

「昔からよく一緒に遊んでくれてね、それで気づいたら好きになってたの」


 徐々に頬が紅らんでいくのを感じながらそう話す。ちなみに理解することを完全放棄した黒ちゃんは今桜と一緒にポテトをつまんでいる。……ハムスターのように。ちょっと頬をつつきたくなる衝動に駆られるがそれを抑えて白ちゃんと話を続ける。


「それで今日は上機嫌だったんですね」

「そうだね」

「しかしまるで小説のような展開ですね」

「私の存在がフィクションみたいなものだし」

「それもそうですね」

「それで話はこれだけ?」

「はい、色々と分かったので。ありがとうございます」

「これぐらいならいつでも答えるし大丈夫だよ~」

「いまは門限とかあるんですか?」

「ううん、ないけどなるべく早めに帰ろうとしてるよ」

「家事でもするんです?」

「うん、洗濯物とか晩御飯ぐらいはわたしがやろうと思って」

「洗濯は下着とかありますしね、特に綾香さんのはそれなりサイズですし」

「私そんなに大きいわけじゃないよ?」

「高校生でEカップあれば十分すぎるでしょうよ」

「白ちゃんはまな板だもんね~」

「もぎ取りますよ、その乳」

「まぁ黒ちゃんがその辺はもらったんだろうね」

「綾香さんより大きいですからね、この駄妹は」


 そういってちらりと黒ちゃんのほうを見る、どうやら追加のポテトをたのんでまたそれを頬張っているようだ。


「ほんとなんでこんな差ができたんでしょうね……」

「私にもわからないよ」

「その点、桜さんは普通って感じですね」

「ん?私がどうかした?」

「いま胸の話をしているんです」

「あー、確かに私の胸は普通ぐらいだね~」

「なので安心しています」

「周りに巨乳がおおいもんね」

「集まっているときの男子の目線で分かりやすいですからね……」

「明らか白ちゃんだけ悲しみの目が混じってるよね」

「まぁそのうちおおきくなるんじゃない?」

「もう高校2年生なんですけど」

「んじゃぁ彼氏作って揉んで貰ったら?」

「揉まれるほどないんですが……」

「とことん悲しいね」


 この話をしていると白ちゃんの気分がどんどん落ち込んでいきそうなので話題を変える。


「そんな桜は彼氏とうまくやってるの?」

「おっとそれを聞いちゃいますか」

「彼氏の話題だしたの桜だしね」

「まぁ上手くやってるよ今回は今のところ問題ないし」

「今度こそ上手くいくといいねぇ」

「確か別のクラスの男子でしたっけ?」

「そうそう、向こうから告白されたんだよ」

「桜も隅におけないね」

「綾香にそれ言われると嫌味にしか聞こえないけど」

「綾香さんこそ告白なんていくらでもされているでしょう?」

「まぁ……うん。あはは……」

「白、地雷踏んだね……」

「あっ!ごめん……」

「大丈夫だよ。私が達観してきてるのもあるから……」


 私自身告白は数え切れない程されてきた。小学生のときからずっと。多い日には1日3回もされた。普通におかしいと思う。まぁ今でこそ落ち着いているが高校に入った直後なんて本当に酷かった。


「まぁ人気者も大変だね」

「でもそれももう解決ですよね?」

「そうだね、文化祭とかで少しづつアピールとかしていくよ」

「それがいいかも。ただ悪化する可能性もあるんだから気をつけてね」

「綾香さんに肉体で勝てる人も少ないと思いますが」

「綾香って冷静になると怖いからねー、普段のぽわぽわ具合からは想像できないぐらい」

「私そんなに怖いかな?」

「怖いから今の立場に落ち着いたんでしょ?」

「それもそうかも」


 1度だけしつこい男子に手を出されかけたことがあってその時反撃したのだがいかんせん周囲に目があるとこだったため広がるのは防げなかったのだ。


「今幸せならいっか」

「そうですね」

「でも幸せならおーけーです!ってやつだね」

「「ちょっと使い道ちがうかな」」


 なんで……せっかく知ってるネタが使えそうだったのに……


 そんなこんなで私たちの放課後は過ぎていった。

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